第7話 5日目、上級錬金術師カオルの上級錬金
「王よこちらが今回の遠征で得られた魔石でございます」
「おぉっ?!良くぞ戻った上級鑑定士ミナヅキよ」
王の間に大きな魔石を持った者達が跪いていた。
先頭に居る者が掲げるそれを嬉しそうに見詰めるケイ国の王ケイオーン。
「直ぐに上級錬金術師カオルを呼ぶのじゃ!」
「「「ハハッ!」」」
数名の兵士が駆けて行く。
その間に王の間に用意される様々な鉄屑、折れた剣や穴の開いた鎧、砕けたパイプの様な物から穴の開いたフライパンと種類は様々である。
それらが別室から運び込まれケイオーンは嬉しそうにそれを眺める。
それは彼らには見慣れた光景であった・・・
「カオル様、魔石が到着したようですので」
「分かった。弟子を連れて向かうよ」
「お早めにお願いいたします」
城内にあるカオルの部屋の入り口で伝えられた内容に溜め息を一つ吐きながら部屋の壁に掛かっていた巨大な布を取る。
そこには複雑で巨大な魔法陣が描かれておりじっくりとカオルは魔法陣が欠けていたりしてないかをチェックしていく・・・
「よし、行くか」
誰に伝えるわけでもなくそう口にしたカオルが向かったのはカモンの部屋であった。
いつもの時間にはまだ早いのでもしかしたら寝ているかもしれないのだがカオルは気にせずにドアを無造作に開く。
「あっ?!」
そこにはパンツ一枚で背伸びをしているカモンが首だけこちらを向けて驚いていた。
そこへズカズカと入って行きいつもの挨拶の様にその背中を一蹴!
「あぎっ?!」
流石に慣れ始めていたカモンも朝からいきなり蹴られるとは思っていなかったのでその場に転がる。
その勢いでパンツがズルリと下がって・・・
「このボケェ!朝から変なもん見せてんじゃねぇよ!」
「理不尽だ・・・」
背中の痛みと地面の冷たさに涙目になりながらも少し嬉しそうな口元を見せるカモン、パンツを履き直しながら立ち上がりベットに置いていた着替えを着ていく・・・
その最中にカオルの脇に抱えられている大きな布に気付き、ズボンをヒョコヒョコと履きながら尋ねる・・・
「こんな朝早くからどうしたんですか?朝から夜這い・・・じゃなかった朝這いですか?」
「ほほぅ・・・粗末な物を見せたのは私に分解してほしいからなのかな?」
「じょっ冗談ですよハハハ・・・それで何か用ですか?」
「王の間に呼ばれているから付き合え、師匠として錬金術の真髄を見せてやる!」
そう無い胸を張りながら告げるカオルにカモンは少し眠たそうな状態のまま付き合うことに・・・
正直初日以降会っていないケイオーン王に会うのに気が進まないのは仕方が無いだろう。
既にここに来て5日目になるが生活魔法は使えるようになっても錬金術は全く成功していないのだから。
初日に見たあのガッカリ感が頭に浮かんで仕方ないのだ。
「それで師匠、錬金術の真髄って事はもしかして・・・」
「あぁ、期待して良いぞ。これは歴史上の上級錬金術師が真理を探究して到達した一つの真理の結果なんだからね」
そう嬉しそうに言葉にするカオルにカモンは少し見惚れていた。
いつもは眠くダルそうな表情しか見せない彼女が誇って居るのだ。
緑の髪がフワリと軽く浮かぶのはカオルの魔力がそうさせるのだろう。
「まぁ今日は多分動けなくなると思うけど、これを見ればアンタも少しは進展出来るかもね」
そういつもは口にしないような言葉を口にするカオル、まだ会って4日目であるが普段見せない彼女に少し心引かれたカモンは我に返る。
(違う、俺はロリコンじゃなかった筈だ・・・って師匠は25だから年上なんだよな・・・うぅぅ・・・)
1人変顔しながらカオルに付いて歩き2人は王の間へ到達した。
カオルに気付いた兵士が扉を開き無い胸を張って歩くカオルに続きカモンも部屋へ入っていった。
「ををっ!上級錬金術師カオルよ、待ちわびたぞ」
「おはようございますケイオーン様、それでそちらがですね」
「うむ、早速で悪いのだが頼めるか?」
「お任せを」
そう言ってカモンにそこで待ってろと小さく告げてカオルは1人前に出る。
手に抱えていた布を開いて床に敷きシワを伸ばす。
「カオル様、こちらを」
「ほぉ、これまた見事な魔石ですね。これの等級は?」
「勿論上級ですよカオルさん」
上級鑑定士ミナヅキが答え納得したようにカオルは頷く。
カオルの魔石を褒めたその言葉に数名の冒険者風の者が胸を張る。
きっと彼等が魔石を取ってきたのだと理解したカモンはチラリと彼等を見てから再びカオルの方へ視線を向ける。
師匠であるカオルがこれから行なう事を見逃さないように集中し始めたのだ。
「それではこれから始めたいと思います」
そう言い魔石を敷かれた布に描かれた魔法陣の中央に置いてその前に立つ。
それを合図に兵士達が様々な鉄くずと思われる物をカオルの正面に積み上げていく。
それらが詰み上がってからカオルはリラックスをした様に軽くその場でトンットンッと跳ねて両手を横へ広げた。
ゆっくりとその両手を自分の前に伸ばしたまま動かして両手の親指と人差し指で三角を作り鉄くずをその中で視界に納める。
周囲に漂う空気がジワっと熱を持ったように感じたその瞬間魔法陣から光が立ち上った!
その光がカオルの作った三角の形に空中で集まりレーザーの様に鉄屑の方へ伸びて包み込んだ!
「上級錬金!」
カオルが叫ぶと同時に彼女の緑の髪が真下から風に煽られるように空へと浮き上がる!
その顔色が徐々に白く血の気が引いていくように変化していき汗が噴出す。
汗が周囲に飛び散るが本人どころか周囲の誰もが気にした様子も無くその光景に高揚した感じで目を奪われていた。
そして、鉄屑の山が圧縮されるように光の中で小さくその影を変化させていき、それを光が押し潰すように収束して残された影に光が定着した。
「す・・・すげぇ・・・」
思わず口から漏れた言葉が聞こえたのか嬉しそうに口元を歪ませたカオルはその場に膝を着いた。
それと同時に魔法陣中央の魔石が氷が溶ける様にその大きさを小さくしていき最後に砕けた。
カオルの緑の髪が薄く白髪に近付いた色合いになってる事に気づいたカモンは手を伸ばそうとするが・・・
「いけません、まだです」
そう言ってミナヅキにその手を止められた。
そして、カオルの髪が真っ白になると共に歓声が湧き上がった!
カモンは目を疑った。
先程まで鉄くずが積みあがっていたその場所に在ったのは十数本の金の延棒であったのだ。
錬金術、それは普通の金属類を金・銀などの貴金属に変化させようとする術の事であるとカモンは認識していた。
だが目の前の奇跡の様な光景にカモンは我が目を疑う・・・
カオルの言った錬金術の真髄、それが目の前のそれなのだとしたらカモンの理解を超えた奇跡とも呼べる事象であろう。
金属の元素記号を理解していれば鉄が金に成り得ないと言うのはまだ分かる、それを何とかできるのが魔法だとするならば・・・
「なんで・・・剣の取っ手や鍋の柄は金属じゃないだろ・・・」
そう、目の前のそれはまさしく錬金術ではなく物質変換、まさしく奇跡とも呼べるものであったからである。
割れんばかりの歓声に待機していた治療を行なう者達の迅速なカオルの保護、それらが行なわれている前で動けないまま固まるカモンはカオルによって生み出された金の延棒を見詰めながら全ての答えを小さく口にした・・・
「等価・・・交換・・・?」
このカオルの見せた上級錬金術がカモンに真理の扉を開かせる鍵になるとはまだ誰も知らない・・・
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