第33話 デート?

「冬の遊園地って……こんなに人数少ないんだね」

「だね。やっぱ寒いから?」


 私は遊園地に来ていた。もちろん一人ではなく祈凜さんも一緒にだ。


 この前あえて、メッセージでお出掛けに誘ってみた。

 何故メッセージだったのかだが、ベンチには沙夜がいたので言い出せなかったからだ。一応、沙夜に気を使ったのである。


「というか、遊園地って夏に来るもの?」

「いや、別にそういうことはないと思うけど」

 このがらんとした遊園地を選択したのは祈凜さんだった。

 出掛けようと誘ったら、遊園地に行ったことがないとのことだったので、目的地はここだった。


「いいや……祈凜さん何のる?」

「えーと、麻百合さん私あまりわからないから、連れていって?」

「おーけ! もちろん! じゃあ、まずあれからいこうか」


 私が指を指した先には、イスが上から下に落ちるフリーホールがあった。

 私はああいう絶叫系と言われるアトラクションが好きなので大丈夫なのだが、もし祈凜さんがそういうものが嫌いなら今日は絶叫系は外そうと思っていた。

 その為にも、最初に乗って確めるのが一番である。


「…楽しそう」

 祈凜さんがぼそっと呟いたのが聞こえた。

 この調子なら大丈夫そうである。


 私達はフリーホールの場所へ行った。

 遊園地のスタッフジャンパーを着た係員さんが、ニコニコした表情で迎えてくれた。

 全く混んではいないので、誰も待たずとも乗れる。

 二人でフリーホールに乗り安全装置を固定する。因みに私達以外にも数人乗っているようだ。


 全て準備し終わると、機械が動き始める。

 祈凜さんは初めてだからか少し緊張しているように見える。

「大丈夫?」

「う、うん」

 少しじゃなくて、凄くの間違えだった。


 徐々に座っている席が上がっていって、とうとうてっぺんまで上がりきった。

 ここから見る景色は最高である。ベンチから海を見るのと同じくらいだ。


 ゆっくりと堪能していたいと思ったのだが、急に席が落下し浮遊感に襲われる。

「……」

「……」

 別に泣き叫ぶほどではない。だが、少し驚いた。


 下に完全に降りると、あの景色を思い出してぼんやりしていた。


「…麻百合さん?」

「…え? あぁ、ごめん」

 そうだった。

 つい景色に夢中で祈凜さんが絶叫系、大丈夫かどうかを確めるのを忘れていた。


「どうだった?」

 仕方がないので、聞いて確める。


「楽しかったよ」

 ふむ。

 本当に楽しそうである。この様子なら、今日は絶叫系を全てまわれそうだ。


「じゃあ、どんどん行こっか」

「うん!」




 私達は午前中いっぱい、絶叫系マシンを回った。だいたい全ての絶叫系は回れただろうか。

 祈凜さんは結構絶叫系にハマったみたいで、いくつかのマシンを複数回も乗った。人数が少ない分乗り放題だ。


 祈凜さんの顔が少し青っぽいのを気にしながら話しかける。

「楽しかった?」

「…うん。でも少し吐き気が…」

「あぁ、そこのベンチで休もっか」


 乗り放題だからと、少しやり過ぎたかもしれない。私もよく酔うことがある。


 二人でジェットコースターの近くのベンチに腰を下ろした。いつも座っているベンチとは少し形状が違うので、なんとなくお尻に合わない。


「ちょっと待ってて、飲み物買ってくるね。何がいい?」

「ありがとう…オレンジジュースお願いしてもいい?」

「了解」

 私はベンチから30メートルほど離れた場所にある自動販売機の元へいく。


 二つの自動販売機があるのだが、片方の自動販売機で売っているものをみて目を見張る。


「えーと、何これ?」


 何故か『たこキングコーヒー』やら『たこキングオレンジ』などと、全ての商品に『たこキング』の文字がついているのである。


 たこキングとコラボでもしているんだろうか。

 まぁ、祈凜さんが喜びそうだしいっか。

 そう思い、お金を入れ『たこキングオレンジ』ボタンを押すと。


「……」


 普通のオレンジジュースが出てきた。

 手にとって自動販売機に並べられている見本と見比べてみるが、見た目合っているのは500mlというサイズだけでパッケージは全くの別ものである。


「…新手の詐欺か」

 少し謎だった。


 私自身の分の飲み物は隣の自動販売機で購入し、祈凜さんの座っているベンチに戻った。


「大丈夫?」

 飲み物も飲んだからか、少し顔色が良くなっている。

「……うん。なんか……お腹減ってきたね」

「あ、もう1時か」

 祈凜さんと出掛けた前回もだが、お昼をとる時間を優に過ぎていた。


 祈凜さんのお腹がぐぅっと鳴った。

 祈凜さんの顔が赤く染まっている。随分恥ずかしいようだ。


「お昼食べようか」

「…うん」


 私達は遊園地内にあるレストランに向かった。





 今回、私が祈凜さんを出掛けるのに誘ったのは二つの理由があってのことだった。

 一つは祈凜さんのちょっとした気分転換にである。


 ベンチに来てくれた祈凜さんはかなり落ち込んでいたようだった。美月からの告白でだ。

 私が美月に「告白すれば」なんて言ったからだ。

 祈凜さんに私は何も言えなかった。私のせいでそうなったのに、何も言えないなんて悔しい。

 せめて、祈凜さんがリラックスしてくれればと思ったのだ。


 そして、二つ目は謝ろうと思ったのだ。美月のこと、それに私が泊まった時にやったことを。


 流石に沙夜には言いたくない。

 絶対拗ねるし、下手をするとキスをねだられそうである。

 だから今回はあえて、沙夜を誘わなかった。


 でも、本音を言うと今回は駄目元での誘いだった。

 祈凜さんは、私が祈凜さんのことが好きなのを知っているのだ。その相手にいきなり誘われる。

 普通、了承しないだろう。


 単純に私を友達としてしか見れないとかそういう理由なら納得でもあるが、恋愛対象ではないということでもあるので嫌でもある。



 一つ目の目的に関しては、概ね達成できただろうか。しかし、二つ目はこれからである。

 もし、私がしたことで祈凜さんに嫌われるかもしれない。だが、仕方がないことである。

 私はその覚悟を決めていた。




 時刻はそろそろ午後4時。もう日もくれてきた。


 お昼を食べてからは、あまりハードではないものを回った。

 コーヒーカップや空中ブランコとかである。


 空中ブランコはなかなか強烈だった。絶叫系でも感じていたのだが、とにかく寒い。

 この地方は冬に降水量や積雪が特に少ないので乗り物が凍ったりはしないのだろうが、それでも寒さは変わらない。


 まぁ、普通に歩いていても寒いのに、機械に乗って高速で風に吹かれればそりゃ寒いに決まっている。

 係員の人達はよくそんな中でずっと笑顔でいられるなぁと感心してしまった。


 因みに、お化け屋敷にも行ったのだが、かなりリアルなお化け屋敷であった。と言っても私も祈凜さんもお化けなんかは信じていないので、出てくるお化けの格好をしたスタッフさんを少し冷ややかな目でみてしまった。


 その度にはっとなり「すみません」と謝ったが、小声で「仕事なので」と言われた。


 遊園地のスタッフって寒い中外で働かせられたり、お化け屋敷で変な目を向けられたりと、案外ブラッ……働いてる人に失礼か。


 まぁそれはさておき、確かここの遊園地は4時半が閉園なので、次に乗るものが最後になるだろう。人がいない分だいたいは回れたので、何に乗ろうか迷っていた。


「うーん…」


 どうせ最後なら祈凜さんに決めてもらおうかな。

「祈凜さん、最後何乗りたい?」

「え?」

 急に聞かれて一瞬驚いた表情をして、その後に悩んだ表情をすた。


 祈凜さんは、遊んでいる途中に買った『たこキング』の手袋を握り占めている。ちょっと子供っぽいなと思ってしまったのは秘密である。

 ぐるぐると辺りを見回していると、一点でその動きが止まった。


 そして、祈凜さんは指を指しながら言ってきた。

「あれ、乗ろうよ」


 祈凜さんが指を指したのは、

「観覧車、ね」

 そう、観覧車である。


「おーけー、行こっ!」

 私は無理矢理元気を出して声を張り上げた。

「うん!」

 祈凜さんもそれにのって、大きく返事をした。



 私は分かっている。

 ここだと。この時だと。

 夕方、閉園前、観覧車。ここまで揃うとある意味テンプレ過ぎて笑みさえこぼれてくる。


 私のもう一つの目的。

 謝罪。そして、告白である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る