第8話 5日目、カモンは真理の扉へ手を掛ける

「どうだ私は凄いだろ?」


担架の様な物に乗せられて運ばれるカオル、それに付き添う形でカモンは行動を共にしていた。

数名の兵士が担架を担ぎ、その最後尾を上級鑑定士ミナヅキが歩く。

彼はカオルの魔力枯渇症状の診断を行なっているのだ。


「扉を・・・」


カオルを運んでいる兵士に言われカモンはドアを開く。

そこは診察室の様にベットがズラリと並ぶ部屋であった。

白衣を纏った大きな眼鏡を装着したボサボサ頭の人間が無言でベットを指差し兵士達はその指示に従う・・・


「やぁ上級治療士のイザベラ、私を待っていてくれたのですか?」

「チッ・・・ミナヅキ帰ってこなくても良かったのに・・・」


完全にミナヅキを無視したままベットに寝かされたカオルに近付くイザベラ。

そして、その顔を見て微笑んだカオルの額に手を当てて小さく呪文を唱える・・・


「マナリジェネ・・・」


イザベラの手の平が光りカオルの頭部にその光が移る・・・

すると徐々にカオルの髪が白髪から黄緑色に変化し始めた・・・


「あんた、いい加減に限界まで魔力使うの止めないと途中で倒れるぞ」

「あははっ心配してくれるのかいイザベラ?」

「違うって、アンタが居なくなったら予算が下りなくなるからね」


二人がゆっくり話をしている、その間にカモンの前にミナヅキが立った。


「挨拶もまだしていなかったね、私の名はミナヅキ、職業は上級鑑定士だカモン君」

「あっはい・・・僕は・・・」

「大丈夫だよカモン君、私の職業は上級鑑定士。名前から君の身体能力、既に使えるスキルは全て分かっている」


そう答えて笑顔で手を差し出してくる、特に悩む事無くカモンはその手を握り返しミナヅキの顔を見る。

まるで全てを見透かすようなその瞳にゾクリと寒気が走るが直ぐに手を離されてミナヅキはカオルの方へ向かう。

そこでは既に治療が完了したのかイザベラは移動しておりカオルのみが寝かされていた。


「彼女はこの国で唯一上級錬金術を使用して金属を本物の金に変える事が出来る、だからこそ彼女は貴重なのだよ」


そう聞いても居ないカオルに対してミナヅキは告げてくる。

その言葉に続く内容がカモンには言葉にされなくても理解できた・・・


『君とは違ってね』


本当にそう考えられたのかは分からないが、あまりカモンの方を見ないミナヅキを見てカモンはそう感じ取っていた。

特にそれ以降会話する事も無く、カオルが小さく寝息を立て始めた事でミナヅキは満足したのか部屋を出て行った・・・

残されたカモンは部屋に戻ってもする事が無いのでカオルの側に付き添う事に決めた。



どれくらいの時間が経過したのだろうか・・・

錬金術が今のカモンが考えている物なのだとしたら想像力が決め手となる、そう認知してカモンは目を閉じて想像の世界で様々な錬金術の可能性を思案する・・・

今日見た師匠の錬金術、そして今自分が出来る錬金術・・・

その差を理解し出来る事と出来ない事を正しく理解する・・・

そして、その上で何故出来ないのかを想像していく・・・

何事にもルールが存在し全ての人はその中で試行錯誤を繰り返し違う方法であろうと同じ結果を齎す方法を考える・・・

それが人だ。

水を沸騰させるのに水温を上げる以外にも気圧を変化させて沸点を変える方法がある。

結果へと到達する方法は違っても結果が同じであれば・・・



カモンは目を開いた。

一体どれくらいの時間が過ぎていたのか分からない、ベットの横の椅子に腰掛けていたカモンはそれに気が付いた。

トレイの上の食器に置かれたちょっとしたスープにパン・・・

カオルが目を覚ましたら食べさせる為に用意されたそれ・・・

いつの間にか部屋にはカモンとカオルしか居らず他のベットが空いているのを見ていたら声が聞こえた・・・


「う・・・ん・・・」


丁度カオルが目を覚ましそうになっていたのだ。

それに気付いたカモンは懐から魔石の欠片を手にとってカオルの為のスープに手を翳す。

どれくらい置かれていたのか分からないそのスープは勿論冷めていてパンは硬くなっていた。

だが今のカモンにはそれが出来ると言う事が分かった。

指を曲げようと考えれば100回やって100回指が曲がるように失敗する気がしないままカモンは口にした。


「練成・・・」







「ん・・・何だお前ずっと側に居たのか」

「えぇ、師匠・・・お疲れ様です。お腹空きませんか?」

「あぁ、そうだな・・・頂こうか・・・」


目を覚ましたカオルにカモンは食事を見せ、彼女の膝の上にトレイを移動させる。

そこには出来たての様に湯気が上がるスープにフワフワの柔らかいパンが在った。


「おっ出来たてとはラッキーだ」


そう言って嬉しそうにそれを口にするカオル・・・

その様子から自分のやった事がとんでもない事だと理解していないカモンは手に握っていた魔石の欠片を懐へと戻した。


カモンが行なった練成、それは・・・


スープは中の水分を分子レベルで振動させて熱を発生させた。

電磁波を使わず水分子を錬金術で動かして摩擦し合わせて電子レンジと同じ効果を発揮したのだ。


パンは錬金術で分子の隙間を広げてその間に空気中の水分子を挟み元のパンの形に戻した。

この際に水分子をスープと同じ様に振動させ熱を発生させて焼きたてパンの様な状態に変化させたのだ。


そして、最も問題なのが魔石の欠片であった・・・

魔石の欠片に込められた魔力を使用して練成を行なうと共に魔石を元の形に空気中の魔素を集めて形成させ続けたのだ。

燃費が非常に悪いので通常であればこの数十倍の量の魔石の欠片が必要になる筈のカモン、だからこそ魔石の魔力を常に補充し続ければ大丈夫と考えた。

携帯電話を充電しながら使用するかのように単純に考えていたカモンであるが、それは人類が未だ到達できない永久機関にも等しい行為だと言うことを彼はまだ気付かない・・・



結局カオルは今日はそのまま休むという事になりカモンも自室へ戻る事にした。

そして、ベットの上で天井に手を翳して自分の手を見詰める・・・


「まだ・・・駄目だ・・・やっぱりなにかコツが・・・」


誰一人として城の人間は下級錬金術師としかカモンの事を見ていないがこの時既にカモンは真理への扉に手をかけているのであった・・・

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