phase4「歯車は止まらず」

 「ここ、どこ……?」


 ダークマター企業内研究所、〈バルジ〉。その廊下の真ん中で、ジュピターは迷っていた。


 入ったことがないサーバールームや資料室を見てみようと思い立った彼は、行ったことがないエリアを探検していた。その中の一つが地下だった。


 が、足を踏み入れたことの無い地下の階層まで下りていくにつれ、廊下を歩く社員や研究員の数が徐々に減っていき、地下二十階につく頃には、人影はどこにもいなくなっていた。


 明かりの落ちた廊下にも、電気のついていない部屋にも人は無く、物やサーバーしか置かれていない。


 人がいない代わりに部屋数は多く、物置やサーバールームを覗いていく内に、ここまで下りてきたエレベーターまでどうやって戻るか、道順を忘れてしまった。


 うろうろとあてもなく歩き続け、とりあえず目に入った通路を進んでいっても、似たような景色しか見えてこない。


「ううう……。お腹空いた……」


 その内空腹が無視できなくなり、ジュピターは立ち止まってお腹に手を当てた。


 食堂でいっぱいご飯を食べたい、とメニューを思い浮かべると、ますますお腹が空いてくる。

 うう、と小さく唸りながら、顔を伏せる。すると、真っ黒な床が目に入ってきた。


「……この、下に」


 mindがある。mindが、あった。


 二十階の次は二十一階ではなく、いきなり三十階になる。そこに、mindを管理する専用の部門が存在する。


 管理と言っても、実際は保管に近い。軽率にmindを私用することは固く禁じられている上に、そのmindも、まだまだわからないことのほうが多い。

 マザーコンピュータに接続する以外にどういう使い方があるのか、使われていない機能がどれほどあるのかも、全てが未知数だという。


 この謎に満ちたmindを用いることによって通じるHeartは、また別の場所に存在する。


 ジュピターは両手のひらを床に当てた。氷のように冷たい感触が伝わってきた。そのまま、それが自分の大切なものであるかのように、緩やかに撫でた。


「mind……。今、どこにあるのかなあ……?」


 早く見つけたいなあ。今mindはこの床の向こうには無く、空っぽの状態となっているから。


 ジュピターはよいしょ、と立ち上がった。しばらく歩いたが、エレベーターには辿り着けなかった。もしやと思った。全くの逆方向に歩いているのではないか。


 その証拠に、曲がりくねり、入り組んだ廊下の先を抜けると、行き止まりの壁が現れた。


 その壁の手前に、一つの部屋がぽつんと存在していた。他の物置やサーバールームからも距離の置かれた、一つのドア。

 すぐ横の壁には長方形の電子看板が取り付けられていたが、本来そこに表示されるはずの部署名は書かれておらず、代わりに「立ち入り禁止」の字が、ゆっくりと赤く点滅していた。


「なんだろう、この部屋……」


 あまりここでは見かけない、ノブがついている形式のドアだった。試しにノブを触ってみたが、がちゃがちゃと音が鳴るばかりで、一向に回ることはなかった。

 またドアを軽く叩いた音から判断するに、見た目以上に頑丈な素材で出来ていそうだった。殴って開けるのは難しそうだった。


「うーん。セプテットスターだったら入れるかな? 今度頼んでみようかなあ」


 使われなくなった部屋なだけかもしれないが、他は物置やサーバールームになっているのに、ここだけ立ち入り禁止となっているのがわからない。もしかすると、何か重要なものが保管されているのかもしれない。


 今日はもう戻ろう。壁伝いに進んでいけば帰れるかもと、振り返りかけた時だった。


「ん?」


 ドアの近く。壁と床の隙間。そこに、明かりを反射させて、小さく輝くものが落ちていた。拾い上げ、煌めきの正体を見た途端、思わず声を発した。


「わあ、綺麗……!」


 それは、筒状のキーホルダーだった。色は無色透明の、シンプル極まりない作り。その筒の中に、一輪の花が入っていた。色が無く、他に装飾もない分、その花に自然と目が行った。


 それは、小さな花だった。

鮮やかな紫色の花は、釣り鐘を思わせる特徴的な形をしていた。


 素敵なものを見つけたと、ジュピターは鼻歌を口ずさみながら廊下を進んだ。

 やっとエレベーターに辿り着いて地上まで上っている間、改めてキーホルダーを見た。


 通されたチェーンは切れており、これは落とし物かもしれない、と考えが至った。更にバルジの、あんな地下にあるくらいなのだから、ダークマター関係者であることは間違いない。


 ダークマターの落とし物センターに届けておかないとと、バルジの出入り口へ小走りで駆けていたときだ。二人の人影を視界に捉えた。


「サターン! あなたってどんな茶葉が好みなんですの?」

「無い」

「あるでしょう、何か! どちらかといえば好き、でも結構ですのよ?」

「無い」

「じゃあわたくしが見繕ったもので文句はないですわね! 言ったら承知しませんことよ! わたくしはちゃんと聞きましたからね! お口に合わなくてもあなたの責任ですからね!」

「……」


 サターンは無感情な目でネプチューンを一瞥するのみだったが、ネプチューンはどこか張り切った様子であった。


 名前を言って呼び止めると、ネプチューンはドレスの裾を摘まんで一礼したが、サターンはただこちらを見やっただけに終わった。


「ジュピター、こんなところで何をしておいでですの?」

「えっとねえ、探検かなあ。ネプチューンちゃんも探検?」

「違いますわよ! 用があって来ただけですわよ! これからまた仕事ですの! 子供扱いしないで下さいまし!」


 目を三角にして全身で怒るネプチューンを見て、そういえば彼女がバルジに呼ばれていたことを思い出し、慌てて謝った。


 前回のネプチューンの出張時、その際の計画の要となったのが、一体の人形だった。金髪に桃色のドレスを着た人形。


 そこに埋め込まれていたプログラム。人間の記憶をいじる波長を発するプログラム。

 それを開発した部門に、ネプチューンはそのプログラムの関係で出向いていた。


 このプログラムに関連する部門とは、近頃何度も会議などが行われており、直接足を運ぶ機会も多かった。

 


「でも探検楽しかったから、良ければ今度一緒にどうかなあ?」

「お断りしますわっ!! もう話しかけないで下さいまし! ごめんあそばせ!」


 謝る前にネプチューンは出て行ってしまった。ああ、と肩を落とすジュピターに、更に追い打ちがかけられた。


「……ジュピター。業務はどうした」

「うわああごめんなさいっ!」


 地の底から響いてくるような低い声が、自分を狙って現れた。見る間に眼光が刃のように鋭くなっていくサターンに、一気に肌が粟立つ。


「ちゃ、ちゃんとやってるよ! やってるけど、その、体を動かしたくなって! ご飯食べたらもっと頑張るからね、ご飯食べたら!」

「…………」


 無言の圧力が伝わり、つい視線を逸らす。一応サターンはジュピターより身長が低いはずだが、その差を感じさせない。

 ジュピターは縮こまりながら、握りしめているキーホルダーを更に強く握りしめた。祈るように手を組むと、ちゃり、とチェーンの金属が鳴った。


「お前、何を持っているんだ」

「あっ、えっと、これだよ」


 話の矛先が変わり、安堵したジュピターは急いで手を開いて、中のものを見せた。紫色の花を中に収めた透明のキーホルダーが、光を反射した。


「落とし物みたいだけど、サターンは誰のものか知ってる?」


 返事はなかった。「サターン?」と呼びながら顔を上げたジュピターは、もう一度名前を呼ぶ羽目になった。


「サターン? どうかしたの?」


 発した声は、気遣わしげなものになっていた。それは無理のないことだった。


 サターンが、今まで見たことの無い表情をしていた。


 少しだけ開いた両目は、キーホルダーに注がれていた。他のものは見えていないのではと思うほど、集中した食い入るような視線だった。


 息が止まっているのか、わずかに開いた口から呼吸の音は聞こえてこなかった。指先一つも動かず固まる彼は、ただキーホルダーの中の、紫色の釣り鐘の花を見ている。


「このキーホルダー、サターンのもの?」


 こちらを見た瞳が、微かに震えていた。だが瞬きされると、その震えは見えなくなっていた。


「……そうだ」


 ゆっくりと、サターンは頷いた。


「じゃあ、はい。気を付けるんだよ?」


 自分の落とし物だと言ったのに、サターンはキーホルダーに手を伸ばしてこなかった。片手を取ってその上にキーホルダーを乗せると、また小さくチェーン同士の擦れる音がした。


 サターンはしばらくそのまま、手を開いた状態のまま動かなかった。


 ジュピターは、キーホルダーを見る目線が、無視できないほど気になった。その目をなんと形容すればいいか、言葉が出てこなかった。

 強いて言うならば、今まで見たことが無いほど、暗い光を宿していた。


 やがてサターンはキーホルダーを大きな動作で強く握りしめると、ポケットの中に入れた。


「お花好きなの? 僕も大好きだよ! 一緒だね~」

「別に」


 あの目がどうしても気がかりで、ジュピターは言葉をかけた。だがサターンはばっさりと否定してきた。体を剣で真っ二つに斬られたような容赦のなさを感じる。


「でも、サターンってセンス良いね~! こんな良いもの持ってたなんて」

「……」

「僕今まで気づかなかったよ~。そのキーホルダーとても素敵だね~。お花が凄く綺麗!」

「……ジュピター、これをどこで見つけた」

「え? 地下二十階の廊下の行き止まりの……立ち入り禁止になってた部屋の前で」

「……そうか」


 頷いたか頷いていないかよくわからないほど浅く頭が上下し、そのまま背を向けて歩き出される。ジュピターは慌てて後を追い横に並んだ。


「そうだ聞き忘れるところだった! あの部屋何なの? どういう部屋?」

「知りたければ自分で調べろ。恐らく社員も研究員も、全員、あの部屋がなんなのか口に出さないだろう。……むろん、俺もだ。決して言わない」

「へえ、そんな凄い部屋だったの?」


 どうやって調べようかなあ。考えを巡らせ始めたときだ。サターンが歩みを止めないまま、ジュピターに鋭い目を向けてきた。


「お前、そんなことを考えている暇があるのか」

「わああ、ちゃんとお仕事も頑張ります! で、でもその前にごはんは食べさせて……。倒れそう……」

「大袈裟だ」

「大袈裟じゃないよ! ちゃんと食べないと体にも悪いんだから! あっそうだ、一緒に食堂に行」

「かない」


 にべもない。がっくりとするジュピターは、次の瞬間弾かれたように顔を上げた。


「でもサターン、お昼ご飯食べてなかったよね……?」

「……」


 無言の一瞥は明らかに肯定だった。さあっとジュピターは自分の血の気が引いていくのがわかった。サターンは気を抜けばすぐにご飯を抜くところがある。その事実を思い出した途端、堰を切ったように声が溢れ出てきた。


「駄目だよーーー!!! ちゃんとご飯食べなきゃなんだから! 体に悪いんだよー! サターンが倒れちゃったら、僕達どうすればいいのー!!」

「騒ぐなこんなことで!」

「サターンに何かあったら皆悲しむよ~!!!」


 ほぼ悲鳴に近い声を投げつけられて、サターンは明らかに迷惑そうだった。怒りしか見えないサターンの手首を両手で鷲掴む。


「ほら食堂行くよ!」

「必要無い、放せ!」

「駄目! なんなら僕が好物を作っちゃうよ!」

「放せといっているのがわからんのか!」

「嫌だよ!!」


 懸命に振りほどこうとしているのはわかるが、手は全く抜けそうに無い。

「なんだこの馬鹿力は!」と語気の荒いサターンを半分引きずりながら、ジュピターは食堂に連行した。

 

 



 

「ウラノス! ここを開けて下さいませんか!」


 発した大声は、頑丈で無骨なラボの鉄扉に吸い込まれていった。部屋の主からの反応は全く無く、マーキュリーは息を吐き出した。


 取り付けられた来客用のスピーカーに、何度声をかけたかわからない。そろそろ喉が枯れそうだった。

勝手に深いため息が零れてくる。直後、やけくそのように勢いよく息を吸い込んだ。


「聞こえているでしょうウラノス! 開けて下さいと言っているのです! ウラノス!!」


 扉を叩いたがびくともしない。それでも音を立ててがんがんとノックを続けていると、扉の横の暗証番号式のロックについてある応答用のスピーカーから、気だるげな声が聞こえてきた。


『うるせえ……』


 やる気がまるで感じられないと声であると同時に、酷く不機嫌だった。だが気を遣ってはいられなかった。


「あのですね、部下を困惑させるようじゃ駄目じゃないですか!」 

『黙れ邪魔すんなうるさい』

「なんですかその物言いは! 私はただ」

『だから死んどけ』

「そこまで言われるようなこと何かしましたっけ?!」

『多分ねえけどとりあえず死んどけ』

「私そこまで安い命なんですか?! あの、もしもし! もしもーし!」


 ぶつん、とスピーカーが切られる。向こうの通話が遮断され、ああもうと頭を掻きむしりたくなる。


 事の発端は、の件でバルジに呼ばれていたのが始まりだった。自分の提言したを確認した後、そのまま本社まで戻ろうとしたときだ。


 廊下の向こうから、同じチームメンバーと見られる数名の研究員達が現れた。皆泣き出しそうな顔の中、地獄に仏とばかりに駆け寄ってきた。


 何事かと問うと、ウラノスのラボに入れないと訴えられた。


「とにかく困っているんです。誰一人も受け付けて下さらなくて!」

「鍵は開かないですし、ウラノス様に開けるよう頼んでも無視されている状態でして……」

「計画の件で早急に聞きたいことがあるんですが、このままでは……!」

「停滞して立ち往生の状態でして!」


 全員が一様に困り果てていた。

もしかしたら同じセプテット・スターなら言うことを聞いてくれるかもしれない、という台詞を聞き、マーキュリーはすぐに快諾した。皆目を輝かせ、お願い致しますと頭を下げた。


 そういう経緯を経て、彼はここに立っている。だが。


「本当に言うこと聞かない奴だなこいつは……」


 先程からずっとドアを蹴り飛ばしたい衝動に駆られているが、人の目もあるので耐えていた。


 視線を宙にさ迷わせながら、これしかないとスピーカーに顔を近づける。

 ウラノスは自分に得することであるならすぐ動く。もしくは、自分の興味を惹くもの。


「……実は、ベイズム星人の毒液について新たな情報を掴みまして」


 甲高い解除音が響き、扉の鍵が開いた。中に入る前に、一層ぼさぼさになった灰色の髪と皺だらけの白衣を羽織ったウラノスが飛び出してきた。


「ど、どんな情報だ? 早く聞かせろ」

「嘘です」

「死ねば」


 台詞を吐き捨てきびすを返したウラノスが扉を閉める前に、急いで体を中に滑り込ませた。


「あのですねえ、駄目ですよ単独行動は。これは研究チーム全員で取りかかるものでしょ? あなた一人でやってたら負担がかかるでしょ」

「うるせえよ……。才能無しの無能が足引っ張るくらいなら自分でやるわ……」


 背を丸め、老人のようにのろのろとした足取りで研究室の中を進んでいったウラノスは、そのまま大きなパソコンのディスプレイ前の椅子へ乱暴に腰を下ろした。


「とにかく、研究員達から直に相談されたんですからね? 聞きたいことがあっても中に入れない、計画そのものも立ち往生の状態だと。

どれだけ人に迷惑をかけているかわかってます? あなたが我が儘言ってたら、AMC計画そのものもどんどん遠ざかっていくことに繋がるのですよ?」

「はいはいわかったよ……」


 隠す素振りも見せず盛大にされた舌打ちが自分に向けられたものであることはよく伝わったが、それについては何も言わないことにした。

もはや何を言っても無駄という諦めの感情が強かった。


「私はちゃんと伝えておきましたからね? せめて鍵は開けときなさいね?」

「だからわかったっつーの……」


 本当にわかっているのか。マーキュリーは不安の籠められた視線を研究室内にさ迷わせた。資料なのかゴミなのか判別出来ない物という物が散乱し、床がほとんど見えない。足場の少ないこのラボに、本当はあまり入りたくなかった。


「相っ変わらず汚いですねこのラボ……」


 一人言のつもりだったが、ウラノスは椅子を回転させ、濁った水色の目で睨んできた。


「お前今日はいつにも増してうるさいな……」

「いや普通でしょう……」

「口と喉取るぞ」

「あなたが言うと洒落に聞こえないんですが?!」


 次の計画。それに必要な、要となる機械。その制作の中心に携わるのは、やはり、ウラノスだった。


 要求されている完成度が非常に高く、他が緊張する中、ウラノスは一切プレッシャーに押し潰されていなかった。むしろ、わくわくしていそうだった。


 その証拠に、パソコンの画面に向き合った途端、にいっと本当に楽しそうな笑みを浮かべた。

 恐らく本人はおもちゃで遊ぶ子供のような純粋な幸福を抱いているのだろうが、その笑顔は歪んでいて純粋とは程遠い。


「くっくっく、あああ面白いことが起こるぞお……。黙って見ていろよ、マーキュリー……。そのほうがよ、ずーっと楽しいからよ……」

「……はあ。まあ、程々にしておきなさいね……」


 暴走したウラノスが要らぬ機能など付け足す可能性も充分に考えられた。そこも不安点だった。


 肩をすくめ、マーキュリーも画面を覗き込む。計画で使われるプログラムの設計図がそこに表示されていた。


 かたかたとキーボードを打ち込む音を聞きながら、次の計画の内容が思い出された。前回のネプチューンの出張の、応用である計画。


「やはりこの計画……少し、やりすぎなのでは?」


 ウラノスの手が止まった。緩慢にマーキュリーを見上げた視線は怪訝そうだった。


「何言ってんだお前……」

「もし明るみに出たら、かなり面倒な事になるのでは、と思った次第でして。大丈夫なのかと」


 慎重だなあ、とウラノスは頬杖をついて笑った。明らかに見下しの色があった。


「大丈夫だって……。“波長そのものの量は多くないから、あまり脳に影響は出ねえよ……。”ま、次第だけどな……」


 ウラノスがいくつかの操作が施すと、ディスプレイに一体のロボットの姿が映し出された。骨組みのように、関節だけで表現されたその外見は、小鳥の形をしていた。


「外は出来ている……。中ももうじきさ……」

「いつものことながら仕事が早いですねえ……」

「楽しくて楽しくて本当に楽しくてさあ……気がついたら進んでるんだよ……。プルートからの報告や、今までのデータからして大丈夫だ……。この計画、上手くいくさ……。ほぼ間違いないわ……」


 ウラノスは含んだ笑いで体を揺すった。本当に楽しそうだった。期待に溢れる目もしていた。マーキュリーは軽く息を零し、改めて表示されている画面を見る。


「……確かにまあ、大丈夫か。、変なところで頑丈だし」


 呟いた一人言は、聞こえていなかったはずはないが、耳には届かなかったようだ。プログラムを開発すること、それにウラノスの意識は全て向けられていた。


 他のセプテットスターも、本当の事情を知らず働く社員や研究員達も、次の計画は全員上手くいくと確信しているようだ。

 だが、マーキュリーは一人、別の方向に確信していた。上手く行くはず無い、と。


 だってあの子供、予想以上に不遜で肝が据わってるし、そこから判断するに神経が図太いんだろうし。


 前回会った時、殺意を隠さない目で真っ直ぐこちらを見てきたの姿を思い起こしながら、また一つ、息を吐いた。

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