第12話 お泊まり②

「……」

「……」

「……」

 昼食も食べ終わり三人とも勉強に戻っていた。

 今は全員英語をやっていた。


 私は、唯一と言っていいくらい英語が得意である。沙夜のように90点を取れるほどではないが、80点くらいは毎回取れていた。

 しかも、回答率は8割ほどで80点を取れるんだから、正当率10割である。どうして8割しかできないかというと、いつも時間がオーバーしてしまうからだ。

 それでも、英語があるから、126位でいられる訳だが。



「あれ? ここなんだろう」


 祈凜さんが小さく呟いた。

 どうやら、何かわからないどこがあるみたいだ。

 私は、教えられてばかりだと申し訳ないと思い、祈凜さんの教科書を覗き込む。


「わ、わかんない」

 そう全然わからない。何故なら、

「ごめん、まだ授業でやってないところなの」

 つまり、予習らしい。

 テスト前にも関わらず、予習って。

 思わず、ため息が出てしまう。

 最近、ため息多いなぁ。


「どこがわからないって?」


 沙夜が私達の様子を見て呆れたように言ってくる。

 祈凜さんは驚いた表情だ。

 私も少し驚いた。さっきから私が困った時は知らんぷりして勉強していたからだ。


 祈凜さんが恐る恐る言う。

「こ、ここです」

「ここね……ここの文法はまだ習ってないと思うけど、こういう文法を使うの」

 祈凜さんの教科書を見て直ぐに例文を書き出す沙夜。

「あ、なるほど。じゃあこれをこうするんですね」

 どうやら答えが出たようだ。


 それにしても、祈凜さんと沙夜の距離が近い。

 それに、教えて貰えて嬉しいのか祈凜さんはあの笑顔だ。


 沙夜も満更でもなさそうだ。

「ありがとうございます」

「どういたしまして」


 なんだか、モヤモヤする。

 多分嫉妬してるんだろうな私。


 沙夜が自分の勉強に戻ったのを確認してから私も勉強を再開する。

「…」


 一瞬、沙夜から視線を感じた気がしたのだが、沙夜は自分の勉強に集中している。


 なんか自分がここまで嫉妬深い女だとは思わなかった。

 少し肩を落として、真面目に勉強しようと思うのだった。




 外もすっかり暗くなり、祈凜さんは夕飯の準備をしていた。


「さっきから何なの沙夜」

 そう、沙夜から視線を感じた時から、10分おきぐらいに私を見つめているのだ。

 気が散って仕方がない。


「ん? あぁ、そんなに気にしないで」

 気になるから聞いてるのに気にするなっていうのか。ホントに自己中心的な人だ。


「あれ? ない」

 急にキッチンから声が聞こえた。


 私は沙夜をおいてキッチンに行く。

「どうかしたの祈凜さん」

 祈凜さんは何かを探しているようだった。

「うん、カレーを作ろうと思ったんだけど、ルーの元がなくて」

 困った顔だ。


「あ、それなら買ってくるよ、お世話になりっぱなしだし」


「そうね、私もいく」

 真後ろから沙夜の声が聞こえた。

 リビングの方にいると思ってたのに、びっくりした。

 少し、怖かった。


「いやいや、悪いですよ」

「いいのいいの、沙夜もこう言ってるんだし」

「…じゃ、じゃお願いするかな」




 祈凜さんから、買ってくるルーの元の商品名を聞き、沙夜と私はアパートを出た。


「なんか、夜遊びみたいだね」

 沙夜が言ってくる。

 少し、面白かった。

「補導されたら笑うわ」

「補導員なんてここら辺まわらないんじゃない?」


 目の前を『補導員パトロール中』と書いている黄色いプレートを張った車が通りすぎる。

「いたね」

 言ったそばから補導員発見である。


「はははっ」

 沙夜は腹を抱えて笑った。正直何も面白いとは思わない。

 相変わらずの変人っぷりだ。


 アパートから徒歩5分ほどでスーパーについた。

 スーパーは駅側で、祈凜さんは学校帰りにでも買い物して家に帰るのだろう。

 そう考えると、立地のいいアパートに住んでるんだなぁと感じた。

 手早く、買い物を済ませて帰路につく。


 行きは下らないことを喋っていたのだが、沙夜が黙ったので、特に会話もなく歩く。

 にしても、夜はやっぱり冷える。


 歩いていると小学生の高学年くらいの男の子達とすれ違う。

 何やら、門限がどうとかで見つかったら怒られるとか、騒いでいた。

 ここで会ったのも何かの縁だし、補導員と会わないことを願っておく。


「…」


 沙夜がこっちをじっと見ている。

「…だから、さっきからなんなの?」

「ん? あーうん」

 沙夜はなんだか煮え切らない感じで返事をしてくる。

「なによ」


 私がそう言うと沙夜は足を止めた。

「ねぇ、麻百合聞きたいことあるんだけどいい?」

「だから、何よって」

 沙夜は何かおかしかった。


「祈凜との関係教えて?」


 ドキリとした。

「…何いってんの?」


 街灯がジリジリと音を立てて点滅している。

「見たの、駅で麻百合と祈凜が一緒にいるのを」

「え?」

「先週の日曜日」

 日曜日は私と祈凜さんが一緒に事務所に行った日だった。


「麻百合どうなの?」

「……ごめん、言いたくない 」

「ふーん」

 まさか見られていたとは思わなかった。


「麻百合ってさ」

 沙夜が私に近づいてくる。

「麻百合って、祈凜のこと」

 今、私の耳元に沙夜の顔がある。

 私は何故か動けない。


「好きなんでしょ?」


 バレていた。

「麻百合の接し方おかしかったもん」

  何も言えない。


「びっくりしたでしょ?」


 呼吸困難にでもなりそうな気分だ。

「答えないの?」

 近い。


「ねぇ、麻百合。前の付き合いたくないって言ったの忘れて」

 いきなり何を言ってるの。

 色んなことを言われ過ぎて、頭の整理がつかない。


「……沙夜、どういうっ…」


 突然、視界が狭くなるような感覚に襲われた。

「…んっ」

 突然、胸が熱くなるような感覚に襲われた。

「…はっはぁ、何を!」


 突然、唇を奪われた。


 沙夜はゆっくりアパートの方に向かって歩きだす。

「やっぱ、麻百合は美人だね」

 私に背を向けているから、気をつかったのか、大きな声で言ってくる。


 なんなんだホントに。


 沙夜が急に振り向いく。

そして、

「私、付き合いたくなっちゃった」

 満面の笑みで言ってきた。

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