第9話 休み明け
結局私は風邪だった。
三十九度の高熱だ。
「はぁ…」
翌日、当然学校はやすんだ。
美月から「テスト前だから唯たちと麻百合の分のノートとっておくね」とメッセージがきてたので授業の方は大丈夫だろう。
そして、初めて仲の良いふりをしていて良かったなと思ってしまった。
「だるいなぁ」
あの後、沙夜に家まで送ってもらった。
祈凜さんは心配していたが電車だったのでそのまま帰った。
私は疲れていたのかベッドに倒れ込んで起きたら次の日。そして、熱も下がらず。
「もう、最悪…はぁ」
まぁ、風邪なんだから仕方がないと言えば仕方がない。
「……寝よ」
私は布団に潜りこんだ。
◇
そして二日間休んで金曜日。久しぶりの学校だ。テスト前最後の学校である今日は、ほとんどの授業が自習だった。
まぁ、テスト前なのに授業を進めるバカ教師もいたが。
放課後。
私はテスト前でもいつもと変わらずベンチにいた。もちろん、沙夜も祈凜さんもいる。
「久しぶり、麻百合」
「久しぶりだね麻百合さん、心配したよ」
「久しぶり、沙夜、祈凜さん」
祈凜さんが微笑んでくれた。
祈凜さんが心配してくれていたと考えると、少し嬉しい。
「そういえば、私がいない間は二人ともベンチに来てたの?」
休んでいた時、ずっと考えていたことだった。あれだけ沙夜に対して緊張していた祈凜さんが来ているだろうかと。
「来てたよ、二人とも」
その心配も杞憂だったみたいだ。
「へーそっか、なんかあった?」
「えーと、何も無さすぎたかな…」
祈凜さんは少し落ち込んでいるようだ。
祈凜さんはある意味私がいない間、沙夜と何かあるのを期待していたみたいだが、様子から察するに本当に何もなかったんだろう。悪いとは思うが少し安心した。
私も含め好きな人の近くにいると自然と変な期待もしてしまうものだ。他人とはずれてる沙夜以外は、であるが。
「それにしても、ずっと室内にいると疲れるなぁ。やっぱ、外が一番」
「でも大分寒くなってきたよ」
「だね。今年の冬は雪とか降るかな」
私は重々しい灰色の空を見上げた。
もしかしたら、今日は雪じゃなく雨が降るかもしれない。そんな感じがする雲行きだ。
「……」
そう言えば、祈凜さんと話していたので忘れていたが、さっき沙夜が久しぶりと言ってきた以外何も喋っていない。いつもなら「麻百合、何か面白い話して」とかワガママなことばかり言ってくるくせに。
沙夜に視線を向けると、
「……」
イヤホンをつけて何か動画を見ているようだ。
「沙夜……」
かなり近くで名前を呼んでいるのだが、気付かない。
「ねぇ、沙夜」
今度は肩をポンポンと叩いてみるがそれでも、気付かない。
いや、多分だが気付いていて無視しているのかもしれない。でもなんで。
なんか変だなぁと思いつつ、顔を覗き込んでみるが、別に不満そうな感じでもない。どちらかというと楽しそうだ。
「どうしたのかな?」
祈凜さんも異変に気づいたのか、沙夜をじっとみていた。
「さぁ? ……おーい沙夜さーん」
「……」
なんなんだろうか。
「何見てるのかな」
「わかんない、でも余程集中でもしないと、こんなに周りに無関心になることなんてないと思うんだけど…」
沙夜って集中すると、周り見けなくなるし。
動画が気になるのでそっと覗いてみようとすると、光の反射か何かでよく見えなかった。
「なんだった?」
「いや、何か人が動いてるのはわかったけど、よく見えなかった」
祈凜さんが「そう」と呟く。
私はなんか無視され続けているのことにだんだん腹が立ってきた。
最近、思うが私は少し短期なのかもしれない。
沙夜のスマホすっとに手を伸ばして、イヤホンをスマホから勢いよく抜いた。
すると。
スマホから凄い大音量で、
『…れでは、結果発表~!』
と聞き覚えのある声が聞こえた。
「「え?」」
私と祈凜さんはポカンとした。
そして、沙夜は大音量にビックリしたのか一瞬体をビクッとさせ、イヤホンを私が抜いたことに気付いたのか、動画を止めてこっちを睨んできた。
「何するの、良いとこだったのに!」
「あっ……うん、ごめん」
沙夜の言葉でなんとなく察しがついた。
聞こえてきた声がなんだか聞いたことある声だと思ったら、大物司会者の声だ。
テレビで、良く聞くあの司会者だ。
「それ、テレビの人やつでしょ?」
「……そうだよ…はぁ、一番の良いとこだったのに…」
沙夜は項垂れた。
少し悪いことしたなと思いながら祈凜さんをみると、まだ理解していなかったのか、ポカンとしていた。
「き、祈凜さん? 大丈夫?」
「…え、あ、うん」
「ビックリしたでしょ? あれ沙夜の趣味だったみたい」
「趣味?」
祈凜さんは目を丸くした。
「そ、沙夜って、なんかテレビとかの司会者が好きなんだって」
また、見直しているのかイヤホンを元に戻してスマホをかじり着くように見る沙夜に視線を向ける。
「か、変わってるんだね沙夜さん」
「……うん、超変人だよこの人は」
「そういえば、話変わるんだけど」
スマホに噛りついている沙夜は放っておいて祈凜さんに話しかける。
「なに?」
「テスト勉強してる?」
「うん、あ、そっか麻百合さん休んでて、二日間分の授業うけてないのか」
「それもあるけど、私あんま成績良くないんだよね」
事実、前回テストは学年200人中126位だ。
「え、以外だなぁ麻百合さん頭良いと思ってた」
そう思われるのは嬉しいが、実際がこんなだと申し訳なく思えてくる。
「祈凜さんは、どれくらい?」
「え、私もそんなに良くないよ」
「前回テストは?」
「確か、19位だったかな」
頭いいじゃん!
「…はぁ」
ため息が出てくる。
こんなに頭いい人にテスト勉強どうなんて言った私が恥ずかしい。
「き、気にしないで、前回のはたまたまだよ」
「たまたまって…」
泣きそうになってくる。
頭のいい人は本当に頭がいいんだ。
私なんか地頭が悪いから勉強なんてしても意味がないように思えてくる。
「えーと…あ、そうだ、麻百合さん良かったら土日うちに泊まって勉強しようよ!」
明るい表情で言ってきた。
「え、」
私にとっては嬉し過ぎる提案だった。
正直凄く行きたい。祈凜さんの家。二人きりで勉強。想像するだけでドキドキするシチュエーションだ。
「いいの?」
「うん、麻百合さん勉強苦手らしいし、二日分の授業でわからないところがあったら教えられるし……あまり教えるの上手くないかもだけど」
「じゃ、じゃあ行かせて…」
「私も行く」
私の声を遮るようにして、声を発したのはさっきまでスマホで動画を見ていた沙夜だった。
「私も、祈凜の家に行くよ」
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