phase1.1

 “彼”は、機長席の正面に鎮座する操作卓のキーボードやパネルを素早く精密な動作でタイプしていた。


 この宇宙船の近辺に、着陸出来そうな星があるかどうかという情報を入手するためだ。


 もし無い場合は、かなり追い詰められた状況になる。エンターキーを叩いた“彼”は、果たしてどうなるかと考えた。


 少々の時間経過後、操作卓に埋め込まれたパネルに、一つの星の姿と、文字の羅列が表示された。


 “彼”は、パネルの文字をじっと見た。


 [太陽系第三番惑星地球]と表示され、横には[知的生命体反応アリ]という文字が並んでいる。

 地球の名を持つその星は、青色が中心の外見をしていた。


 データに無い星だったが、それならば“奴ら”もここに来るまでには時間がかかるだろう。“彼”は椅子に深く身を沈み込ませた。


 判断が誤っていたと、他に誰もいない操縦室内で自身の行いを振り返りつつ、“彼”は頭部に繋がれたコードを引き抜いた。


 備蓄品を補充するため、近辺にあった星を目的地に定め、そこに向かっていた最中、『奴ら』の包囲網にかかった。四方八方を『敵』の船に囲まれたのだ。


 逃げ続けたが、『奴ら』の機体の性能は今まで相手したことがなく、見たこともない最新鋭のものだった。性能の差は明らかで、逃げ続けても差は縮まる一方。


 しかも一機ではなく、これまた相手をしたことが無いほどの大人数。

 相手からの攻撃も容赦なく、自身の機体はどんどん破損していき、スピードが落ちていく。


 この状況を打開して相手から逃げ続ける為には、一気に遠い距離をワープするしかない。

 だが逃げるにしても、上手くいく可能性は0に等しかった。ワープのためのエネルギーが、足りなかったのだ。


 もともとエネルギーが足りない状態だった。だから補給のためどこかの星に着陸しようとしていたのだ。


 よって、最後の手段を取ることを決めた。


 自分のエネルギーを、ワープのエネルギーに回すという行動。


 自分のエネルギーと引き換えにしたおかげで、かなりの長距離をワープすることができ、『敵』も振り切れたようた。


 どうやら全てのエネルギーをワープエネルギーに変化させてしまったらしく、今“彼”が動けているのは非常用エネルギーが作動しているおかげだった。

 しかし、この非常用エネルギーも無限ではなく、いつかは切れる。


 “彼”は改めてパネルを見た。


 今までも“彼”は、見知らぬ星に着陸する際、細心の注意を払ってきた。


 例えば、その星は、『奴ら』の『支社』が存在しているか否か、など。


 今回も調べたいが、いかんせん時間が無い。一刻も早く本体のエネルギーを補充して、船の破損箇所を直して、必要な備蓄品を集め、そしてすぐに出発しなくては。


 そのためには、とにかくどのような星でもまず着陸することが優先事項だった。


 “彼”は、隣の席を見た。座席の上には、ボール大程の大きさをした、真っ白なカプセルが置かれていた。変わらずに、そこにあった。


 これを持ち出した時から、“彼”の運命は決まっている。

 その運命から逃れる為には、ただただ逃げ続けるしかないのだ。永遠に。


 “彼”は、操縦桿を握りしめた。

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