第12話 9日目、最終試験
「よし、それじゃあやって見せるんだ」
「宜しくお願いします」
翌日、カモンは先日来た兵士の訓練場で本番試験を受けていた。
横に立つのは先日兵士になったばかりの女性レイラ。
初級剣士の称号を持つ彼女は本来であれば城内へ足を踏み入れることすら適わない。
だが兵士としてならば条件付で城内勤務が認められるのだ。
それが『錬金術師による付与を施された武具を使える』と言う条件である。
「彼女がここで認められるかもお前に掛かっているからしっかりやるんだぞ」
「はい!」
いつもと違うカオルの態度に少しビクッとしながらもカモンはしっかりと返事をする。
彼女から言われていた通り、今日結果を出さなければカモンは見捨てられるのだ。
だがカモンには自信があった。
燃える剣、なんでも切断する剣、大きさや長さを変化させる剣、無機物を違う物へ変化させる剣・・・
様々な過去の錬金術師が生み出した奇跡的な剣を持つ城内勤めの兵士が遠くで見守る中、カモンはレイラから手渡された剣を受け取る。
「この剣は我が家に伝わる家宝でして、とても軽い素材で出来ている反面、持ち手の技量が低ければ使い物にならないと言われてます」
レイラからそう告げられてカモンは受け取った剣の重さを再認識する・・・
軽い、軽すぎるのだ。
まるで柄しか持っていないような軽さに驚きつつ剣を見て納得する、極限まで軽さを追及したせいなのか薄いのだ。
光りを透かすほどの薄さを持つ剣が本当に使い物になるのかと疑問に思っても仕方があるまい、切れなければ折れるのは当たり前なのだから。
「それでお前はこの剣にどんな付与を施すつもりだ?」
カオルの言葉にカモンは彼女の顔を見詰め返す。
出されたのが普通の剣でない理由、それは錬金術師はその場その場で状況に応じて求められた答えを返せる職人の様で無ければならないと言う事である。
ポーションを作れなかったカモンがこの城で働く為には最低限出来なければならない条件である。
そんないつもと違う真剣なカオルの顔にカモンは答える。
大丈夫、昨日成功させたあれなら絶対に大丈夫だ!
「はい、見てて下さい!」
そう強く答えてカモンは剣を地面に書いた魔法陣の上に置く。
柄に施された模様はレイラの家に伝わる物かと頭を過ぎるが直ぐに意識を集中する。
自分が失敗すれば自分だけでなくレイラも見捨てられるのだ。
責任を持った仕事をする、それはここへ来て初めての事であった。
だがそれも仕方あるまい、錬金術に限らず城で働くと言う事は結果を出せる人間でなければならないのだから。
この国は四方の他種族と戦争中だ、だからこそ自分と言う特殊な力を持つ人間を必要としていると理解したのだ。
もしも自分が戦う事が出来る戦闘職であれば直ぐに実戦投入されていたのであろうが結果は違った。
だからこそ、このままでは城に残れないと言う事実をカモンは理解した。
このままではカオルと離れ離れになってしまう。
昨日そう考えた時に彼女に惹かれていたのに気付いてしまったのだ。
容姿は幼女その物であるが錬金術師として優れた人間で尊敬に値する女性。
彼女を落胆させたくは無い、笑っていつものように背中を蹴っ飛ばして欲しい・・・
自分の異常な性癖に苦笑いしながらも彼女を想う気持ちは嘘ではない!
だからこそ今は成果を見せるのだ!
「いきます・・・」
イメージを浮かべる。
手に握った魔石から魔力を吸い上げ置かれた剣に自分の思い描く力を与える。
昨日何度も成功させてこれならば誰にも真似出来ず認められると確信した付与。
異常を超えた異常を具現化する奇跡の所業!
それが今カモンの手によって実現する!
「エンチャント!」
剣が光り輝きカモンのイメージ通りの付与が与えられる。
カモンが思い描いたそれはお守りであった。
元の世界の神社等で買う事が出来る神様の加護を受ける事が出来るそれを思い描いたのだ。
信じる者は救われる、そんな甘い事を言うつもりは無い、だが結果は信じたものにしか訪れない!
信じると言う事は力なのだと強く意識してカモンは魔力を込め続けた!
「お・・・おいおい・・・」
カオルが驚きに一歩下がる、それはそうだろう目の前で繰り広げられる異常な魔力の放出。
その総量は自身が金を練成した時に匹敵する魔力量なのだから。
自分が全力で錬金術をしようした時と同僚の魔力を一瞬で膨大に放出しているのだ。
それがどれ程異常な事なのかはこの場に居るカオルにしか分からない。
カモンは数日自分が魔力を使えないほど疲弊する魔力を涼しい顔で使用しているのだ。
そして、剣にその魔力の全てが注ぎ込まれる。
まるで剣そのものが生まれ変わる様な光景にレイラは口元を両手で覆って驚く。
やがて光りが納まりカモンは剣を見詰め小さく「ふぅっ」と息を吐いた。
魔法陣の上に置かれた剣に違和感は無い。
そう、違和感が無いのだ。
普通付与が施された武具と言うのは見ただけで魔力を帯びていたりするのが分かる。
それは魔力を扱えるものであれば鑑定士でなくても分かるものなのだ。
だが目の前の剣にはそういったものが一切無かった。
「出来ました」
そう言ってカモンは剣を拾い上げレイラに手渡す。
恐る恐るそれを手に取ったレイラは柄を握ったり剣を眺めたりして確認をするが変化は一切見られない。
一体何が付与されたのか理解が及ばない二人は剣を眺めながら思考を巡らせていた。
その様子にカモンは手を差し出した。
「これを使って実験してみて下さい」
それは木で作られたサイコロであった。
カモンが錬金術で作った綺麗な形のサイコロで一面にだけ黒で○が描かれている。
一瞬疑問を持った二人であるがレイラがそれを手にとって質問を返す。
「これは何に使うのですか?」
「○が上を向くと言うのを信じて転がしてみて下さい」
「はぁ・・・」
言われたままにレイラはサイコロを地面へ向けて転がす。
するとサイコロは○が上を向いて止まった。
「ねっ?」
カモンが嬉しそうにレイラに微笑むが二人は困惑した。
一体何が「ねっ?」なのかが分からないのだ。
恐る恐るカオルはカモンに尋ねる・・・
「なぁ弟子・・・お前は一体何を付与したんだ?」
「そうですね、言うなれば運が良くなる付与ですね!」
「・・・」
自信満々に答えたカモンに呆れた顔のレイラとカオル。
開いた口が塞がらないとはよく言ったものである。
ワナワナと握られた拳に力が入りカオルの顔から表情が消えた。
そして、ドヤ顔のカモンの背後に一瞬でいつもの様に回りこみ背中に蹴りが叩き込まれた。
「ありがとうございますぅううう!!!!」
吹っ飛んで何故かお礼を言いながら地面を転がるカモン。
本人にとっては御褒美なのだから当たり前である。
だが続けてカオルから言い放たれる。
「アホかお前は!剣に運が良くなる付与をして一体なんの意味があるんだ!!!」
カオルがそう叫ぶのも無理は無いだろう。
錬金術師にとって確率と言うものは意味を成さないのだから。
同じ製法、同じ分量、同じ条件であれば同じ結果を齎すのが錬金術。
コップ1杯の真水に砂糖を入れれば溶ける、何回やっても同じである。
だからこそカオルもレイラも気付かない、カモンが付与したとんでもない効果に。
サイコロを振って狙った目が出る確率は約16%。
そして、昨日カモンが実験した通り10回狙った目が出る確率は60466176分の1・・・
実に0.00000001%・・・実に1億回に1回だと言う事に誰一人気付かなかった。
それは運が良くなる所か神の加護や確率変動すらも生温いレベルであると言う事・・・
カモンが付与したこのエンチャントの真の名は・・・
『運命選択』
望んだ結果を自由に選択できるとんでもない付与なのであった。
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