第11話 8日目、自主練習で気付かない数々の異常

「駄目だ・・・全然訳が分からない・・・」


昨日のエンチャントが結局上手く行かなかったカモン、今朝起きてからずっと苦悩していた。

最初のエンチャントで魔石の欠片を使い切ってしまってからカオルが色々とエンチャントの見本を見せてくれたのだが・・・

初歩で基本と言われた炎のエンチャントが先ず理解できなかった。


「燃える剣・・・なんで切断面が燃えるんだ?」


触っても熱を持っておらず、触れても鉄の冷たさを感じるだけで違和感は一切無い。

だが何かを切断するとそこが発火するのだ。

剣自体に炎属性を付与したとカオルは説明したがカモンには理解できなかった。

他にも基本と言われた鋭利のエンチャントをした杖が木材を切断する光景にも意味が分からない・・・

丸みを帯びた杖がザクッと木材に刺さったのだ。

それを思い出しながら何度も失敗し続けている1本の剣に目を向けて呟く・・・


「はぁ・・・こんなんで明日までになんとかなるのかよ・・・」


そう独り言を言いながらカモンは昨日のカオルの言葉を思い出す。

昨日の訓練所で見本を見せ終わった後、背中を蹴るのではなく真正面から見詰め合って口にされた言葉・・・


『明後日までに何か国にとってお前が使える人間だと示す結果を出してみろ、それが出来ないのならもう私から教える事は出来ない・・・』


普段とは違った深刻そうなカオルの表情にカモンは言葉を失っていた。

出会ってから数日だが初めて見たカオルの表情に危機感を感じたのだ。

このままでは見捨てられる、そう考えたカモンは訓練所から自室へ戻ってずっとエンチャントの特訓を繰り返し、いつの間にか寝てしまったのだ。

目の前に在る錆びて使い物にならなかった剣だったもの、今では新品同様にカモンの錬金術で修復され刃はとんでもない鋭さを見せていた。

だが、これはカモンの錬金術で新品同様に修復された上に刃先を極限まで鋭く作り直しただけである。

何度も何度も鋭利の付与を付けようとした結果、ナノレベルでの刃先に仕上がっていたのだが・・・

そこに一切の付与効果は存在せず『鋭利』のエンチャントはされていないのだ。


「これじゃあ駄目なんだよな・・・はぁ・・・」


上を向けて置いた刃先に別の鈍な剣を落とす・・・

すると剣が剣で切断され床に転がる・・・

まるでビームサーベルの様なとんでもない仕上がりなのだが、これではカオルは納得しないだろう。

ただ単に刃が鋭利になっているだけで付与は行なわれていないのだから・・・

そう言って再びカモンは剣に錬金術を鋭利になるようにイメージして使用する。


「エンチャント!」


一体何度目か分からない錬金術の仕様。

本人さえも気付いていない、『練成』を『エンチャント』と宣言して行なっている事に・・・

既に詠唱放棄、俗に言う無詠唱すらも可能となっている証拠なのだがカモンだけでなくカオルもそれに気付いていない。

それは当然であろう、無詠唱とは魔法使いが一つの魔法を極限まで極める事で完全な魔法のイメージが寸分の狂いも無く再現できる事で使用できる極意なのだから。

錬金術の様に毎回同じ状況、同じ量、同じ物、同じ環境で使用する事の無いモノとは無縁のものなのだから。

だからこそ気付かない、錬金術を無詠唱で行なえるカモンの異常性に・・・


「やっぱり同じかぁ~」


何度エンチャントを付与しようと考えても出来上がるのは見た目全く同じの剣。

カモンはこれ以上続けても状況に変化がないと考え、気分転換にいつものポーション作成に挑戦する事にした。

結局見た目が同じなだけの色の付いた水にしかならないポーションもどきしか作れない、だがそれでも気分転換になるかもしれないと考えたのだ。


「薬草3枚と・・・」


そして机の上から薬草を3枚手に取って部屋を見回す・・・

ポーションを生み出した時に入れる器を探しているのだ。

そして、思い出した。


「あっそか、師匠が先日持っていったんだった・・・しょうがない、これで我慢するか」


先日の出来上がった水、ミナヅキに完全な水だと器ごと大事に保管されている事は勿論カモンは知らない。

だから部屋に在った小皿を床に置いた。

カオルの様に瓶に入った状態で作る事が出来るのであればこんな面倒な事も必要ないのに・・・

そう考えるカモンであるが、どこをどう考えても薬草3枚から瓶に入ったポーションが作り出せるのか理解できないので諦めるしかない。

そう自問自答して薬草を握り締めて目を閉じる・・・


「練成!」


しかし、この時予想だにしない事が起こっていた。

先程までずっと鋭利のエンチャントを付与するイメージを試行錯誤しながら考えていたのを思い出してしまったのだ。

単に集中力が足りないと言えばそれまでなのだが『どうせ駄目だろう』という諦めと慣れから思考が紛れたのだ。


(そう言えば水を使って金属を切るウォーターカッターなんてのも在ったなぁ~)


本当にちょっと、ポーションを作ろうとしていた時に思考が乱れたのである。

その結果・・・


「あれ?小皿ヒビ入っていたのかな?」


生み出された色の付いたポーションもどきが小皿に落ちると共に小皿の下に流れ出ていたのだ。

慌てて地面に向かって再度錬金術を発動させるカモン。

手に握った魔力が限界まで込められた魔石の欠片の魔力を使う、そのイメージに意識を持っていかれてカモンは勿論気付かない。

直ぐに薬草3枚に戻った事で証拠は一切無くなってしまった。

だが実はこの時、カモンはポーションもどきに『鋭利』の付与を成功させていたのだ。

その結果、小皿を注がれた鋭利の付与がなされたポーションもどきが小皿の底を切断し零れた事に・・・

そして、自身がとんでもない事を行なっている事に一切気付かない・・・

液体に固体にしか付与できない効果を付与したという事に・・・


「はぁ・・・焦った。師匠は明日まで自主練習しろって言ってたからせめて本当に何か出来るようにならないとなぁ~」


そうして一日部屋でエンチャントの練習とポーション作成を行ない続けたカモン。

自覚が無いというのは本当に怖いものである、ポーションもどきを薬草に再練成する時に行なわれた奇跡の所業。

繋がってさえいれば零れた液体でも物質に戻せるという事・・・

言うなれば、湖の端に触れるだけで湖の水全てを魔力さえ足りれば練成出来ると言う事実。

その気になれば、川の水から流れ着く先の海水から塩を抽出する事も可能かもしれないのだ。

だがやはり気付かない・・・



そうしてカモンは色々なイメージを繰り返し、一つのアイデアを閃いた。

確認の為の実験も何度も行った証拠が床に散らばっていた。


「うん、でもこれなら師匠も許可してくれるかな?」


一日試行錯誤を繰り返し『鋭利』の付与が結局出来なかったカモンは、考え抜いた末一つの付与を成功させていた。

その効果を確認したカモンは鋭利になりすぎた剣を握ったまま満足する。

そして、足元に転がる実験結果に頬が緩んだ。


「明日師匠驚くかな~」


カモンは知らない、明日がカオルの最後の査定だと言う事を・・・

10日目にカイオーン王へカモンが使い物になるかどうかの報告がなされる事を知らない・・・

そして、カモンが剣に付与したとんでもない効果に気付く者もまだ居ない・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る