第14話 10日目、カモン真理の扉を叩く!

「やはりこの水は使える!」


上級鑑定士ミナヅキはカモンの作った純粋な水を使ってとある実験を行なっていた。

それは彼が行なおうとしていた事に間違い無く必要となる物である事をこの時実感していた。


「媒体としてはこれ以上の物は間違い無く存在しないだろう、これで我が一族の野望が・・・」


完全な水、それは一切の不純物が混じっていない物である。

想像して欲しい、水に砂糖を溶かせば砂糖水になり一定以上砂糖を溶かせば飽和状態となりそれ以上砂糖は溶けなくなる。

不純物が一切混じっていない水だからこそ限界までそれに溶かし込む事が可能なのだ。

確認を済ませたミナヅキは立ち上がり上級錬金術師カオルの元へ向かう。

この水をもっと入手する為に・・・








「はぁ・・・今日から何もしなくて良いって事はやっぱりそう言うことだよね」


カモンは自室でメイドに伝えられた事を再確認していた。

昨日のレイラの試験で城に残れるかどうかが判明する。

もしも不合格であれば城を追い出されて城下町で市民として暮らす事となるのだ。

勝手に召喚して自分勝手な、と言いたい所だが戦争が終わらない事には元の世界に戻す事は出来ないと言うのだ。


「今日から4日間で1人暮らしが出来る様にしろって事だよね・・・仕方ない適当に思いつくもの作っていくか・・・」


カモンは自分が錬金術師なので仕事には困らない、だから城の者も手助けの必要が無いと手出しされていないと勘違いしていた。

物を作って売るだけで生計が立てられると考えれば錬金術師は生活費を稼ぐのに困る事は無いだろう。

これがバイトの様な庭師であれば城から様々な援助があるとカモンは勝手に解釈していた。


「練成!」


1人暮らしを行なう上で一番必要となるのはやはりこれだろう!

そう考えてカモンは適当に部屋に置かれたシーツなんかを圧縮していく・・・

中から空気を抜いて布団圧縮パックの様に極限まで小さくしたそれを広がらないように同じく作った筒の中へ入れていく・・・

錬金術で何でも作れるとは言っても素材が無ければ話にならない。

その為、カモンは使えそうな物は片っ端から練成し小さくコンパクトにしていった。


「後は魔石も予備の予備まで貰っておこうかな」


基本的にカモンが自由に使って良いとされているのは魔石の欠片である。

本来であればそれは乾電池よりも使い道が少ないのだが、カモンの手に掛かれば極限まで魔力を溜め込んだ魔石と化す。

そうこうしていると2時間もせずに予定していた準備が全て終わってしまう・・・


トントントン・・・

「カモン君、居るかい?」


支度が全て終わってしまい残りの時間でカオルにお別れにプレゼントでも作ろうと考えていたカモン。

突然ノックと声が聞こえてドアに声を返す。


「あっ居ますどうぞ」

「失礼するよ」


ドアを静かに開けて入ってきたのは上級鑑定士ミナヅキである。

その顔はこの数日間で見た事のない程嬉しそうに口角が上がっていた。


「ミナヅキさんどうしましたか?」

「いやね、この水をカオルさんからカモン君が作ったと聞いてね」


そう言って小さな瓶に入った水を見せられてカモンは首を傾げる。

水を作った記憶なんてカモンには無いのだから仕方ないだろう。

それはポーションを作ろうとして失敗したので薬草と水に戻した時の物。

そう言われてもカモンには全くピンと来ないのだ。


「えっと・・・イマイチ記憶に無いのですが・・・」

「そんな筈は無いだろう!4日前の事だよ!」

「ミッミナヅキさん?!」


気付けば近くまで近寄りカモンの両肩に手を置いて詰め寄るミナヅキ。

腐の方が見れば興奮するほど近寄ったミナヅキの顔にカモンも驚き固まる。

だがそんなカモンの様子を気にもせずにミナヅキは詰め寄る。


「頼む、この水をもっと作って欲しいのだ!」

「わ、分かりました!分かりましたから少し離れて下さい!」

「っと、これは失礼した」


普段他人には絶対に見せない態度を晒してしまい慌てて離れるミナヅキ。

異様な雰囲気に少し引き気味なカモンであるがフト4日前の事を思い出していた。

そう、自分が作ったポーションから戻した水と魔石をカオルが持って行った事を・・・


「とりあえずどのくらい必要ですか?」

「そうだな・・・20リットル程できれば欲しいのだが・・・」

「分かりました。少し時間が掛かるかもしれないので2日下さい」

「分かった、何か必要な物があれば言ってくれ。直ぐに用意する」

「はい、分かりました」


そう言って部屋を出て行くミナヅキ、その姿を見送ってからカモンは口角を上げる。

2日と言ったのは勿論フェイクである。

カイオーン王が決めた城からの退去は覆らないのは理解している、だからこそ貰える物は出来るだけ貰ってしまおうと咄嗟に思い付いたのだ。

そして何より・・・


「ミナヅキさんから良い置き土産貰ったから、忘れないうちに作ってしまおうか・・・」


そう言って今まで使う事の無かった透明な水晶を一つ手にしてイメージを浮かべる。

ここへ来て10日、カモンは様々な職業を持つ人のスキルを見て一つの仮説を立てていた。

そして、それを遂に実証する物を作り上げるんであった。


「練成!」


本来違う職業の人が持つスキルは使用できない。

だがそれは何故か?

カモンが考えたのは魔力の出力である。

こんな話を聞いた事はあるだろうか?


日本で使用していた電化製品を引越し時に持って行き海外で使用すると使えない。

その理由は電圧の違いである。


つまり職業毎に使用できるスキルには使用する際に一定基準となる魔力を消費する必要が在ると言う事なのだろう。

簡単な火を灯す生活魔法『トーチ』

これが誰にでも使える事がずっと疑問だったカモンは遂に一つの真理に到達していたのだ。


生活魔法の消費MPが1だとする、これが最低基準で各々の消費MPが素数で宛がわれているのだとすれば・・・

それは一つの真理であった。

MPが3必要な攻撃魔法は最低消費MPが7の倍数しか使えない剣士には使う事が出来ない。

ならばどうすれば良いか?

生活魔法が誰にでも使えると言う事は最低消費MPを最低消費MPで割る事が出来る。

今度はそれを好きな倍率で変換出切る物を作り出せば良いのだ。


「よし、それじゃあ・・・怖いから左目だけで・・・」


水晶の増幅器は完成した。

今まで錬金術で何倍もの魔力を自由に扱ってきたカモンだからこそ感覚的に作る事に成功していた。

作り自体は単純である、使いたい回数だけ生活魔法と同じ魔力を込めれば良いのである。

そして、カモンは真理の扉を今叩いた!

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