五章 綴る季節、気持ちの整理
第44話 二人の関係
5月も始まりを迎えた。
「じゃあ、麻百合は班一緒じゃなくていいんだね?」
「うん、誘ってくれてありがとう花音」
放課後、教室の私の席。
「当たり前でしょ。友達なんだから」
私は修学旅行の班決めで、花音に誘われたのを断った。
うちの学校の修学旅行は、四日間で、場所は京都と、オーソドックスだ。
そんな、学校の一大イベントを私はある一人と過ごそうと決めていた。
「じゃあ、私を断ったってことは、お目当てはあっち?」
そう言って花音が視線を送る方向、それは帰る準備をしている祈凜さんだった。いや、正確に言うならば、帰る準備ではなくベンチに行く準備だ。
「まぁ、そうかな」
はっきりYESとは言わない。
理由は、花音が祈凜さんをあまり好んではないないからだ。
それはそうだろう。いくら私達の関係を知っているとはいえ、悪口を言っていた相手なのだから。
だから、私は花音と話すときには、なるべく自分からは祈凜の話を出さないようにしている。
「麻百合とまわるの楽しみにしてたんだけどなぁ」
そんな、物欲しそうな顔で言われるとこちらも困ってしまう。
「冗談、麻百合は麻百合で楽しもうね」
「……ごめんね」
花音はそう言うと、私の座っている席を離れて、帰りの支度をし始めた。
それを見届けてから、もう一度祈凜さんを見ると、教室にはもういなかった。
少し慌てて私も帰る準備をしてから、祈凜さんを追いかける。
そうして、私が駆け足でベンチの方角に足を動かすと、目の前に祈凜さんらしき人物が歩いていた。
でも、あえて声をかけることはせずに、とりあえず、追い抜かしてみる。
するとその人は全然祈凜さんなどではなかった。
間違えて声をかけなかったことにほっとしつつも、また、祈凜さんを見つけるために走り始めようとした時。
「麻百合さん?」
後ろから声が聞こえた。
すぐに振り向くと、祈凜さんが立っていた。
「あれ?」
少し困惑する。てっきり、私より前に出ていったのだから、先にいるだろうと思ったのだ。なのに、後ろに祈凜さんがいた。
「ん? どうかした?」
「祈凜さん、私より先に教室出なかった?」
「あぁ、トイレ行ってたの」
なるほど。理解した。
わりと、トイレに行ってた祈凜さんを私が追い抜かしていたわけだ。
「ふふ、麻百合さんっておかしいね」
そう言って笑う祈凜さんは相変わらずの美人だ。こうして、笑っている顔を見れると言うのは案外私や沙夜だけなのではないだろうか。
そう考えると、自分は凄い恵まれている。そう錯覚してしまうような気がした。
「それで、麻百合さんはどうかしたの?」
「あぁ、そうだった」
ついつい、疑問に思ったことが先に出てしまい、本題に入れないのは私の悪い癖かもしれない。
とにかく、本題の話を今はしようと思ったのだった。
「祈凜さんって修学旅行の班決まってる?」
「いや、まだだよ」
返事をする祈凜さんはどこか曇った顔だ。祈凜さんは私達が流してしまった噂のせいで、未だに人との関わりがないのかもしれない。
なんとなく、悲しくなった。いや、私がそんなこと言うのもどうかしてる。自分がやったことだ。
「じゃあさ、一緒の班にならない?」
「え? でもそれだと麻百合さんが」
私の立場を案じてくれているのだろう。でも、もうそんなのどうでも良かった。
「気にしないでよ」
「いいの?」
「もちろん。いいに決まってるじゃん」
心なしか、自分が少し興奮しているような気がする。
「じゃあ、よろしくだね」
「うん!」
祈凜さんが受け入れてくれた。こんな些細なことでも嬉しいものは嬉しい。
◇
「ずるい」
「別にずるくない」
祈凜さんと二人で向かったベンチ。そこには当然、沙夜もいるわけで、沙夜が私の機嫌がいい理由について訪ねてきた。
そして、修学旅行でのことについてを話すと、不満をいい始めたのだった。
「私、留年すれば良かった」
「そんなこと言わないでよ」
とにかく、不満が一杯という顔。
祈凜さんもどこか戸惑った顔である。
「私だけ仲間外れだし」
沙夜がこんなに拗ねてるのをみるのは始めてかもしれない。
「じゃあさ、今度三人で出掛けようよ。それなら良いでしょ?」
「良くはない……けど、出掛けはする」
子供か。
そう、心の中で突っ込む。
「はぁ」
ため息が出てくる。
「で、どこに行くとか決まったの? 今年も京都でしょ?」
「いや、そもそも班員が3、4人いないといけないから、行く場所もなにも決まってないよ」
そう。あと、最低でも1人はメンバーが必要なわけだ。花音と祈凜さん以外に、クラスメイトに仲がいい人がいるわけではないので、こうなるとメンバーが決まらない可能性だってある。
というか疑問に思ったのだが、沙夜の修学旅行はどうだったのだろうか。
沙夜は一緒に行くような相手はいないだろう。
「沙夜は、メンバーどうしたの?」
「あぁ、私、修学旅行行かなかったから」
「「え?」」
私と祈凜さんの声が重なる。
あまりにも予想外の発言に驚いた。
「てか、麻百合は知ってるでしょ? 去年のこの頃、毎日このベンチに来てたんだから」
「あっ」
確かに、言われて見ればそうだった。なんであの頃は疑問に思わなかったんだろうか。
行かないなんて行動をする沙夜はやっぱりどこかおかしい。
「なんで行かなかったんですか?」
祈凜さんも疑問に思ったのだろう。
少し身を乗り出すように聞く。
「だって麻百合といたかったし」
「……」
ということはこの頃から沙夜は私のことが好きだったのだろうか。そう思うと少し頬が熱くなる。
ふと祈凜さんをみると、何故か不満そうな顔をしている。
どうかしただろうか。
すると、祈凜さんが急に立ち上がった。
「えっ」
驚いてつい声をあげてしまう。
すると、何故か沙夜も立ち上がる。
「沙夜さんの方がずるいです」
「ずるいのはそっちでしょ」
そして、一つ言い合ってから、同時に座る。
二人は目を合わせる気がないようだ。
……どうしてこうなった。
「えっと、二人ってそんなに仲悪かっ……た?」
「「別に」」
言うのが戸惑ってしまうほど、良くない雰囲気だ。
祈凜さんは沙夜のこと好きなはずだし、沙夜は祈凜さんと会話することなんてあまりなかったろう。
ホント、二人の関係に何があったのだろう。
何かあったとするなら、それは私がいなかった数日間か。気になるが、今の二人に聞けるようなタフさは持ち合わせていない。
そして今日はこのまま、この雰囲気が崩れることはなかった。
メンバーも決めなきゃいけないし、この二人は急に仲悪くなってしまったし、どうしよう。
◇
ブーブー。
「えーと……え? ホント?」
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