第15話 10日目、カモン上級鑑定士の鑑定をマスターする

(目には見えないが体内の何処かに魔法陣が存在しているのかもしれない)


色々な職業の人のスキルを見ていて気付いた事である。

庭師のバイトに限らず、料理人や司令官と言った人の持つ道具に魔法陣が組み込まれているのにカモンは気付いていた。

しかし、剣士や魔法使い、自らも含む錬金術師等は魔法陣が組み込まれている道具を使用せずにスキルを使用できている。

生活魔法に関してもそうだ、自分以外の職業の人間が使用する際は各々のスキルを使用する時に使う道具が必要な人間は所持している必要がある。

生活魔法の魔法陣に関して錬金術師であるカモンはその魔法陣を見て理解していた。

そして、遂にそれを目の当たりにしたのがつい先程であった。


「うしっ怖いけど、これが出来ないと話にならないからな」


そう言って右手で左目を覆い隠す。

更に左手を耳の横に宛がってイメージを浮かべる。

焼き付けるのではない、最初からそこに存在しているとイメージするのだ。


「練成!」


人体練成は禁忌である、だがそれは人体がどういうものかを理解していないから失敗する。

元の世界で人体の中に異物を装着しても問題が無い、その知識が在るからこそ迷う事無くカモンは錬金術を自らに施した。

体内に異物を入れると危険、血管内に酸素が入るだけで人は死に至る。

だが現実に心臓にペースメーカー、骨折にボルト、人口臓器やICチップなんかを皮膚内に埋め込んでいる人間が沢山生きている。

医学的知識が無くても、それが日常に溶け込み当たり前として受け入れられているからこそ思い付いたカモン。


そして、カモンには失敗を恐れる気持ちが一切無かったのが良かった。

迷いが腕を鈍らせる、ならば一切の迷いが無ければそこに問題はなくなるのである。

薬草からポーションを作ろうとして失敗しても、もう一度錬金術で戻せる。

ならば失敗しても元に戻せる核心があるカモンだからこそ成し遂げられたそれ・・・


先程ミナヅキがカモンに興奮して詰め寄った時にカモンは見てしまったのだ。

ミナヅキの眼球内に浮かぶ魔法陣を・・・

ミナヅキの職業は上級鑑定士、となればその魔法陣がミナヅキの鑑定スキルを使うのに必要なモノであると連想するのは容易かった。

そして、なによりカモンがそれに驚いたのは魔法陣の形であろう、本来円を描き中に様々な意味のある模様を込めるのが魔法陣。

だがミナヅキの眼球内の魔法陣は立体的であったのだ。

カモンにはその描き方に見覚えがあったのだ・・・


レンチキュラー印刷


名前だけ言われてもピンと来ないだろう、だが誰もが一度は目にした事のあるであろう描写方法。

それが何かと言うと・・・

見る角度を変えると絵柄が動いたり立体感が得られる印刷方法である。

異なる2つの画像を組み合わせて作り出されるそれこそが鑑定士の魔法陣の正体であった。


実際に描く必要など無い・・・

そういったモノであると言う理解と正確な形、それさえ分かっていれば今のカモンには十分であったのだ。

右手から直接魔法陣を描き、左手から重ね合わせるようにもう一つ魔法陣を描く。

完全に交互になるように重なり合った部分は交互に上書きされ遂にそれは完成した!!!


「・・・出来た・・・んだよな?」


実感が沸かない、左目の視力に変化も無く視界がおかしくなる事も無かった。

だがきっと大丈夫だろうとカモンは先程作った水晶を手にして魔石の欠片から魔力を流し込み唱える!


「鑑定!」


不発だったのを確認し水晶に込める魔力の回数を1回増やして再び唱える!


「鑑定!」


そこからは地道な実験であった・・・

気付けば日付が変わってもカモンは続けていた。

自分の仮説が正しく魔法陣にミスも無い、そう信じていたからこそ続けられたのだ。

ミナヅキの依頼の水を作るのは1時間も掛からない事を知っているからこそ無駄に時間を費やした結果、カモンは遂に辿り着いたのであった!


「鑑定!っ?!うわわわわわわわわっ!?」


実に生活魔法1409回分の魔力を注ぎ込んだ時にそれは発現した!

突如現れる左目だけに浮かぶ様々なモノの詳細。

文字でそれは表示されるのだが、その膨大な量に文字同士が重なり合って視界が一瞬で真っ黒になってしまったのだ。

魔力の消費量、見えた物の詳細、それらが膨大な量になったのは視界に映る全ての物を鑑定してしまったからなのと、カモンが左目に練成した魔法陣が上級鑑定士の使う鑑定魔法用の魔法陣だったからなのだ!

だがカモンにとっては初めての鑑定士の視界、一瞬で真っ暗になった事で失明したのかと驚いたのは言うまでもないだろう・・・

そして、これがカモンを完全なチート人間になる切欠となるのであった。

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