第34話 観覧車の雰囲気
「それでは乗ってください~」
係員さんのかけ声で私と祈凜さんの順に観覧車に乗った。
自然と向かい合った形になる。
「祈凜さん、どうだった? 今日は」
「凄く楽しかったよ、始めてジェットコースターとかフリーホールとか乗ったし」
本当に楽しかったのだろう。
声が弾んでいる。
「それは良かった」
誘ったかいがあるというものだ。
「そういえば、祈凜さんは怖いものとか大丈夫だったんだね」
お化け屋敷を思い出して言う。
「あ、うん。なんか入る時は怖いなぁって思ってたけど、結局そうでもなかったかな……遊園地さんに失礼か」
「まぁ、それは人それぞれの感じさせる方が違うから別に大丈夫だと思うけどね~」
「麻百合さんは? 私なんかといて楽しかった?」
「もちろん………もしかして忘れてる? 私の気持ち」
そんな訳ないことは知っているがあえて質問する。万が一「なんのこと?」とでも言われたらショックではあるが。
祈凜さんはブンブンと首をふって言ってきた。
「ち、違うよ! 覚えてるよ…ちゃんと」
語尾が弱々しい。
どうやら、祈凜さんは自信のない時や恥ずかしい時は語尾が弱々しくなってしまうようである。
祈凜さんがちゃんと覚えていたようで安心である。
「ふふっ、気にしないでちょっと茶化してみただけ」
「ねぇ、麻百合さん。どうして今日は私達だけだったの?」
聞かれるだろうと思ってたことだったが、結構突然である。祈凜さんは沙夜ほどではないが、たまにおっきな爆弾を落とす。
本当にたまになので警戒しようもないのだが、それがキツい時はキツいのだ。
「どうして……かぁ」
まぁ理由を話すのであれば、今私がしようとしていることはやり易い。
「祈凜さん、話を聞いてくれる?」
「もちろん」
「じゃあまず、私がお出掛けに誘った理由から」
祈凜さんはなんだか身構えているようだ。こちらとしてはそこまで深い話でもないので気楽に聞いて欲しいのだが、そこは祈凜さんの勝手でもあるので放っておく。
「この前、ベンチに久しぶりに顔を出した祈凜さんって元気なかったでしょ? それを見て、私が何か言ってあげたいと思ったんだけど結局何も言えなくて」
「それは、全然気にすることじゃないよ!」
私の言葉を遮るように言ってくる。
しかし、私は首を横にふって続けた。
「気にするよ…その理由は次に話すけど。とにかく、何かしたくて。もし、何か息抜きにどこかに行けたらと思って誘ったの」
そろそろ観覧車がてっぺんにきて、折り返していく。
てっぺんから見る景色は、午前のフリーホールの時みたいでとても綺麗だった。
でも、その景色に見とれることなんてなく私は話を続ける。
「次にさっき言った、私が祈凜さんが落ち込んでるのを気にする理由だけど」
「うん」
「もちろん、私が祈凜さんを好きだっていう理由もある」
「………うん」
頬を赤く染めながら、いたたまれないのか外に目線を反らす祈凜さん。
そういえば、こうして正面から好きっていうのは初めてかもしれない。
「でもね一番の理由は、祈凜さんがそういう思いをしたのは、私が原因だからなの」
祈凜さんは外に反らしていた視線を私に向けて、くっきりと目を見開いた。
「どういうこと?」
当たり前だが理解できていないようだ。逆にこれだけで理解できたら、普通に凄い。
「実はね私、美月から恋愛の相談をされてたの。祈凜さんのことが好きだっていう相談」
「え?」
「当然だけど、私と祈凜さんの関係は話してないよ」
ここで、ふとそうだったと思う。私は祈凜さんに私が唯達のことを嫌っていると、まだ言ってはいなかったのだ。
ついでだし言っておくことにする。
「ごめんね、祈凜さんには言ってなかったけど、私唯達のこと嫌いなの」
「…ちょっと理解が……ええと…」
理解が追い付いていないようだ。
「つまりだけど、表面上は唯達と付き合ってるだけで、中身は沙夜みたいな感じなの」
私の補足を聞いてもいまいちピンときていないようだ。
これ以上の説明は無理と判断する。
「ごめん話進めるけど、私は美月から受けていた相談を断っていたの」
「…う、うん」
「でもね、一言だけアドバイスを言ったの『告白してみれば』って…」
祈凜さんは至って真面目な表情である。私は申し訳なさでちょっとずつ、祈凜さんを直視できなくなってきた。
「私がね、そんなこと言わなければ、きっと祈凜さんは…悩むことなんてなかったと思う。だから、私のせいなの……本当にごめんなさい」
頭を下げた。
許してもらう気なんてない。逆に罵られたい気分だ。
言っている通り、完全に私に非がある。
だからこその覚悟である。もう、祈凜さんはベンチに来なくなるかもしれない。
それでも仕方がないのだ。私が悪い。
しばらく、頭を下げたままでいると祈凜さんが声をかけてきた。
「頭を上げて、麻百合さん」
随分と優しい声だ。
私がゆっくりと顔を上げると祈凜さんはあの笑顔をしていた。凄く綺麗で万人が見とれるであろうあの笑顔だ。
私は頭が混乱していた。
確かに祈凜さんであれば、許してくれる可能性もあるなんて甘ったるいことを考えてたのは認める。
しかし、何故今この笑顔なのか全く理解ができなかった。
「そうだね、麻百合さんのせいだね」
その笑顔のまま話してくる。
やはり私の甘ったれた考えではないようだ。
私は息を飲んだ。
「でも、いいの」
「え?」
「別に謝ることじゃない。麻百合さんは私のためにこうやって出掛けるのに誘ってくれて、遊園地に来させてくれて、色々案内してくれて」
「で、でも! それ…」
それは祈凜さんに迷惑をかけたから。そう言おうとしたのだが、祈凜さんが私の唇に人差し指を当てた。
ひんやりとした温度である。
だんだんと祈凜さんの顔が穏やかな表情になっていく。
まわりの景色なんかはもはや目に入ってこない。目の前の麻百合さんだけがとても綺麗に輝いていた。
「私は麻百合さんに感謝こそすれど、謝って欲しくなんかないな」
ドキドキしていた。
私は、この言葉で胸に刺さっていた針が抜けたような感じがした。
「
「
私達が笑顔でそう言い合うと、丁度観覧車が一周を終えたところだった。
◇
「そう言えば」
観覧車を降りて、出口へ向かっている途中。
もう一つ謝らなければいけないことがあった。
別にバレているわけではないし、多分今は余計なことであると脳で理解しているが、私は謝らないと気がすまない。
「どうしたの?」
「実は……」
私はその場で足を止めた。
「あの、この前の泊まった時に……祈凜さんにキスしちゃった」
「へ?」
祈凜さんは上ずった声で、さっきなんかより全然驚いた顔をしている。
これは完全にやらかしてしまったかもしれない。
口をパクパクと動かしたと思ったら、凄く神妙な顔をする祈凜さん。
気まずいなんてものではなかった。
もっとそれ以上に空気が重い。
「……」
「……」
しばらく黙っている。
すると遊園地内にアナウンスがなった。
内容は、もうすぐ閉園するということだ。
私も祈凜さんも特に何も言わず、遊園地を出るまで歩いた。
遊園地を出るときに、ご来園記念ということで、『たこキング』のブロマイドカードをもらった。
やはり何か、コラボでもしているんだろう。
しかし、祈凜さんはそれを見ても何も反応しなかった。
出口のゲートをくぐり、少し開けた広場にでると、祈凜さんは足を止めた。私もそれに合わせて歩みを止める。
「……」
「……」
変な汗が出てくる。
こんなに寒いのにだ。
辺りはもう暗くなり初めていて、周りでは街灯もついている。
祈凜さんは何も発しようとはしないので、ぼぅっとして、とにかく返事を待った。
時間なんて見てないからわからないが、気分的には一時間くらいいる気分だ。しかし、まだ完全に暗くなりきっていないことからそんなに時間は経ってないんだろう。
「…はぁ」
手が冷たくて、息を吹き掛ける。
真っ白な息が目の前に広がって、すぐに空へ登っていった。
その時である。
「夢じゃなかったんだ」
祈凜さんが本当に小さく、聞こえるか聞こえないかの声で、小さく言った。
私はそれを聞いたのを心の中で確かめてから、質問してみる。
「祈凜さん、怒ってる?」
「…少し」
さっきよりかはすこしだけ大きいが、それでも今度ははっきり聞き取れた。祈凜さんは決して私に目を合わせようとしない。
「……ごめん」
「……」
また、黙りこんだ。そう思ったが違った。
急に私の正面に立ってきた。
「…麻百合さん」
「は、はい」
緊張する。
なんて言われるんだろうか。
「…初めてだったんだよ、私」
相当怒っていると思い、目を瞑って叩かれる覚悟もしていたが、全然そんなことはなく、むしろむちゃくちゃ可愛い声で言ってきた。
目を開いて見ると、上目遣いで私を見てきている。
え、えーと。これは。どういう状況? 誘ってるんだろうか…。
「えと、き、祈凜さん?」
「…なに?」
この状況で流石に「キスしたい」なんて、言えない。
言ったら今度こそ、アウトだ。
でも、あまりにも可愛いものだから、ついムラムラときてしまう。
「……」
そして、言ってしまった。
「キス、させて」
祈凜さんは別に驚いた顔もすることはなく、至って普通の顔だ。顔が赤いのは気のせいである。
「……いい、よ」
「……」
私は直ぐに動いた。
流石に抑えきれなかった。
祈凜さんの唇に私の唇を重ねる。
「んっ」
凄く興奮している。
全身がむず痒い。
ちょっと触れるだけのキス。
でも、それ以上もやりたい。
舌を侵入させる。
祈凜さんは一瞬抵抗を見せたが、それもすぐやめ、私の身を任せた。
抱きしめながら、祈凜さんの舌と私の舌とで絡ませ合う。
チュッ。チュパッ。となる音が尚更私を興奮させた。
しかし、その幸せの一時は祈凜さんの急な抵抗で終わってしまった。
「……えっと…」
「…麻百合さん、やり過ぎ」
顔を真っ赤にして、言う祈凜さん。
多分私も真っ赤である。
「ごめん…」
「別に……気持ち良かった」
嬉しい。
私も最高に気持ち良かった。それを祈凜さんも感じてくれていたと考えると、本当に嬉しかった。
私の体はずっと火照っていた。
「麻百合さん、勘違いはダメだよ? あくまでも私達は友達だから」
気持ちが落ち着いて、やっと体の火照りも収まると、祈凜さんがそう言った。
もちろん、分かっている。
「分かってる、祈凜さんが好きなのは沙夜だもんね」
「うん」
私は自分でそう言ったが、言っている自分が悔しかった。
とにかく、この気持ちというか状態は非常に不味い。
話題を変えるために、話しかけた。
「祈凜さん、美月の告白どうするの?」
「…断るよ」
そうか。
そして、私もある決心をした。
それと同時に祈凜さんが、私に言ってくる。
「麻百合さん、私と一緒に中嶋さんのとこ来てくれる?」
私はそれに対して勢いよく頷いて。
「もちろん!」
と言ったのだった。
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