第9話 6日目、カイオーン王への報告
「このボケェ!」
「ヘボッ?!」
カオルが金を練成した疲労から部屋にも戻れないと言う事で今日一日は自室でポーション作りの練習を言い渡されていたカモン。
時刻は夕方に指しかかっており魔力が回復したのか黄緑から緑に髪の色が戻ったカオルがカモンの部屋を訪れていた。
そして、部屋に入ると同時にその光景を見てカモンの背中に前蹴りを放ったのだ。
「あいてて・・・し、師匠もう大丈夫なんですか?」
「おかげさまでな、それよかお前これはどういうことなんだ?」
「えっ?」
カオルの表情が怒りに染まっているのは直ぐに分かった。
怒った顔も可愛いのは仕方ないとしてカモンにとっては何故怒られているのか理解が出来なかった。
言われた通り朝からずっとポーションを練成しようと試行錯誤を繰り返し頑張っていたのだ。
「いえ、でも師匠これは・・・」
「口答えすんな!」
「ホゲッ?!」
一瞬で後ろへ回り込んで背中を蹴られるカモン。
微妙に笑みを浮かべているのを悟られないように困った様子で起き上がって直ぐに気付いた。
(そっか、師匠はまだ僕が練成した物を戻す練成が出来るようになった事を知らないんだ)
そう、部屋に用意されているのは僅かばかりの薬草と少量の水、そして数個の魔石の欠片だけなのだ。
朝から夕方までこの水の分しか錬金術の練習をしていないと勘違いされたのだと気付いた。
だが説明しようにも口答えすれば途中で背中を蹴られる。
だからこそカモンはどうしようかと考えていたのだが・・・
「返事しろこのボケェ!」
「ウボァッ?!」
どちらにしても蹴られる運命なのであった。
時間も時間と言う事でその後の説教は短くて済んだのだがカオルはカモンのやる気の無さに失望していた。
努力を続ける点に置いては見所のあるヤツだと考え昨日の金練成を見せたのだが、逆に自信を無くさせてしまったのかもと考えていた。
「とりあえず今日はここまで、明日はもっとビシビシいくから覚悟しとけよ!」
そう言ってカオルはそこに在った魔石の欠片と少量の水を手に持って部屋を出て行く。
どのくらい完成に近付いたか調べてくれるのだとカモンは考えてその行為に一切口を挟まなかったのだが・・・
(はぁ・・・これで決まりだな)
カオルがそれを手にした理由は全く別物であった。
王の間、カイオーンの前で跪くカオルは指示通りにカモンの途中経過を報告しに来ていたのだ。
「昨日は大儀であった。それで、あの錬金術師はどうだ?」
「こちらをご覧下さい」
そう言って差し出したのはカモンが部屋でポーションを作り出そうとして練成した水。
それをカイオーン王の横に立つ上級鑑定士ミナヅキが目を細めて告げる。
「ただの水ですね・・・」
「そうか、やはり下級錬金術師で出来損ないであったか・・・」
カオルとしても本来であれば弟子であるカモンの援護をするべきなのだろう、だが今日一日サボっていたと勘違いしているカオルからその言葉が出ることは無かった。
溜め息を一つ吐いてカイオーン王は額に手をやり首を横に振る。
それがどういう意味を成すのかこの場に居る誰もが理解していた。
「後4日だ、それで最低限低級ポーションが作れないのであれば・・・」
「ハッ」
当初の予定通り2週間、つまり14日でカモンは・・・
それを判断するのが4日後の10日目という事がこの場で決まってしまった。
カオルとしても出来る事ならば助けてやりたいとは思うが本人にやる気が無いのであれば仕方が無い。
城を追放されて城下町の住人になるだけだとカオルはいつものように短絡的に考えていた。
まさか召喚された者が町の住人に誰一人としてなっていない等とは考えもせず・・・
自室に戻ったカオルはローブを脱いでベットに腰掛ける。
色々と今回の弟子は訳の分からないヤツだなと苦笑いを浮かべながら横になるのだがフト思い出した。
「おっとそうだったそうだった、魔石の欠片だったな」
そう言って下着姿で起き上がったカオルは自分のローブのポケットから魔石の欠片を一つ取り出す。
弟子のカモンがポーション作成の際に使った余りと思われる魔石の欠片、それを持ってきた理由が・・・
「丁度照明の魔石切れてたから忘れるところだったよ、よしこれて・・・えっ?!」
そう独り言を言いながらカモンの部屋から持ってきた魔石の欠片を照明の欠片と交換する。
その瞬間であった。
照明がとんでもない輝きを発し部屋が一瞬にして光に包まれたのだ!
あまりに強烈な光は咄嗟に目を瞑ったカオルの眼球を焼いてその皮膚に軽い火傷を負わせた!
「ぐぁっ?!」
ローブを脱いでいたせいもあり全身にモロにそれを浴びたカオルは光に吹き飛ばされた。
だがそれも一瞬の出来事であった。
照明があまりの出力に破裂したのだ!
そのお陰でもあってカオルの火傷は大した事は無く、直ぐに部屋に常備していた中級ポーションで目と火傷を癒す。
「あいたた・・・一体なんだったんだ???」
破裂した照明をボヤける視力で見ながら煙を上げて治っていく火傷の痒みに震えるカオル。
少女が下着姿で震えている様にしか見えない光景であったが、幸い突っ込みを入れる者は居らずカオルはローブを着て照明の欠片を掃除する。
落ち着いてから原因を調べるついでに照明を練成で修理しようとした時であった。
「はっ?」
錬金術師は錬金術を使用する際に自身の魔力を使って使用するか、魔石の魔力を使って使用するかを選べる。
一定範囲内に魔石があればスキルを使用する際にその魔力の存在を認知できるのだ。
だからこそその時初めて気付いた。
照明にハマッている魔石の欠片からとんでもない高純度の魔力が放出されていたのだ。
「な・・・なんじゃこりゃ?!」
本来であればありえない事である、充電が100%なんて生易しい物ではなかった。
例えるならラジコンカーにロケットエンジンを積んでいるような高純度の魔力。
それこそがカモンが魔石の欠片の魔力を使用しながらそれを元の形に練成し直していた結果であった。
理論値、理論的に出せる最大の数量の事を示す言葉であるがそれがどういう意味なのかを理解している者は非常に少ない。
例えば1リットルのペットボトルサイズの容器に入る水の最大量は?
これを1リットルだと考えるのは非常に短絡的といえるであろう、例えば圧を加えれば水の体積は減る。
そうなれば1リットルの容器にそれ以上の水が入るというのは用意に想像できるであろう。
そして、カモンの練成し直した魔石の欠片にはその理論値の魔力が込められていたのだ。
驚くべきはその魔石の欠片自体が自己崩壊する直前の本当のギリギリまで魔力が込められている点であろう。
実に350倍以上もの魔力がその欠片に込められていた事にカオルは驚愕し、その原因がカモンに在ると理解したのは言うまでも無い。
そして、時を同じくしてもう1人驚愕に驚く者が居た。
上級鑑定士ミナヅキである、彼もまた王の前にカオルが出した水を眺めながら呟いていた。
「なんなんだこの水は・・・」
そう、王の前だったからこそ変な態度を取る事を自制していたミナヅキであるが最初見た時は目を疑ったのである。
彼の見た鑑定結果は『水』その詳細すらも『水100%』であったのだ。
本来水の中にはプランクトンを筆頭に様々な微生物が居る、それだけでなくナトリウムやミネラルなど様々なモノが混ざっているのである。
だが目の前に在る水は本当にただの水なのだ。
元素H2Oその物がそこに存在していたのだ。
様々な場所でその片鱗を見せ始めたカモンは今日もポーション作成に失敗したと嘆きながらベットでシーツに包まっているのであった・・・
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