第2話 家事能力

そして五十鈴先輩には家事能力が一切なかった。

今まで先輩は田舎の祖父母と一緒に暮らしていて、激甘な祖父母は先輩に家事をさせなかったらしい。

すると普段家事をこなすお姉さんが忙しくなれば、先輩の家は荒れる。


もとからお姉さんが忙しくなくてもインスタントばかり食べていたらしいし、倒れた時の先輩は苦手な洗濯や掃除に奮闘したせいで食事も忘れがちになっていたらしい。


だから僕は申し出た。これからお弁当を作って来ると。

そのため僕がお弁当で遅刻したとなれば、先輩は自分が怒られたような気持ちになるのだ。


「君、いつも私の買ってきたパンを美味しそうに食べるけど、ちょっと申し訳ないっていうか」

「量も足りてるし、パンの値段を考えれば僕の方が申し訳ないですよ」

「でも時間かかってるでしょ。……ねぇ、どうしてここまでしてくれるの?」


予測していた質問が来た。

周囲の人達は僕達が並ぶ様子を見ると、女王様と召し使いと思う事だろう。

つまり釣り合っていない。

僕はこの家事能力を気に入られて女王様のそばに置いてもらっているのだ。

まさか女王様を異性として好きだから働く、なんて言えば身の程知らずで首を切られるに決まってる。

しかし僕はうまく誤魔化す方法をすでに考えてあった。


「……家事ってこなせる人はこなせるかもしれないけど、出来ない人はとことん出来ないじゃないですか」

「あ、うん。現に私は出来ないし桜太君は簡単にできてる」

「別に僕だって簡単にできた訳じゃないですよ。ただ家事は毎日やらなきゃいけない事で、それだけやってればある程度は上達する事ですから」


多分先輩も練習さえすれば上達するだろう。知らない事はわからないし、やらない事はできない。当然の事だ。


「ただ上を目指すとキリがないし、他の事が行き詰まるとおざなりになるのが家事なんですけど」

「うちのお姉ちゃんがいい例だ……」


仕事で忙しくなればほこりも洗濯物も貯まるし料理もインスタントになる。ついつい後回しにしちゃう気持ちは僕にもわかった。けどちゃんとやらなきゃいけないこと、そして上を目指したいものだ。


「先輩、僕のお弁当を食べるようになって唇とか髪とか、荒れにくくなったんじゃないですか?」

「あ、そうそう。前はよく荒れてたの。リップ塗ってたのにね。でも、確かに最近荒れないや」

「それ、多分栄養がきいてるんです。ご飯だって食べるだけでいいわけじゃない、栄養も考えなきゃですよ」


先輩のやわらかそうな唇に、艷やかな黒髪を見て、僕は達成感を覚えた。例え三食食べていたって足りない栄養はある。見た目に栄養は出る。インスタントや絶食なんてもってのほかだ。

僕の作ったお弁当が先輩の状態をよくしてくれたなら、美しくしてくれたのなら、こんなにいいことはない。

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