第6話 4日目、奇跡の錬金術にだれも気付かない

結局その日もポーションを作成する事は叶わず、何度やっても青い水が出来るだけであった・・・


「はぁ・・・一体なんなのよ・・・」


無味無臭、色が青いだけのその水は薬草から何度やっても同じ様にしか作成されなかった。

カオル師匠は理解が及ばないようで頭を抑えながら最後の薬草からポーションを作成して並べる・・・


「見た目は瓜二つなんですよね?」

「そもそもなんでコップに薬草入れて出来たのが青い水なんだよ・・・」


困惑顔のカオルであるがカモンは幾つかの事象を納得の行く形で理解していた。

カオルは気付いていないのだが、薬草は3つじゃなくてもカモンの錬金術によって青い水に練成されていたのだ。

それにカオルは全く気付かない、カオルの常識からすれば薬草は3つでポーションに練成できる。

それは2つでは出来ず、4つでは1つ残る・・・

それが彼女の常識、だからこそカモンが2枚の薬草を練成して作り出した青い水に気付きもしない。


「はぁ・・・もういい、とりあえず今日は薬草も無くなったし終了」


そう言って肩を落としたままカオルは部屋を後にする。

部屋に残されたのは大量に練成され桶に移された青い水だけであった。


「つってもポーションが良く分からないんだよな~」


そう言ってカオルの作ったポーションを瓶から出して空いたコップに移すカモン。

そこへゆっくりと指を漬すとキラキラとした粒子と共にポーションはその量を減らしていく・・・

驚く事に少し荒れ気味だった指先の皮膚が回復していくのが分かりソッと指を引き抜く。


「大体この液体も意味不明だよ、なんでささくれとか瞬時に治るんだよ・・・」


まるでドクターフィッシュに角質を食べさせたかのようなツルンっとなった指先を見ながらそう呟くカモン。

乳液でも保湿液でもハンドクリームでも消毒液でも無いがその全ての効果を一つにしたような奇跡の水。

カモンにとってカオルの作り出したポーションはそういう物であった。

錬金術師が一番最初に学び、一番最初に作り出せるとされる下級ポーション。

それですらカモンにとっては常識ではありえない物なのをカオルは気付かない。

そして・・・


「とりあえずこの青い水なんとかしないとな・・・そうだ!」


桶に大量に残った薬草から作り出した青い失敗水。

外に捨てに行くにもこの量は大変と言う事でカモンが思いついたのが・・・


「練成!」


天才、それは自分と他人の違いを明確に知る者だと言う話がある。

人は誰しも他人と同じであると信じたがる、だが現実には得手不得手が存在し各々に役割がある。

才能が在るだけの人間は天才ではなく才人、だからこの時のカモンは天才ではなく才人であったと言うべきであろう。

彼が考えたのは大量の液体は非常に重いのでカオルから教わった等価交換を用いて・・・


軽くする為に元の薬草に戻せば楽である!


と言う結論であった。

その場にもしもカオルが残っていればその奇跡の光景に驚き感涙していたであろう。

薬草から作ったポーションモドキを薬草に戻す。

本来であればそれは限りなく不可能であるといわざるを得ない。

コーヒーに混ぜた砂糖やミルクを元の状態に分別できるか?

カモンの中に錬金術の常識と言う概念が存在していないからこそ成しえた奇跡がそこにあった。


「よし、枚数も・・・大丈夫だな!」


桶に入っている薬草を3枚ずつ束にして元の状態に纏めていくカモン。

彼は気付かない、全ての薬草が一切の誤差無く全て同じ大きさ、同じ形、同じ重さ、同じ状態でそこに存在している事を・・・

カモンの中に在ったのはカオルから教わった『錬金術は等価交換でイメージした物を作る術』という概念だけであった。

実際問題カオルもその辺りの概念をしっかり理解しているわけではなく感覚的に理解しているモノである。

だからこそカモンの存在が規格外だと言う事を誰もまだ知らない・・・

それはカモン自身もであった。


「さて、夕飯食べに行こうかな」


片づけを終えてカモンは部屋を出て行く。

彼自身も常識に縛られず自らが起こしたとんでもない奇跡に気付かないままであった。

物凄い量のクズ魔石を使用して作り出したポーションモドキを1回分の量しか使用せずに全て元の薬草に戻した事を・・・

そして、カオルが使用した分が本来であれば減っている筈なのに気付かずに・・・


その分まで薬草に戻している事に・・・

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