第20話 ゲームコーナー

 お泊まりの次の日の土曜日。そろそろ午前10時くらいになる時間。


「よし、じゃあまず買い物だ」


 私と祈凜さんはショッピングセンターに来ていた。

 と言うのも、私がここに連れてきたからである。


 昨日、寝る前に約束したのだ。今日は付き合ってもらうと。

 つまり、約束したように、今日は祈凜さんに付き合ってもらう予定である。


 朝起きて一度家に帰ってから、出来るだけ変装してショッピングセンターにきたのだ。

 さすがに、知り合いに祈凜さんといるところを見られる訳にはいけないからだ。


 私は早速ショッピングセンターの中を進もうとする。

「ま、待って、麻百合さん」

「…どうしたの?」

 しかし、祈凜さんが呼び止めてきた。


 私は祈凜さんが言いたいことを何となく理解しながらわざとらしく聞く。自分でも嫌な態度だという自負はあるが、こうして嫌な態度でもとらないと、この二人でいる時間に私が何をしてしまうか分からない。それほどまでに祈凜さんとのお出掛けに心が踊っている。

 多分だが、祈凜さんは私が何のためにここのに来たのかが知りたいのだ。


「何を買いにきたの?」


 やはりそうである。

「理由聞きたい?」

 そう聞いてきているのに私はあえて問いかけて返す。

「うん」


「沙夜にあげるものを買うの」

「…どういうこと?」

 そのままの意味だ。

 私はあえて返事をしないまま、歩き出した。


「まってよ、麻百合さん」

 祈凜さんも私の後ろについてくる。



「どんなのがいいと思う?」


 オシャレな雑貨屋。

 私は物を見ながら祈凜に聞く。


「どんなのって言われても……私より沙夜さんのこと知ってるの麻百合さんでしょ?」

 祈凜さんは拗ねたように言う。

 さっきからずっとだ。


「うーん、だよね…」


 商品を手に取っては置くを繰り返す。


「……違う店行くかな」

「……はぁ、はいはい、ついて行きますよ」


 全然楽しくなさそうなのは申し訳なく感じる。

 それから、三軒ほど回ってもピンとくるような商品はない。


 いい加減疲れて来たのだろう。祈凜さんの顔にはそれが如実に現れていた。

「祈凜さん、少しゲームでもしよっか?」

 少しでも息抜きになればと思い提案。

「え?」

「ついて来て」


 私が歩いていくと、祈凜さんもしぶしぶとと言った感じでついて来た。


 そして、ショッピングセンターの小さいゲームコーナーにつく。


「ゲームって…これ?」

「そ」

 祈凜さんが昨日ゲーセンに誘っても来なかったので、少し無理矢理だが、連れてきた。


「ごめん、私こういうのはちょっと……やめない?」

 祈凜さんはここまで来て、ゲームはやめようと言い出した。どうも硬い表情をしている。

 多分何か理由があるんだと思う。


 私としても別にゲームをどうしてもやりたい訳ではないが、ここまで来て何もしないのも嫌だった。

 私は、祈凜さんの右腕を掴んでコーナーに入って行く。


「ちょ、麻百合さん!?」

 祈凜さんの抗議の声は聞かず、ぐいぐいと引っ張る。


 祈凜さんも祈凜さんで、抗議をしている割には、抵抗はしなかった。

 もしかしたら結構押しに弱いのかもしれない。


 まずは、誰もが簡単にできる音ゲーだ。


「はい、バチをもって」

 私は、笑顔で祈凜さんにバチを渡す。


「え? ど、どうやるのこれ?」

「簡単、簡単。流れてくる、赤い丸と青い丸に合わせて、太鼓の内側と外側を叩くだけ。聞くより慣れだよ」


 私はそう言って、コインを入れて、曲を選ぶ。

「おっと、良い曲発見!」

 祈凜さんの、椎名咲桜の歌があった。

 私はあえてそれを選曲する。


「えぇ! 何でその曲!」

 祈凜さんは明らかに不満そうだ。

「ふふん、良い曲だから!」


 そんなこと言ってる間に曲のイントロが始まる。


「ええと、赤だから内側で……青は外で…」

 私が完璧に叩くのに対して祈凜さんはなにやらぶつぶつ良いながら太鼓を叩く。


 それにしても下手くそだ。

 歌はあんなに上手いのに何でだろうか。


「ふふっ、変なの」

 つい、笑ってしまった。

「ひ、酷いよ」

 祈凜さんが少し涙目になりながらそう言ってくるが、そんなことは気にせずゲームに集中した。


 それにしても良い曲だなぁ。



 そんな感じで、祈凜さんを連れてゲームコーナーをまわった。


 やはり慣れていないのか終始「これ、やり方は?」とか「どう動かせばいいの?」と聞いて来た。


 その姿は祈凜さんの見たことのない一面で、なんだか特をした気分である。

 祈凜さんも次第に楽しめるようになってきたようで表情がさっきと比べ、柔らかいものになっているみたいだ。


「麻百合さん見て見て!」

 今はUFOキャッチャーをやっていて、ちょうど祈凜さんがぬいぐるみのような物をとったところだった。


 祈凜さんがとったそれ物は……。

「えーと、祈凜さん、それなに?」

 明らかに変である。たこのようにも見えるし、何か別の物にも見えるキャラクターだ。


「え! たこキング知らないの!」

 そんなもの、一度も聞いたことがなかった。


「う、うん。わかんないな」

「うそぉ~! 信じられない」

 どうやら、祈凜さんは相当その『たこキング』とやらが好きみたいだ。

 大事そうに抱えている。


「こ、今度教えて」

 少し、たこキングが気になり祈凜さんにお願いする。

「もちろん! うちにDVDもあるよ!」


 どうやら、アニメ? があるようだ。

 少し今後の楽しみが増えた気もする。


 ぐぅぅ。

 急に祈凜さんのお腹から音が聞こえた。

 祈凜さんを見ると赤面している。

 どうやらお腹がなったようだ。


 私がスマホを開いて時間を確認すると、もう一時をまわっていた。

「あれ? もうこんな時間」

 随分と、ゲームコーナーで遊んでいたようだ。


「お腹…ヘッター」

 祈凜さんは顔を真っ赤にして、恥ずかしさのあまりか片言で言ってくる。


「じゃあ、昼食にしようか」

 ここのショッピングセンターには、飲食店も備え付けられている。


「うん!」

 祈凜さんは無邪気に返事をした。

 この様子だと、ゲームコーナーに来たことはそんなに気にしていないようだ。

 少し安心する。


「にしても、ショッピングセンターは便利だよね」

 祈凜さんが感心したように言う。

「アメリカからだっけ? 大型ショッピングセンターって仕組みが来たの」

「うん、確かね」


 本当に祈凜さんの言うとおりである。

 一つの場所に雑貨店やゲームコーナー、飲食店までついているなんて、便利過ぎる。


 でも確かこのショッピングセンターがアメリカから入ってきたせいで、古き良き、色んな店が潰れてしまうということもあるのだ。

 そう考えると便利過ぎるのも困ったものである。


「あ、」

「どうかした麻百合さん」


 私はゲームコーナーであるものを見つけた。

 多分、安物だろうけど、それが何故か私の心に響いた。

 それは、UFOキャッチャーの商品で、多分とるのはそう難しくはないだろう。


「祈凜さん、あれだけ取っていい?」

「……? わかった」

 祈凜さんはなんだか良く理解していないようである。


「さ、とるよぉ!」





 結局とるのに30分もかかってしまった。

 しかも、総額2300円。

 いくつか取れたのだが、どうしても一種類だけとりたいものがあったのだ。


 結局とれたが、祈凜さんには少し呆れられた。



 飲食店での昼食。

 私はうどんを祈凜さんはカツ丼を食べた。

 美味しさで言えば、昨日食べた祈凜さんの料理にはかなわないような気もするが、祈凜さんは満足のようだし、良しとする。


 3時頃になると私達はショッピングセンターを後にした。


「良かったの? 沙夜さんのプレゼント」

 心配したように聞いてくる祈凜さん。最初は文句を言っていたが変わるものだ。


「いいのいいの、それに手に入ったし」

「まさか…さっきの?」

「うん、そう!」

 沙夜へのプレゼントはさっきゲームコーナーでとったあれだ。


 祈凜さんは驚いているようだが「麻百合さんがそれでいいなら」と言ってくれた。



「ねぇ麻百合さん、因みに私達は今どこに向かってるの」


 ショッピングセンターを出た私達は電車に乗っていた。


「どこだと思う?」

「…また? どこかに買い物?」

「違うよ」


 そう、今私が向かっているのは、


bancoベンチだよ」


「え?」

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