第二章 三人の関係、問題発生

第15話 嫌な感覚

「はぁ……ヤバい」



「どうしたの? そんなため息ついて」

 私の今の心の心境は、とにかく、ヤバいの一言だった。


 まさか起きたら、朝だとは思わないだろう。

 私は信じられず、いや信じたくなくて、時計を四度も見返した。


麻百合まゆり? おーい」

 それでいて、目覚めなんて最高な感じで、無駄に元気が有り余ってる。

 だけど、昨日の自分に腹が立った。


 何で、何で寝ちゃったの!

「だ、大丈夫? この世の終わり! って顔してるけど」

 さっきからうるさいのは美月みつきだ。

 中学の頃からなのでかなり付き合いは長いはずだが、私がなんで落ち込んでるのか本当に分かってないみたいだ。


「…アホ」

 つい、口にでた。

「あ、しゃべった。て、アホ? 麻百合が?いやいや、頭いいじゃん麻百合」

 ホントにアホだなコイツ。


 確か、美月の前回の順位は196位だ。因みに200人中。ほぼ、最下位といっても過言ではない。

 まぁ、そう言うと美月は怒るのだが。


「…ヤバいよぉ」

「だから、何がヤバいのさ」

 美月が困ったような声で言ってくる。

「テストでしょ?」

 私の後ろから美月とは違う声が聞こえた。


 振りかえるとゆい花音かのんがいた。

「麻百合って、そんなに勉強苦手だっけ?」

 と、花音がいう。


「苦手、超苦手」

 今ここにいる四人の中で、下から二番目が私だ。

 唯は以外に勉強ができて、前回のテストでは56位。花音は見た目通りというか、できて当然と言った感じで4位だった。


 私は足元にも及ばない。

 こいつらに負けるのは人間として負けてるみたいであまり認識したくない事実であるが、事実は事実だ。


「勉強しなかったの?」

 と美月。

「昨日の夜、寝ちゃったの」

「え! 麻百合、勉強する気だったの! えら!」

 偉くないわ。

 と言うか、クラスメイトに睨まれるからやめて欲しい。ただでさえ、みんなテスト勉強で気がたってるというのに、嫌われたらどうする気だ。


 さっきからちょっと気になっているのだが、美月みたいなやつに負けた4人は一体どんな点数を取ったんだろうか。


「美月、そんなことばっか言ってると進級できないよ?」

 唯が本気で心配したように言った。

 それにしても、嘘くさい言い方だ。

 反吐がでる。


 キーンコーンカーンコーン。

 予鈴のチャイムがなった。


「やば、そろそろか。麻百合頑張ってね」

「うん!」

 私がなるべく、愛想よく返事をすると、三人は自分の席へ戻っていった。


 頑張らないと。

 せっかく、祈凜きりんさんが教えてくれたんだから。



 そして、始まったテストだが。何故か予想以上に手応えのある感じだった。


「えーと、どういう…こと?」

 三時間目の数字のテストが終わった休み時間、場所は女子トイレだ。


 今日、私は絶好調だった。

 前日に勉強していないのにも関わらずだ。

 別に、祈凜さんと勉強したところが全部出たとか、そういう訳ではない。

 単純に、答えがわかるのだ。


「私の頭イカれたかな?」

 他の人に聞こえるのも嫌なので、喋っているのかわからないほどの声量で一人言を言う。

 まぁ実際、そうとしか思えないのだから、仕方がない。


「結果…でるといいな」


 次は英語のテストだ。

 とりあえず気持ちを切り替えて、今回こそは時間内に終わらせようと意気込む。


 そろそろ時間である。

 トイレを出て、教室に戻った。



 そして、英語のテストの時間。


 既に問題は解き終わってしまっていた。

 10分も時間を残して。


 おかしい。絶対に何か変である。

 本当にどうなっているのだろうか。周りの生徒はまだ頭を抱えて悩んでいるようだ。


 監督の先生は私がペンを置いたのをみて驚いているようなので、きっと私が最初に終わっていたというのは間違いないだろう。


 今までテストの時間内に終わるなんてことがなかったために、だんだん心配になってくる。

 たが、いくらテストを見直しても間違えていそうなところなど一ヶ所もない。


 やはり祈凜さんと勉強したからだろうか。


 しかし、そんな訳がないとも思う。

 そんな少し勉強したくらいでは何も変わらないのは、みんなが知っていることだ。証拠に、そんなことがあるならまず間違いなく、勉強が嫌いなやつなんていないだろう。

 ある一定の努力さえすれば必ずテストの点数が伸びるのだから。


 にしても、何故こんなにも好調なのだろう。

 原因に全く心当たりがない。


 昨日は寝てしまったのだ。

 本来ならば勉強してない私がこんな好調なわけが……。


「ぁ」


 焦って口元を隠す。

 テスト中にも関わらず、声を出してしまった。幸い、誰も気付いていないみたいだ。

 そして、原因もなんとなくわかった。


 寝たからだ。

 寝てしまったから、頭がよく働くのだ。


 今までテストの前日と言ったら寝ないで朝まで勉強をしていたのだが、今回は違った。


 確か何かで聞いたことがある。

 テストで結果を出す人は睡眠を充分に取っている人が多いという統計のデータについて。

 つまり、そう言うことだろう。


 原因は「寝てしまったから」だった訳だ。




 今日の分のテストが終わって、帰りのホームルーム。

 祈凜さんからいきなりメッセージが来た。

 少しヒヤッとする。


 私は普段から通知音や、バイブレーションはオフにしているから、先生にはバレずにすむが、急に画面が明るくなるとドキッとしてしまうのだ。


 別に校則でスマホの持ち込みが禁止されてはいないが、流石に先生達が話をしている時に音がなったり、いじったりするのはアウトだろう。


 と言っても、少しくらいなら大丈夫かもしれないが。


 メッセージには、今日ベンチにこれないと書いてあった。どうやら、マネージャーの門脇さんから呼び出されたようだ。

 仕方ないかと思いつつ、履歴からそのメッセージを削除する。


 万が一人に見られたりしたら、大変だから。


 つくづく、私は集団で生きてるんだなぁと思いながらぼぉっとしていると、もう帰りのホームルームも終わっていた。


 帰る準備を早々にして、騒がしく教室を出ていく男子生徒達。

 元気だなぁと思う。


 しばらく黙ったまま座っていると、美月が近づいてくる。

「麻百合、今日も用事?」

 美月達には、いつも用事があると言って、放課後の予定を断っていた。


「ううん………あ、やっぱそう」

 今日は私一人だし、ベンチに行かないかとも思ったが、それも何か嫌なのでやはり、行こうと思う。

 ここまで毎日のように行っていると、もはや日課だ。


 美月は私の気持ちなど考えていないのだろう。私が用事が無さそうな返事を聞くと顔を明るくし、その後言い直すと顔を暗くした。

「もう、どっちなのさ」

「今日も用事」

 拗ねたように聞いてくる美月を適当にあしらって、席を立つ。


「ねぇ、麻百合」


 しかし、美月の声を聞いて足を止めた。

 顔を見てみると、ずいぶんと神妙な顔をしている。


「どうしたの? そんな顔して」

 我ながら少し、意地の悪い言い方をすると思った。

 と言うか、美月がこんな顔になることなんて、あのこと以外ないのを私は知っている。


「忘れてないでしょあのこと」

「…まぁ、覚えてるよ」

「その……」

 美月が少し顔をうつ向けにして言ってくる。

 しかし、私はその言葉を遮るようにして美月に声をかけた。


「私は相談にはのるって言ったけど、何かするとは言わなかったはずだよ?」


 そう言うと美月は悲しそうな顔をする。

 明らかに何か言いたそうな表情だ。

 しかし、そんな美月に構っていられるほど私は暇ではない。


「じゃ、行くから」

「あ……うん、じゃあね」


 私は教室を出てベンチに向かった。何故か少し苛立っていたこともあるからか、ベンチに着くのがなんとなく早く感じた。


 だが、そこである問題が起きた。

 今日は私一人だと思っていたけど、どうやら先客がいたようなのだ。


 しかし、私は気付いていても相手は気付いていない。どうやら、イヤホンを着けてスマホで動画を見ているようだ。


 そっと後ろにまわる。

 未だ私がきたのに気付いていないその人物の後頭部を狙って、手刀をぽんっと軽く当てた。


「何でいるの? 沙夜さよ


 やっと私がいるのに気付いたのか、先客、沙夜が振り向いた。


「何でと言われても、ベンチと言えば私、私と言えばベンチでしょ?」


 全く意味がわからん。


「この前のこと、まだ私許した覚えないんだけど。それに来ないって言ってたじゃない」

「そうだね」

「…あれ、私の初めてだったんだよ」

「知ってる」


 本当にこの人は…腹が立つなぁ。

「今日、祈凜さん来ないよ」

「知ってる」

「今日、久しぶり…でもないけど、二人っきりだよ」

「知ってる」

 私の言葉に全て、知ってると答える沙夜。


「私に変なことしない?」


 しかし、その問にだけは。

「知らない」

 と答えた。


 まぁ、なんとなく沙夜ならこう答えると分かっていた。

 そして、次の行動もだいたい読める。


 私は沙夜を見つめる。

 沙夜も私を見つめる。


 こうして見ると、本当に沙夜の顔は整っていた。綺麗だった。


 沙夜がゆっくりと、顔を近づけてくる。


 私はそれを何も言わず黙って見ている。


 沙夜が手を伸ばして私の肩を掴んで近づいてくる。


 ホントに、綺麗だ。

 美人と言う言葉は沙夜のために作られたような言葉。そう言われたとしても、誰もが納得するだろう。


 あと、数センチのところまで顔がきている。

 ほんの、数センチだ。


 しかし、私もさせてやるほど優しくはないし、今の精神的にもそんな寛大な心で許せる余裕はない。


 私はそこでやっと、行動をおこす。

 沙夜の肩に手を当て、少し強めに押し返した。


「え?」

 沙夜は目を見開いていた。

 本当に動揺しているみたいだ。


 しかし、そんな沙夜に私は追い討ちをかけるようにいい放つ。


「……もう、私に関わらないで」


 私は鞄を持ってその場から、立ち去った。

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