第4話 3日目、練成陣を使用しない生活魔法

「おら起きろボケ!」

「うげっ?!」


突如背中に痛みを感じて飛び起きるカモン。

顔を上げるとそこは用意された自室であった。

背中を擦りながら振り返るとそこには錬金術の師匠であるカオルがいつも通りの眠そうな目を向けていた。


「なーにやってんだお前?」

「えっと・・・」


返答に困りながら床を見ると魔石が砕けた砂が大量に散らばっていた。

昨日初めての生活魔法を使える様になったのが楽しくてずっと魔法を使って遊んでいたのだ。

自分にMPが在れば枯渇すれば使えなくなるのだがMPが0と言う事で魔法には魔石を使用していた。

その結果、魔石がある限りずっと魔法が使用できたので楽しくて使い続けていたのだ。


「クズ魔石とは言えあの量をどうやったら一晩で使いきれるんだよ・・・」

「えっと・・・いや・・・あはは・・・でも一応5種類全部使える様になりましたよ」


呆れた顔を向けられるが誤魔化し笑いで答える。

そんなカモンにカオルはジト目を向ける・・・


「それで嬉しくてそんな事になってるのか?それとも蹴られたのが気持ちよかったのか?」

「えっ?・・・ふぇぇ?!」


そう、その視線はカモンの下半身に固定されていた。

思春期の男なら仕方の無い朝の前尻尾である。

慌てて両手でズボンのふくらみを隠しながら元気になっている前尻尾を誤魔化そうとする。


「はぁ・・・心配しなくてもお前のそれに興味なんて全く無いから、それより5種類の生活魔法は無事に使えたんだよな?」

「えっ?あっはい、大丈夫です!」


その言葉を聞いてカオルは薬草を3つ差し出した。

それは錬金術師が最初にマスターする基礎の基礎であるポーションの材料。

初日に見せてもらった錬金術を再現しろと言っているのだ。

カモンは床に散らばるカオルが念謝した練成陣の描かれた紙を集めてポーションの練成陣を用意する。


「魔力の使い方は分かった筈だからやってみろ」

「はい、師匠!」


そう言われ新しく用意された魔石を1つ練成陣の中央に置いて薬草を重ねる。

両手を差し出し生活魔法を使う時と同じ様に指先に神経を集中させ目を閉じる。

そして・・・


「練成!」


目を見開いて言葉にしてみたのだが・・・結果は変化無かった。

しかし、最初生活魔法の水魔法を使用した時も時間差があって水が生み出された。

と言う事は最初は時間が掛かる物なのかもしれないとカモンはその姿勢のまま体を硬直させる・・・


「もういいわボケェ!」

「ぐへっ?!」


次の瞬間、いつもの様に背中を蹴られた。








「いいか?錬金術ってのは等価交換が基礎となるのは昨日話したよな?そこに必要なのはイメージだ。お前が下級錬金術師だとするならばポーションくらいは作れる筈だからしっかり見てろ。」


昼過ぎになり結局一度も成功しなかったポーション作成を一時中断してカモンはカオルの指導を受けていた。

非常に面倒臭そうな態度では在るがそれが彼女の仕事なのだから渋々と言った感じの彼女の様子にも慣れてきた。


「イメージと言ったが想像する事で練成陣は意識の中で描く事でも使える、こういう風にな」


そう言ってカオルは練成陣も魔石も使わずに薬草3枚を手の中で瓶に入ったポーションに変化させた。

光が収まるとそこに完成していたそれを何度見てもカモンは納得がいかない・・・


「分からないです・・・」

「まぁ、これは錬金術師に限った話じゃなくどんな職業でもMPを使って行なう行為は同じ様に出来る。試しに生活魔法使ってみな?」

「えっ?」


突然言われたそれは全く進展しない錬金術に変化をもたらす為か、少しずつではあるがカオルの事が分かり始めてきたカモンは嬉しそうに表情を変えて魔石を一つ手に取った。

チラリと床に置いてある練成陣の山を見て一番上に偶然在った火の生活魔法の練成陣を確認し目を閉じて魔石の魔力を使う。

頭の中で○の中に火を生み出す記号らしきものが描かれた紙を思い浮かべ昨日の感覚を思い出す。


「火よ!」


別に声に出す必要は無いのだが師匠であるカオルが見てくれている前で行う事で力が入ったのだ。

練成でポーションを生み出すのは全く出来ていないが生活魔法は無事に使えるようになった。

その成長を見せたいと言う思いから出た声であった。

そして、手から数センチ離れた上に出現するライターの火の様な小さな火。

練成陣をイメージしてそこに火が生み出される様子を思い描き出現させたそれは火種くらいにしか使えないモノであった。


「ふぅん・・・まぁ普通にこれは出来るようになったんだね」


まるで興味が無いとばかりに溜め息混じりに出た言葉ではあったがその言葉はカモンにとって非常に嬉しく感じられた。

無関心と言うのは人に対して何の感情も持っていないという事に他ならない。

昨日まではそうだったからこそ今のカオルの気持ちが非常に嬉しかったのだ。

だが握り締めた魔石の魔力が尽きて砂になり直ぐに火は消えた。


「あっ・・・終わりましたね」

「・・・」


カオルのジト目がカモンを睨む。

カオルにとってやはりそれは異様な事なのであった。

生活魔法で小さな火を生み出しただけで魔石の魔力が枯渇した。

例えるなら鍋に入れた水を沸騰させたら数秒で全部蒸発したようなものである。

カモンが出した火は別段自分の出す火とは違うようには見えなかった。

だからこそ魔石の魔力は一体何処へ行ってしまったのか・・・

その疑問を残したまま結局ポーションを作る事はこの日も成功せずに終わりを告げる。


「はぁ・・・今日も駄目だったな・・・」


カモンはベットに仰向けになって天井に手を翳して見詰める。

何故錬金術が上手く使えないのか・・・

完成形をイメージすれば言いとカオルは口にするがカオルにとってそれが一番大変な事で成功しない理由であった・・・


「一体あの瓶ってどうして出現するんだ?」


カモンもカオルも気付かない、この認識の違いがそのままポーション作成の妨げになっている事など・・・

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