四章 秘密の危機、新学期
第36話 新しいクラス
「あぁ、違うクラス…」
新学期が始まる朝。
張り出されたクラス名簿を見た美月の悲痛な声が聞こえた。
「えーと私と花音が一緒で、唯と美月が一緒か」
私も美月の隣に立ってクラス名簿を見る。
今私は唯、美月、花音の三人と一緒にクラス名簿を見ていた。
クラスは私がさっき言った通りである。
嬉しいと思う自分がいる。
正直、美月とはもう関わりたくなかったのだ。
祈凜さんに告白してからと言うもの、変わらず普通に接してくれるが、たまに、本当にたまに悲しい目をしている時がある。
それを見ると胸が痛くなるのだ。
いくら美月が嫌いといえど、もう四年も付き合ってきた仲であるし、それに同じ人を好きになっているのだ。感情移入もするだろう。
私は内心でガッツポーズをした。
「花音、よろしく」
私は花音にそう言った。
花音はうんと無表情で頷いた。
確か三年生でのクラス替えというのはないので、つまり残りの二年間はこのクラスで過ごすのだ。
私は三人の中で美月と唯が物凄く嫌いである。だが、花音は別だ。
唯と付き合っているので同類であるとは思うが、特に私とあまり喋ったりするわけでもない。接点がないから、そもそも嫌いとかそういう感情にはならないのだ。
「麻百合と花音違うクラスかぁ、でも会える時は会えるよね!」
唯が言ってくる。
会いたくはないが、誘われたら行くしかあるまい。
例え違うクラスでも私は仮面を被り続けなければいけないのだ。
少し暗い気分になりながら改めてクラス分けを見る。
「…!?」
「…どうしたの?」
美月が驚いている私に聞いてくる。
「いや、えと、なんでもない」
びっくりし過ぎて噛んでしまった。
美月以外は私をみてはいないようだったので面倒くさいことにはならない。
今私は跳び跳ねるほど嬉しい。
なるべく表情には出さないように心がける。でも嬉しくてたまらない。
◇
「きーりーんーさん!」
「えーと……あの……」
二年生になって、初めての教室。
私は花音と共に教室に入ると、ある人物を見つけ、跳び跳ねるように駆け寄った。
もちろん相手は祈凜さんだ。
「ま、麻百合さん! いいの? こんなどこで私に話しかけて…」
あ。
そう言えばそうだった。
でも、いい。
どうせ唯も美月もいないし。あ、花音。
恐る恐る花音を見ると、きょとんとした顔で何がなんだかわからないと言った感じだ。
完全にやらかしてしまった気がする。
「ま、麻百合って……」
「……いやぁ、まぁ、あはは」
いつもクールな感じの花音がこれまで戸惑いを見せているのである。余程驚いたのだろう。
それはそうだ。私だって、友達がつい最近まで気持ち悪いとか言ってた相手と急に仲良くしてたら驚く。そして、変な奴だと思ってしまう。つまり、今の私は変なやつである。
私は乾いた笑い声しか出て来なかった。かなり焦っているのだ。もしも、花音が唯とかにこの事を言うようなら、唯達のグループからはずされ、私も一緒に影口を言われるだろう。祈凛さんだけならいいとかそういうことを言っているわけではない。ただ私は集団の和から外れることが嫌なのだ。
あんな風に祈凛さんに話しかけておいてだが、それでも何とか私は取り繕おうとしていた。
「いや、あのね。その祈凛さんとはさ……その……」
「麻百合ちょっときて」
花音が急に私の袖を掴み、廊下に引っ張られた。ちょっと怒った風である。
心配そうな、祈凛さんが視界に入るがなすすべなく、廊下に連れ出された。
「ちょ、ちょっと…花音?」
私が声をあげるが、それを無視して花音は私に話しかけてくる。
「麻百合って、幌萌さんとどういう関係なの」
どういう関係とは、つまり、私がどうして、祈凛さんと仲がいいのかを確かめようとしているわけだ。
「えーと、どうって……どうとは?」
訳のわからない質問で返す。花音は少し苛立っているようである。
ここは白を切っていていても、仕方ないのはわかっているのだが、あわよくばという思いで誤魔化そうとしているのだ。
「……麻百合、そんなのいいから教えて」
どうやら、通じないみたいだ。
もう、腹をくくるしかないのだろうか。
「……何を言えば満足なの?」
今、自分でもびっくりするくらい低い声な気がする。
「何って……ホントのことを話してくれればいいの」
めんどくさい。それが、今の私の本音だ。花音がこんなにめんどくさいヤツだとは知らなかった。まぁ、唯達と同じか。
もう、どうにでもなれと思う。
「私と祈凛さんは、友達。以上」
私は平常心を心掛けて、そそくさと教室に戻った。
やっちまった。と心の中で叫ぶが、もう後の祭である。
明日からは、私の陰キャ生活が始まるわけだが、気分が落ちるどころの話ではない。
教室に戻ってきて、自分の席に座ると、祈凛さんが心配そうに私を見ているのに気づいた。
それに対して、私はニコリと笑い返す。
その後、すぐに花音が入ってきた。
そして、私はある不幸に気づく。花音の席が私の斜め前だったのだ。
席まで、花音がやってくると、座らずに私の方を向く。
「……」
めっちゃ睨まれた。かなり、ご立腹のようだ。
おおぅ。こわいこわい。
花音が席に座ると、ちょうど始業のチャイムがなったのだった。
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