phase2「置いてあったゲーム」

「ハルー?! いる?!」


 宇宙船の前で思いっきり呼んでみるが、応答は無い。

ドアの所まで行ってノックをしてみるも、無反応だった。

いないのだろうか。

肩を落とし、きびすをかえしかけたその時、いきなりドアが開いた。


「あれ? いるの?」

 開いたということは、やっぱり中にいたのだろうか。それとも自動ドアだろうか。

しばらくうろうろとその場を歩き回った後、結局中に入った。


 ハルがいなかった場合、戻ってくるまで少し待つつもりだが、中々戻ってこなかったら帰ろうと思った。さすがに勝手に探検することはしない。

興味はあるが、それでもし何かあった場合のことを考えると、勇気が出なかった。


 記憶を頼りに廊下を進んでいくと、リビングルームと書かれたプレートが下がってあるドアがあった。開けると思った通り、何の変哲もないリビングがそこにあった。

あまりにも普通のリビングすぎて、逆に違和感がある。

ここに来るのはまだ二回目だが、この前来たときと特に変わっていないように見えた。


……いや、違った。

テーブルの上に、真っ黒い四角形のものが置かれているのが目にとまったのだ。

近づいて見てみると、それはタッチパネルのような端末だった。


「タブレット? ……より大きい? ハルったら、いつの間に手に入れたんだろ」

 手にとって、適当に画面をタップしてみると、暗転していた画面が切り替わった。


 どうやら起動したらしい。そこに表示された画面を見て、美月は首をかしげた。

ゲームらしきスコアのようなものが表示されていた。

赤いドット字で『14.79%』と表示されてあり、その隣に『HAL』の文字があった。

その下に大きく『RESET』と書かれてある。


 とりあえずそこをタップしてみると、画面がまた切り替わった。

青色のドット字で大きく『BATTLE TEST』と表示されており、

その下に『START』の文字もある。


その後ろで、やはりドット絵の白い宇宙船のようなものが飛んでいる画面が映っており、ピコピコとした軽快なBGMが流れていた。

レトロゲームというやつだろうか。


「……何、これ? さっきのってハルのスコア?」


 ハルもゲームをするのか。

それにしても、随分と悲惨な数字だなと正直感じた。だがもしかすると、これはとんでもなく難しいゲームなのかもしれない。


 美月はちょっと考えると、ソファに腰掛け『START』のドット絵をタップした。

 単に暇を潰したかったからというのもあるし、ハルに悪い意味であのような記録を出させるゲームがどういうものか気になったのだ。


 パソコンのキーボードのようなものが表示されている画面に切り替わった。

名前を入力する画面らしく、入れた文字の変換は出来ないようだ。

MIDUKIと自分の名前をローマ字で入力し、『決定』ボタンを押した時だった。


「指紋認証致シマシタ。挑戦者、MIDUKIサマ」という合成音声が流れた。

指紋認証という響きにやや恐怖を覚える。やめたほうがいいだろうか。

しかし、どこをタップしても止まらず、やめ方がわからない。

美月は諦めて、極力深刻に考えないようにした。


 と、切り替わった真っ黒な画面に、『NO CONTINUE』と赤い文字が大きく映し出された。

この字はドットでは無かった。重要なことらしい。

やり直しができないということか、挑戦できるのは一回だけということか。


「あれ、これって操作方法は?」

 次に画面が切り替わったとき、宇宙らしき場所をバックにタイトル画面に出ていたドットの宇宙船が出てきて、不安になった。

見た所、もうゲームは始まっているようだ。操作方法を教える画面は出てきていない。

どうしようかと焦ったが、画面内をよく見た瞬間、不安は杞憂に終わった。


 画面の下に、上下左右の矢印と、『アタック』『ガード』という文字が表示されている。

なんとなく操作方法がわかったし、どういうゲームなのかもプレイしていくうちにすぐに掴んだ。


 これは、いわゆるシューティングゲームだった。

縦スクロールで、敵の黒い宇宙船から放たれる攻撃を避けながら、その敵を攻撃してやっつけていく。


 アタックをタップすると攻撃ができ、それで敵をやっつけると、右上に表示されている数字が加算される。逆に攻撃を受けると数字が減る。

これが最終的なスコアになるのだろう。


黒い宇宙船のサイズは大中小とあり、サイズが大きい程一発では倒せないし、攻撃も強い。


ガードは、使えば相手の攻撃を弾けるが、一度使うとガードの文字が薄くなってしばらく使えなくなる。


また、こちらに体力ゲージのようなものは無かった。

やられてゲームオーバーということは無いらしい。


以上の繰り返しで、美月は気がついたらすっかり集中していた。


 3分程プレイすると、ボスらしきとても大きな宇宙船が現れた。

攻撃の弾幕が凄まじいが、美月は慎重に避け、確実に当てていく。


 一分ほど攻防を繰り返した後、大きな効果音と共に、ボスの宇宙船が消え去った。

明るいBGMが流れ、七色の文字で、『CLEAR』という文字が現れる。


「あ、終わった」


 特に苦戦するところは無かったように思えた。

次に画面が切り替わった時、緑色の文字で『84.25%』と表示され、その横には

『MIDUKI』と書かれていた。


「ハル、どこで苦戦したんだろう?」


 もっと慎重にいけば、多分パーフェクトもいけたように思える。

いちいち考えるのが面倒くさくて、あんまり『ガード』を使わなかったのだ。

そのせいで、時々被弾してしまい、スコアが減ってしまった。

しかし至って普通の、簡単なゲームに思えたが……。


「ま、いいか。にしてもハルとココロどこにいったんだろう……」

 一人言を呟きながら、端末をテーブルに置いた……つもりだった。


「……ん?」

 端末が、手から離れない。


「は? あれ?」

 ぶんぶんと手を振ってみる。

落ちない。


思いっきり引っ張ってみる。

離れない。


「……え?」

 美月が、端末を凝視した時だった。


「オメデトウゴザイマス、MIDUKIサマ。見事BATTLE TESTノ合格ラインヲ越エマシタノデ、証ノ品ヺ贈呈致シマス」


 端末からそのような合成音声が流れた、刹那。

クリア画面が突如として暗転した。


かと思ったその時、そこに光が灯った。

その光はどんどんどんどん強くなっていき、ついには端末の外にまで溢れだした。

眩い光が、端末の全身を包みこんだ。


 少しも目を開けていることが出来ないほど、強烈な光だった。

目がチカチカとし、痛くなってくる。

美月は強く目を閉じ、腕で覆った。


 一体どれくらいそうしていたのか。

そっと目を開けると、あの猛烈な光はおさまっていた。

若干目がしょぼついたものの、それもしばらくすると治まってきた。


「……なんだったの?」

 両の手を見た。端末が無くなっている。

ざっと辺りを見ても、部屋のどこにもなくなっていた。

美月は息を深く吐き出した。


 良かった。何が起こったかはわからないが、あのまま取れなかったらどうしようかと思っていた。

左の手首に何かついてるだけで、あとは何も……。


 そこまで考えた所で、美月はじっと手首を見た。


 黄色い腕輪のようなものが、左手首に巻かれている。

ブレスレットともバングルとも違った。


 輪っかの部分はつるつるとした素材で出来ている。

そして、小さい液晶画面のようなものが、その腕輪についている。

ちょうど、先程の端末を縮小したような見た目だった。


改めて、その腕輪を見た。

取り外せそうなスイッチやボタンは見当たらなかった。

引っ張ってみる。びくともしない。



 勢いよく立ち上がった。ガンとテーブルに思いっきり足をぶつけてしまったが、

その痛みには気づかなかった。

美月は廊下を走り抜け、外に出た。


「なにこれえぇぇ!!!!!!!!」

 山の中を、美月の悲鳴が駆け巡る。その声に、鳥が一斉に空へと羽ばたいた。

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