第3話 意識不明

「家事は、とくに料理はキリがないです。でも栄養を考えると先輩がより綺麗になる。その達成感が目当てで僕はお弁当を作ってます」

「え、あ……」

「綺麗な先輩だからこそ、より綺麗になれるお手伝いをしたい、って事です。だから食べさせる相手は誰でもいいって訳じゃないんですよ」


綺麗と何度も言ったせいか、先輩は顔を真っ赤にして口をぱくぱくとさせた。意外にもほめられなれていないのか。

でもこれで告白にならないまでも、自分の気持ちを伝える事は出来た。

綺麗と言ったけれど『付き合って』なんていう図々しい告白はしていない。ならば先輩は断るという事ができなくなる。

僕としては断られなければそれでいい。この関係を続けたいのは本心なのだから。


「……ありがとう。桜太君」

「言っておきますけれど、僕は上達したいだけですからね。先輩はちょうどいい練習相手なだけなんですから。どんどん綺麗になっちゃって下さい」


ツンデレ口調だけどもデレしかない。その言葉に先輩ははにかんだ笑顔を浮かべた。


携帯電話が鳴り響くまでの、短い一瞬だったけど。


「ごめん、私のだ。出てもいい?」

「はい」


五十鈴先輩が電話を終えた時のためお茶を入れておく。

家で保温水筒に入れておいたほうじ茶だ。


「あ、うん。大丈夫……え、お姉ちゃんが?」


通話口に語りかける先輩から不穏な響きを感じとった。

先輩の赤みがさしていたはずの肌が色をなくす。僕らが親しくなったきっかけである、あの倒れた時のように。


「……わかった、今からそっち行く。先生にちゃんと言って、早退にしてもらうから」


通話が終わると先輩は急に立ち上がって、しかしすぐしゃがみこんだ。急がなければならないだろうに、気が動じているせいもあり立ちくらみが起きたのかもしれない。

僕は茶を差し出した。


「どうぞ」

「桜太君……」

「何かあったみたいですけど、とりあえず落ち着きましょう。何事も冷静になるのが一番です」

「そうだね。ありがとう」


顔色は戻らないものの、先輩の顔つきからは焦りが消えた。

急がなきゃいけないとしても、焦って選択をしくじるわけにはいけない。

そして事情を語る事により冷静さを取り戻そうとしだした。やっぱり先輩はできた人だ。


「……お姉ちゃんが事故にあったの」

「え?」

「電車との接触で、……意識不明の重傷だって」

「それは……」

「今の私にできる事は少ない。なら焦っても仕方ないよね」


僕が言葉に詰まっていると先輩はそんな前向きな言葉を述べた。

だいぶ落ち着いている。これなら一人で行かせて大丈夫だ。

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