第7話 並行世界


「さて……。改めて、自己紹介といこう」


 体感的にはかなり長く、精神的にも自分を追い詰めた口論の末。名演技で俺を試していた越之宮鎮台の人達から信用を勝ち取ることに成功した音無雄輝。

 だがしかし……。いくら信頼があろうとも、俺が元の世界に戻れるまでずっと此処で世話などできるはずもない。そもそも元の世界に戻れるという確証が存在しないからだ。しかし野放しにもできない。何でも、俺という存在は〈皇國議会〉や〈陸軍省〉とやらに報告して、管理せねばならぬらしいのだ。

 つまりは俺が自立するか、または保護者となり得る人の庇護下ひごかで生活していかなければならないということだ。そうやって生活していく中で、帰還方法を見つけ出す。それが当面、この国で異界人である俺が生きていく道しるべとなる。

 ……ただ、何をするにしても基礎知識は必要。


 場所を大隊本部室から移して、作戦立案などを行う為の第一会議室へ。本部室をそのまま狭めて、会議用の大机を置いたような洋風の部屋だ。そこで皇國、もといこの世界について必要最低限教えてもらえるのだとか。

 とてもありがたい話だ。だがそれを始める前に、大隊長が今更ながらも自己紹介をする。というわけで、冒頭の場面。


「私がこの〈越之宮地方〉における平時防衛の任を〈旭皇きょくこう陛下へいか〉より拝命している〈小野おの竜輔りゅうすけ〉大佐だ。越之宮鎮台、すなわち大日本皇國陸軍第四師団・歩兵第十聯隊・第一大隊の大隊長でもある。音無雄輝と言ったか。これから宜しく頼もう」


 そこに立っていた、50代に近いであろう白髪交じりの男はそう言って右手を差し出した。俺はその手を躊躇なく取って握手。その手はゴツゴツとしており、まだ若いかもしれないが古将軍といった感じだ。しかし、その顔には若干の微笑みが残っている。本部室で月島と口論を交わしていた時とは、また違う威厳や風格があった。

 背格好は俺や月島達と比べると幾ばくか小さく、大体160㎝ぐらいだろうか。元の世界におけるこの時代の日本人と比較すれば、十分大きな方ではあるが。


「こちらこそ宜しくお願いします。……というか、こんな所で俺と話していて良いんですか? 他の軍務に支障が出たりとかっていうのは」


「はっはっは! 早速質問かと思えば、まさか私の心配とはな。なあに、大丈夫だ。15歳の少年に心配されるほど皇國軍の組織はやわではないさ」


 そう言って、俺の肩をポンと豪快ながらも優しく叩く小野。本当に口論の時とはまるっきり違うな……。皇國軍人の演技力は世界一ィィィ!というわけらしい。


「では……。俺も改めて。越之宮鎮台第一中隊・第二小隊長の月島慶一郎伍長だ。これから宜しくな」


「同副小隊長の佐久間明比古兵長だ。宜しく」


「はい! 宜しくお願いします!」


 俺はいつになく上向きな声音で、返事をする。

 これからの異世界生活。最初は不安でしかなかったし、生きることができるかすら分からなかった。だけど俺を信じてくれる、そんな人達がいてくれるのなら、きっと大丈夫だ。不思議とそう思えた。


「さて。ではまず始めに、この世界と音無がいた世界。〈二つの世界の隔たり〉について、はっきりさせておこうか」


「世界の、隔たり……?」


「ああ。お前が着ているジャージとやらもそうだが、恐らくお前の世界の方が文明は進んでいるのだろう。それに、異界人にも関わらず我々と同じ言語を話し、名前まで姓・名の順。恐らくお前も、皇國と同じような文化を持つ国の民である可能性が強い。ならば一から丁寧に教えるよりは、どれほど文化・技術・歴史的な違い……すなわち隔たりがあるかを、はっきりさせてからの方が色々と話しやすいのでは、と思ったものでな」


 なるほど……。非常に的を得ている。確かに、俺が元いた世界とこの世界。二つの世界には共通点が多そうだ。もしかしたら、並行世界ってやつかもしれないな。

 少なくとも異世界転生でお決まりの、魔法や亜人が理論無しに当たり前、しかも余裕でステータスオープンなどとほざく西洋中世ゲーム風テンプレ異世界ではない。


「えーっと、じゃあ俺の世界の話から先にしましょう。……俺がいたのは西暦2020年の世界です。〈日本国〉という民主制の列島国家に住んでいました」


「2020年……。167年後の世界か。そして、日本国に民主制……。国号は同じ、政体も概ね同じだが……列島国家?」


 早速、小野や月島・佐久間が首をかしげる。


「はい。日本国が領土としているのは、日本列島っていう南北に長い列島です。厳密に言うと、本州と呼ばれる最大の島を始めとした四つの島と、それらに付属する形で何千もの島嶼とうしょが含まれています。また地理的には山地が多くて四季がはっきりしており、温暖な気候です」


 そこら辺の中学生でも答えられそうな、簡略的な説明である。


「その時点で、皇國とはかなり異なっているな……。まず皇國は島国ではあるが列島では無く〈本州ほんしゅう〉と、細かいが何千もの島嶼部が本州の四方に散らばって存在している。地理の面は概ね同じといえるだろう。本州の約7割は山地であり、一年を通じて移ろいゆく四季が各地の風光ふうこう明媚めいびさを際立たせている。ただ……温暖な気候というのは、一部の地域に限られるな」


 そう言って、小野はいつの間にか月島が持ってきていた一枚の藁半紙わらばんしを受け取って、机の上に広げる。

 その一番上には〈図全國皇本日大ずんぜくこうこんほにいだ〉と右から読む表記で書かれていた。当然ではあるが、以後は右読みで表記することはない。その地図の中央に位置しているのが皇國における〈本州〉である。

 形は……何と言えばいいのだろう。カザフスタンみたいな形……なんて言っても分かりづらいだろう。ロシア的な形……。ドイツを横に倒したような……。俺としては最後が一番的確だと思う。

 そんな横長ドイツが、大陸から見た極東の海にぽっかりと浮かんでいる。そして皇國の全図といっても、皇國だけが描かれているわけではない。これは東アジア・極東ロシア地域を拡大した地図のようだ。


 まず、日本海を挟んで〈李氏りし朝鮮ちょうせん〉が半島を支配。

 そして大陸には〈大中華国だいちゅうかこく〉が朝鮮の背後に版図を持ち、北日本海を越えた先には〈樺太からふと〉が存在している。

 サハリンとも呼ばれるこの地には、既に〈ロマノフ朝ロシア帝国〉の文字が刻まれており、樺太の西方に位置する〈シベリア〉もロシア帝国の領土だ。

 南方には〈琉球りゅうきゅう王国おうこく〉があり、更に南に目を向ければ大中華国領の〈台湾たいわん〉やスペイン帝国が支配する〈フィリピン〉の一部が写っている。東方には太平洋が広がっているのみである。

 本当に皇國と中国以外は何一つ変わっていない、西暦1853年の世界だった。


「これは、我らが皇國とその周辺諸国の地図だ。今のところは、各国家の概要などにはあまり触れないとして……。どうだ、何かこれを見て気づくことは無いか?」


 小野はそう言って地図を俺の方へ向け、視線を投げかける。


「気づくこと……あ、一つだけ。俺が住んでいた日本に比べて、皇國はより北方に位置しています」


「なに? ……この帳面に、お前がいた日本国の地図を書いてみろ」


 俺は言われるがまま、小野が衣嚢から取り出した小さな帳面と渡された鉛筆で、日本列島を描いていく。

 無論の事だが、俺は精密に日本列島を描ける伊能いのう忠敬ただたかの再来のような人間ではない。伊能大先生ですら一人で完成させることは叶わず、死後は弟子が完成させたのだから俺なんて比べるまでもない。当然海岸線もクソも無い、丸の集合体のような列島ができた。


「すみません。もう少し上手く描ければ良かったんですが……」


「いいや、大丈夫だ。……なるほど。列島が孤を描いているわけか……。よくよく見れば龍にも似ているな。ほら、月島と佐久間も見てみろ」


 そう言って小野は帳面から、俺が書いたゆるゆるな日本列島図をぺらりと外して、月島たちに手渡した。月島・佐久間がそれを興味深く見たことを確認すると、小野は俺に地図を返した。


「音無、この地図だと、お前の言うところの日本列島はどこに在るのだ?」


「えーっと……」


 俺は藁半紙の方の地図に目を移して、日本列島の大体の場所を見つけ出す。記憶を引き出して、朝鮮半島や沖縄・樺太との距離を考えると……。


「ここですね」


「日本国というのは、我が国とは位置が若干異なるのか……。朝鮮寄りになっていて、琉球とも近いな」


 そう。この地図上において、皇國の中心たる〈皇都こうと〉が在る場所は、日本国における宮城県と大体位置が重なる。つまり、それだけ皇國が高緯度……北方に位置しているわけだ。ならば〈温暖な気候が一部の地域に限られる〉という言葉も納得できる。国土の殆どは亜寒帯なのだろう。

 それに皇國は日本国のように中国・朝鮮半島というより、どちらかといえば樺太……ロシアに近い印象だ。この世界には北海道が無いようなのでその分、北になっているのだろうか。某黄金漫画の影響により、生の〈アイヌ〉に少なからず興味があったので、それについては残念だ。いや、アイヌは樺太南部とかカムチャツカ半島の方にもいるという話を聞いたことがあるし、まだ希望を捨てるには早いか。 

 

「なるほど、日本国については大まかにだが、理解した。恐らく音無にとっては此方の情報の方が重要だろうし、我々も日本国の文化や技術について、詳しく知りたいわけでもない。だから今からは、我らが皇國についてを主軸に話を進めていくとしよう。……当然だが、補足となるような日本国の情報は途中で挟んでくれても、一向に構わんぞ。情報は多いに越したことはないからな」


「……いいんですか? 俺の世界のことについて、もっと説明しなくても」


 異世界転移物ではもはや定番・ありがちなモノになっているが、主人公が異世界の人々に現代日本の文明や技術を伝えるという展開。俺tueeeやご都合主義も大概にしろと言いたいところだが、これは転移した人間の宿命ともいえる。

 無論、俺も彼らが求めるのであれば日本国についての話と共に、できる範囲でなら応えようと思っていたのだが。


「確かに現在の皇國は〈富国強兵〉を旨にしている。だから、軍上層部も政府も先進的な技術というものは、喉から手が出るほどに欲している。だがな……」


 少し間を置いて、小野は一言こう言い放つ。


「自らの手で進歩することを忘れた者達はただ朽ち、腐っていく。それは、我々が求めている富国強兵からは遠く離れているものだ。

 それに我々にも〈誇り〉というものがある。ずっと進んだ未来の人間から恩恵を貰うことは、我々……少なくとも私の矜持きょうじが許さない。ただそれだけの、下らん理由だ。上層部が何と言うかは分からないが、今のところは多くは聞かんさ」


「……分かりました」


 正直、驚いた。そんなところにまで考えが及んでいるなんて、と。

 無論だが先程出会ったばっかりで、先入観どころかイメージすらもあまり構築できていなかった、小野竜輔という将校。それでも彼の言葉で、俺は自分の考えの甘さを突き付けられた。そんな感じがした。

 ……何処か傲慢なところがあったかもしれない。ライトノベルとかアニメの見過ぎで、感覚が狂っていたんじゃないか? 

 もしくは、未だにこの非日常に頭が追い付いていないのか。

 何にしたって心の奥底では、俺が進んだ知識・考え方を持っていて、それを相手に教えることができる立場だ……。

 そんなことを思っていたのかもしれない。

 ……だけど、異世界の人々にも誇りがあって、譲れないものがあって。

 頑固で偏屈で、ただの感情論だってわらわれるかもしれない。


 断固として自分を曲げず、揺るぐことのない信念。


 そういうものを持っている小野の言葉に、俺は心を動かされたのだ。

 俺が彼らに元の世界のことを教えることで、富国強兵とやらは進展するかもしれない。だがそれは彼らの力ではない。勿論俺の力というわけでもない。

 そんなものに頼ることを、彼らは……この誇り高き皇國の民は許すだろうか? 

 否、そんなわけがない。

 多分、異訪来説の一件であたかも救国の英雄のような紹介をされたから、心の奥底では不相応におごたかぶっていたのだろう。全く恥ずかしい限りだ。

 お前はまだまだ決意だけの、薄っぺらくて弱い人間なんだよ。

 そう自嘲する。


「よし、では我が国について説明していくとするか」


「はい。宜しくお願いします」


 俺は、自分の中で無意識にうごめいていた傲慢の芽を摘み取り、新たな気持ちで小野の話を聞くことになった。ちなみに月島と佐久間は、俺を最初に発見した部隊の隊長・副隊長として、当分は俺の世話役になるのだとか。

 だから二人とも小野の補佐をしながら、解説側に回る。

 

「では、我が国の歴史について話していくとしよう」 


 小野は顎に蓄えられている自らの髭を撫でながら、話を始めた。




 ……小一時間ほどの時が経って。途中に佐久間が淹れて持ってきた、湯呑に入った茶も冷めた頃。会議室の硝子ガラスまどから外を見ると、すっかり夜だ。


「とりあえず、今日はこれぐらいにしておこうか」


 小野はそう言って地図を月島に渡した。さて、それぞれ話を整理しよう。


 小野や月島から聞いたところによると、古くから続いてきた文化や伝統的な技術は俺が住んでいた日本国とあまり変わらないことが分かった。このことからも、並行世界である可能性はかなり高いだろう。


 皇國及び日本は〈旭皇きょくこう〉と呼ばれる万世一系・神聖不可侵の存在によって、2500年以上支配されてきたらしい。

 日本国においても存在自体あやふやではあるものの、神武天皇が即位してから2500年以上の時が経っている。皇國でもその即位した西暦紀元前660年を紀元として、〈皇紀こうき〉を用いているようだ。日本国の方では今やほとんど使われないが。


 そして、支配という言葉を使ったが、当然旭皇だけではこの日本列島レベルの大きさがあるらしい大島を完全に掌握することはできなかったようだ。

 そこで古くから、朝廷は自らが直接治める〈皇都こうと〉以外の領地を、封建ほうけん領主層りょうしゅそうである〈士族しぞく〉に治めさせていたのだとか。因みに士族というのはここ300年ぐらいの中央からの呼び名で、更に昔は豪族だとか貴族・武士とも呼ばれていたらしい。つまり朝廷と士族は、封建制=御恩と奉公の関係だったといえる。


 ……なんてわざとらしく表記するのには理由がある。


 ―――300年以上前。時は戦国せんごく時代。

 その頃、皇國には多くのイエズス会宣教師が派遣されており、ポルトガル王国との交易……すなわち〈南蛮貿易なんばんぼうえき〉が盛んであった。

 貿易が開始されたきっかけは、皇國南方の島の海岸に倭寇わこうの船が漂着してその中にポルトガル人も乗船していたということ。ここら辺は大体、日本国における戦国時代に起きた出来事と繋がる。もっとも、元の世界でポルトガル船が漂着したのは種子島であるが。


 そして、神道や仏教を崇拝する皇國の民がキリスト教徒になることを恐れた朝廷は、膨大な利益と技術が手に入る南蛮貿易を南部(九州・南州・東海)諸大名のみが行えるようにした。キリスト教は〈神の下に皆平等〉と説いているため、統治者としての旭皇を否定し、反乱分子となるかもしれなかったからである。

 また朝廷は、伝来した火縄銃などの軍事技術を内陸の皇都へと持ち込み、国内での生産に成功。それに加え南蛮貿易にも介入し、貿易額を自由に制限した。 

 

 自分達を完全に無視したその動きに激怒した幾つかの南部諸大名は、キリスト教を盾にして皇室の正統を否定。あたかもキリスト教=イエズス会=ポルトガルの手先になったかのような振りをして、一斉に挙兵した。それを鎮めるべく、朝廷は皇家こうかに従順な大名を各地から集め朝廷軍を組織し、叛乱軍の征伐を命じた。

 因みにそれらの軍勢の指揮を間接的に行っていたのは、朝廷の令外官りょうげのかんである〈征夷せいい大将軍たいしょうぐん〉だったのだとか。

 そして、最終的に戦乱に加担した大名の総兵力をまとめると……。

 朝廷軍 14家 約31万4000

 叛乱軍 12家 約27万6000 と伝えられているそうだ。

 因みにこの叛乱は当時の元号に習い〈天元てんげんらん〉と呼ばれている。


 両者は幾度もの合戦を交えて10年近く争い、勝者となったのは朝廷軍であった。兵力の摩耗によって敗走した南部諸大名は早々に、旭皇の威光にひれ伏した。叛乱鎮圧後、朝廷は国内の全ての大名家に対して〈キリスト教信仰の禁止〉と〈カトリック信仰国家との貿易禁止〉を命じるに至った。 

 ポルトガルとしては、南部諸大名が完全にキリスト教を信じきり、最後の一兵になるまで戦い続けると思っていたので予想外の展開だったことだろう。それどころかポルトガルは、叛乱鎮圧を長引かせることによって他の士族達をも感化させ、自らの手駒として利用し、朝廷を滅ぼすつもりであったらしい。だが、そんな皇國植民地化という邪悪な奸計かんけいは失敗。

 それに加え、火縄銃や大砲などの軍事技術を完全に吸収され、朝廷への叛乱の大義名分としてキリスト教を都合よく利用された上に、朝廷に負けたかと思えば手の平を返され、国交を断絶させられた。

 気の毒な話だが、それだけ大名達の頭が回ったという話だ。


 さて、その後。

 叛乱に加わった幾つかの南部諸大名が減封げんぽう改易かいえき(お家取り潰し)処分を受け、皇國は再び平穏を……。取り戻したわけではなかったらしい。

 その後の話はまた明日、だ。

 

「んんっ……ふぅ」


 俺は木製の高級そうな椅子に座りながら、背伸びを行う。小一時間……つまり一時限分の授業を受けた感覚だ。

 

「ははっ、疲れたろう。月島伍長、佐久間兵長。そろそろ私は本部室に戻る。音無の世話をしてやってくれ」


「「はっ」」


「ではまた明日だ。音無」


「はい、今日はありがとうございました。さようなら」


 そう挨拶を交わし、小野が会議室の扉を開ける……。


 その瞬間。


『……白澤しらざわ中尉ちゅういだ。至急、第一中隊室に小隊を全員集めろ。南東の幾つかの村が魁魔共に襲撃されているそうだ。既に、それぞれの村落に常駐している部隊には2名、住民に約10名、多くの家屋に被害が及んでいるとの報告が来ている』


 白澤中尉という、恐らく月島の上官からの通信。月島の左耳から口にかけて、見たことのない模様の円陣が展開されていた。これが、通信魔術というやつか。


『……了解しました。音無を連れて行ってもよろしいでしょうか。良い学習になると思うのですが』


 ……いやいや、スパルタ教育。

 俺、数時間前に最弱魁魔に殺されかかったのだが。


『まあ、良いだろう。そいつは皇國人ではないと聞いている。ならば……、護る対象外だ』


 白澤という士官の、おどけたような声が魔術陣から聞こえてくる。ほんとに面白い人ばかりだ。

 とはいえ、また殺されそうになったら流石に恨みますけどね、月島に白澤……!


「……小野大佐。中隊より発令された村落常駐隊への支援任務にあたり、として音無の任務への同行を承認していただきたいのですが」


「返答はもう分かっているのだろう? ならば早く行け。音無に、我ら皇國軍将兵の勇姿を見せてやれ」


「「はっ!!」」


 月島と佐久間の気迫ある返事に、小野は満足したように本部室方面……廊下の左に曲がっていった。

 

「さあ、行くぞ。音無」


「……了解です」


 そして、俺達は。玄関方面……廊下の右に曲がり、第一中隊室へ向かっていった。

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