第16話 二人だけのベンチ
テスト二日目。
私は今日、寝ていない。
寝るのと寝ないのだとどれくらい違うのか試してみたかったのだ。
結果、今日は絶不調だった。
放課後、ベンチに行こうか迷ったのだが、祈凜さんが今日もこれないとのことなので行くのはやめにした。
因みによく考えると、ベンチに行かない日というのはこれが初めてだったりする。雨の日なんかは抜かしてだが。
行って、また沙夜にでもあったら最悪だ。
昨日のことがあって、沙夜から何件かメッセージがきていたのだが、私は全て無視をした。
自分でも何故、こんなことをしているのかわからないが、一つ言えるのは私は沙夜に対して腹が立っているということだった。
テスト三日目。
今日はしっかりと寝てみた。
そうすると、すこぶる調子は良かった。
やはり、寝るという行為が調子が良くなる原因みたいだ。
今日の放課後もまた、ベンチには行かなかった。
昨日寝る前にじっくり考えてみたのだが、やはり沙夜に対して何か憤りがあるようだ。
それが沙夜の何に対してなのかはわからない。
ただ、今は沙夜には会いたくなかった。
そして、テストも終わった木曜日。
英語の時間。
「テスト返します…」
テストの返却が始まった。
教室内は、ガヤガヤとしている。
友達同士で「何点だと思う」と聞き合う者、返ってきたテストをみて、項垂れる者。
担当の先生が一人一人の名前を呼ぶ声が聞こえないほどだ。
私と私の周りも例外ではない。
「テスト何点?」
いつもの四人の中で一番最初にテストが返ってきた唯に対して花音が聞いた?
「ふふん、何点だとおもう?」
どうやら、相当自信があるようだ。
「90点前後くらいで」
「ふーん…まぁ、まだ教えないけどね」
なんだろうか、無性に唯の態度が鼻につく。
唯は何か思い付いたのか「あっ」と声をだす。
「どうしたの?」
私がそう聞くと唯は楽しそうに答えた。
「良いこと思い付いた、みんなでせーので見せようよ、そして、勝った人は残りの三人に何か奢ってもらうの、どう?」
唯のその提案に対して残りの三人は承諾した。
多分、美月は単純に面白そうだからと言う理由だが、花音は相当自信があるみたいだ。
花音は自分が確実に勝てるということにしか賭けないタイプの人だ。だから、今回の勝者は花音の可能性が高い。
「それじゃ決まりだね……あ、麻百合呼ばれてるよ」
おっと、聞いていなかった。
私はすぐに先生の元へ向かう。
それにしても、余程唯は点数が良かったのだろう。じゃないとあんなことは言わないはずだ。
そういう私自身も今回ばかりは自身がある。
先生からテストを受け取る。
この先生は生徒のテストを他の生徒に見られないように半分に折って渡すタイプの人だった。
そして、私もそう渡される。
自分の席に戻る途中少し見ようかなとも思ったが、見せ合う時にみた方が面白いなと感じ、あえて見ないでおこうと思った。
「おかえり、どう点数は?」
私が戻った時に聞いてきた第一声は美月だっ。
「どうもこうも、まだ見てないからなんとも言えないよ」
「見ないの?」
と唯。
「せーのでその時に見た方が面白いかなって」
「ふーん」
どうやら唯は私程度は眼中にないと言った感じだろう。事実、テストの点数で唯に一教科でも勝ったことがない。
私自身、今回も負けている気がするのも確かだ。
そして、四人全員が返却された。
「じゃいくよ? せーのっ」
唯の掛け声で一斉にテストを見せる。
「「は?」」
四人の声が重なった。
なんか、普段は声が重なったりするのはコイツらと同類な感じがして嫌なのだが、今回ばかりは違った。
私のテストに、丸が二つついているのだ。
「えーと、私の勝ち?」
そう、私の勝ちだった。
唯の点数が92点、美月が70点、花音が99点で、私が100点だった。
「麻百合すごっ!」
美月は私のことを誉めてくれるが、どうやら他の二人はずいぶんと悔しそうな表情をしていた。
少し言葉は悪いが、ざまーみろと心の中で呟いた。
三人からは、ジュースを奢って貰った。
一人一本ずつ、合計三本だ。
正直こんなに飲めないと思ったが、勝ってしまったのだから仕方がない。
他のテストでは賭けなしで、テストを見せあったが私は二人に惨敗だった。美月は全て最下位だ。
それでもかなり前回よりは点数が高く、これは祈凜さんのおかげもあったからの結果だと思う。
放課後、私はジュース三本を抱えてベンチに向かっていた。
二日ぶりのベンチだ。
まだ、沙夜を許した訳じゃない。
けれど、沙夜がいるならジュースくらいあげようかなと思っていた。
だが、ベンチに来てみると誰もいなかった。
座って待っていると、足音が近づいてくる。
沙夜かな? と思ったが、角から現れたのは祈凜さんだった。それに少し肩を落としてしまう。
祈凜さんは私にとって本当なら会いたくて仕方ない相手のはずなのに、沙夜のせいでこんなにも気持ちが動かされるのが堪らなく嫌になってきた。
「麻百合さん、久しぶりだね」
「そうだね、祈凜さん」
祈凜さんとは日曜日以来だった。
メッセージでのやり取りはしていたが、こうして話すのは久しぶりな感じだ。
「あれ? 沙夜さんは?」
「…えーと」
祈凜さんの素朴な疑問に答えられない私。
少し焦って適当な嘘を考えるが、特に何も頭に浮かばなかった。
「知らないの?」
「…う、うん」
知らない…こともない。
多分、いや確実に、私が原因だ。
「そっか」
少し残念だなと呟く祈凜さんを見て私は心が痛んだ。
「そ、そう言えば、テストどうだった?」
無理矢理ではあるが、話題を変える。
「…今回は調子良かったみたい」
と、結果を話してくれる祈凜さん。
聞きながら、花音と比べると少し点数が低いと思ってしまうが、充分高い点数ばかりとっていた。
「そっか祈凜さん、英語100点だったんだ。私も今回100点とれたよ」
「本当に! 良かったね麻百合さん!」
祈凜さんが自分のことのように喜んでくれる。
あの笑顔でだ。
頭の片隅にある沙夜のことを少し思いながら、それでも意識しないよう心がけて話をすすめる。
「結構点数とれたんだね麻百合さん」
「うん、これも祈凜さんのおかげだね、ありがとう」
「そんな、麻百合さんの努力の成果だよ」
そう言いつつも、少し照れたように顔を赤くする祈凜さん。
つい、抱きしめたくなってしまう。
「成績表配られるのって明日だよね?」
祈凜さんが何か思い出したような感じで、聞いてくる。
「うんそうだよ」
うちの学校では、テスト返却日の次の日に個人の得点と学年の順位が書かれた紙が配布される仕組みになっている。
「楽しみだね」
祈凜さんが笑顔で言ってくる。
確かに楽しみだった。テストの順位でこんなに気持ちが騒ぐことなんて、私にとっては今まではなかったことだ。
「そうだね」
私は何故か少し小さい声で返事をした。
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