第23話 祈凜の世界② (番外)

 聞いてしまった。


 何となく触れてはいけない気もしていたのに。それでも気になってしまった。


 私が聞いてしまったばかりに、先ほどまでテンションが上がりまくっていた麻百合さんも、どことなく困った表情だ。


 これではいけないと思い、なんとか聞いたことを誤魔化すも、浮かない表情は変わらない。


 どうしよう。また、やってしまった。

 私は昔から、明らかにここでは聞かないだろう、と言うものを判断がつかず、聞いてしまうのだ。

 今回も多分、それであった。


 それでも麻百合さんは無理をして答えてくれようとした。


 沙夜さんが来ないのは自分のせいだと。

 そんな事ないと反射的に言ってしまいそうになったが、事情を知らない私が言ったところで実際にはわからないのだからしょうがない。


 そして麻百合さんは、それに加えて何かを決意したような感じで言おうとしていた。


 急に嫌な予感がした。

 麻百合さんの言わんとしていることが、もしかしたら、私が知ってはいけないことのような気がしたのだ。


 だから麻百合さんが喋り始めてから、待ったをかけた。

 聞きたくなかった。

 止めなければと思った。


 私の言葉を聞いて、黙る麻百合さん。

 きっと、麻百合さんは決意したからには、もう話す以外に選択肢はないと思っているのだろう。でも、私も聞く気など毛頭ない。

 私としては珍しい、少し喧嘩ごしだったかもしれない。でもそれくらい、麻百合さんが無理をしようとしているような気がしてならなかった。


 素直に聞けないと言った。

 反応はない。


 言えるときに聞かせてと言った。

 それでも、反応はない。


 少し、焦った。

 でも、我慢比べなら、いつまででもする気だ。

 しばらくして、一応駄目推しにもう一度確認する。


 それでも黙っているかと思ったが、麻百合さんはそこで折れた。

 言ってはわるいが、案外拍子抜けだった。

 別に、何か張り合っていたわけでもないが…。何はともあれ、これで大丈夫な気がする。麻百合さんが嫌がっていることは私だって嫌だ。


 これで少し、安心。



 麻百合さんが、私の隣で横たわっている。

 もう、24時は回っただろうか。私は大分眠かった。


 すると、急に麻百合さんが話しかけてきた。

 明日の予定を聞かれた。少し気が引き締まる。何かあるのだろうか。


 先ほどのこともあったので、少し身構えていたのだが、用はただ明日何かしらのことに付き合ってとのことだ。

 何だそんなことか。

 気が抜けて、眠気がまた襲ってきた。


 何をするのかは明日教えてくれるらしい。分からないけど、なんだか楽しみだった。


 良く考えれば、もともと悪口を言われてた私と悪口を言っていた麻百合さんが、お泊まりをして、休日に一緒に過ごすような仲になったのだ。

 恨んでなどいない。むしろ、感謝すらしてる。私なんかと一緒にいてくれる。今はそれだけで嬉しくて仕方がなかった。


 少し早起きしないとなぁ。なんてわくわくした思いを噛みしめ、眠りについた。





 私は今、正直機嫌が悪い。

 麻百合さんには失礼な態度をとってしまっているがそんなことは気にしていられないくらいだ。


 原因は麻百合さんだった。

 今日の麻百合さんはどこか変なテンションだ。何故かは分からないが、嫌な感じがするのだった。


 急に何も言わずショッピングセンターにつれてこられて、何を買うのか聞けば沙夜さんへのプレゼントを買うとしか言われず。

 そして、今はショッピングセンター内で、ものを漁っていた。


 正直、想像していたのと違った。

 もっと楽しく麻百合さんと過ごしたかったのだが、全然これっぽっちも楽しくなんかはない。


 はぁ。


 自然とため息が出るのも無理ないだろう。


 麻百合さんが店を変えようと言い出した。まぁ、楽しくはなくても付き合うと言った手前、もう行かないなんて選択肢はない。でもこの時点でなんとなく、精神的に疲れていた。


 ついていくと、何故だか一瞬麻百合さんが私を見たような気がした。

 私のせいかなと思っていたのだが、急に向かっていた方向から真逆に方向転換した。

 特に何も言わず、その突拍子もない動きにもついていく。


 しかし、その向かった方向というのが、また私の気分を悪くした。

 ゲームコーナーである。


 私は小さい頃の思い出で少し、ゲームコーナーやゲームセンターが嫌いだった。

 確か、中学、高校と一度も来ていなかった気がする。

 麻百合さんはそんな事は知らないかもしれないが、それでも、昨日ゲーセンに誘われた時に拒否をしたはずだ。私が嫌がるのにこんな場所に、なんて思ってしまうがまだなんとか心の中だけで止めることができた。


 麻百合さんの様子からするに、多分私が嫌がっているのをわかっていて連れてきたような感じだ。

 少し腹がたった。

 いくら、付き合うと言っても自分の嫌いなことまでは付き合いたくない。


 麻百合さんにはなるべくやんわりと断ろうと意識して、声をかけた。


 だがしかしだ。

 私の言葉は聞かず、腕を捕まれて中に連れてかれた。

 少しというか、かなり強引である。

 私は抵抗しようと思ったが、やめることにした。


 自暴自棄になった感もある。

 それ以上に何故か、腕を捕まれた瞬間、何かがあるんじゃないかという期待感が生まれた。

 今まで、友達ができてもこうまで私のことを強く誘ったり、引っ張ったりしてくれる人は居なかった。

 そして、それが少し嬉しかった。



 結局、楽しんでしまった。

 嫌いなイメージがあったゲームコーナーがこんなにも楽しいとは思わなかった。

 案外そんなものだ。小さい頃嫌いだったキノコだって今になれば好きと言えるようになった。


 案外、子供の好き嫌いとはそんな物かのかもしれない。


 私の好きなキャラクター『たこキング』のぬいぐるみも手に入ったし。

 あれだけ、心のなかで文句を言ってたのにこんなに楽しんでしまって。麻百合さんに対して謝りたいと思った。


 そろそろお腹も減ってきていた。昼食の時間帯はもうとっくに過ぎている。

 麻百合さんに言うとショッピングセンター内のうどん屋に行こうと言い出した。私も賛成だ。あそこは量もそこそこあってそれでいて美味しいし、学生にとってはリーズナブルな価格だ。


 ゲームコーナーを抜ける途中、麻百合さんが何故か綺麗なリボンがあるUFOキャッチャーに興味を示した。

 私に少しやらせてと言ってリボンをとり始める。


 百円、百円、また百円と入れていって、かれこれ十五分くらいはやっていた。

 取れた個数は八個。

 何個か赤やピンクで色がかぶっている。


 けどまだやめる気配はない。唯一とれてない白を狙っているみたいで、また百円を入れた。

 アームをスムーズに動かす麻百合さん。

 結構な回数を重ねているだけあり、さすがに上手くなっていた。


 アームが白いリボンの端を引っかける。


 なんだか関係ないのに私まで緊張してきた。


 落とし口まであと少しで、アームが揺らいだ。

 危ないと思うと、リボンは落下。


 でも、落とし口の近くにあったもうひとつの白いリボンにたまたまあたって、そちらが落ちた。


 白いリボンを取れた麻百合さんは喜ぶ。

 私も内心やったと喜んだ。



 昼食を食べにうどん屋にいくと、流石にこの時間なので、ほとんど人がいなくてびっくりした。

 私はカツ丼を、麻百合さんはうどんを頼む。


 何故私がカツ丼かというと、うどんの種類が多くて選ぶのが面倒くさかったからだ。

 それと、蕎麦屋のカツ丼は美味いと良く聞くが、うどん屋はどうなのか少し気になった。そんな阿呆みたいな理由だ。


 できたてほやほやのカツ丼が男性店員によって運ばれてくる。

 何ともまぁ、美味しそうだ。

 お腹が減っているので余計そう感じるのかもしれないが、早く口に運びたかった。


 一口目を食べる。すぐに二口目も。

 普通に美味しい。

 自分でもそんなにお腹が減っていたのかと思うほどに勢い良くたべる。


 こうなってしまうと蕎麦屋がとかうどん屋がとかは、関係ない。

 やはり、お腹が減っている時は何でも美味しく感じてしまうので、比べたりするのは向いてない。


 私がカツ丼を食べていると、麻百合さんの食べているうどんが目にはいった。

 つい、うどんも美味しそうだなぁと思ってしまう。

 人の食べてる物を見るとなんだか自分も食べたくなって来てしまうものだ。あまり、人と食べることもないので、そう思うような機会は少ないが、毎回人が食べるのをみるとそう思ってしまう。


 普段はそんなに食い意地は張っていないのだが、今日に限っては少し違ったみたいだった。



 昼食後ショッピングセンターを出る。

 疑問に思ったことであるが、麻百合さんは当初の目的だった、沙夜さんへのプレゼントを買っていない。


 どうするんだろうと思って聞いてみると、以外な答えだった。まさかのUFOキャッチャーで取れたあの白いリボンをプレゼントとするらしい。


 でも、それをつける沙夜さんを想像して、何となく良いなと思った。


 今日は麻百合さんに付き合って良かった。

 そう思えた。


 しかし、まだ終わってはいない。

 まさか、この後に沙夜さんと麻百合さんがああなるとはこの時、予想もしていなかった。



「ねぇ麻百合さん、因みに私達は今どこに向かってるの」


 電車に乗って移動する麻百合さんに問いかけた。


「どこだと思う?」

「…また?どこかに買い物?」

「違うよ」

そう、違った。


bancoベンチだよ」


「は?」


 思わず、声が漏れたのだった。

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