第7話 謎の女性
「話は聞かせてもらいました」
そう言って室内に入ってきたのは、高身長の女性だった。
茶色いクセっ毛の髪が肩の高さほどあり、パンツスーツを着用している。鼻が高く目も大きく、控えめにいって美人だ。恐らく、外国の血が入っているだろう。
この乱入者に対して。
「社長!」「
と、門脇さんと祈凜さん二人で、声を上げた。
つまり、乱入者はここの事務所の社長で藤尾さんというらしい。
門脇さんと祈凜さんは二人して驚いた表情で固まった。
「そんなに驚くことかしら?」
藤尾さん? が首をかしげた。
「それより、えーと大海さんだったわよね?」
藤尾さんは、私の方を向いて話しかけてくる。
「契約の件だけど」
門脇さんと祈凜さんがごくりと息をのむのが聞こえた。
「してもらうわよ」
その言葉を聞いた祈凜さんは目に見えて分かるように落胆した。
門脇さんの表情からは特に何も伺えない。別に嬉しがっているわけではないようだが、それ事態も確信が持てない。
私はというと、やはり、落ち込む。
なるべく表情には出さないようにと意識はしているが、周りからどう見えているかはわからない。
社長が出てきたからには何かあるのかという期待もあったが、社長は社長だ。契約をする方が事務所としての損害を抑えれるのだ。
当たり前と言えば当たり前のことだった。
「で、幌萌さんと大海さんについてだけど」
「「え?」」
私と祈凜さんの声が重なった。
さっきは顔に出なかった門脇さんも目を見開いて驚いた表情をしている。
「だから、そんなに驚くことかしら?」
藤尾さんは私達を不思議そうに見回して「まぁ、いいわ」と呟く
「それで祈凜と大海さんについての項目は削除するわ。門脇頼んだわよ」
「は、はい」
門脇さんはそう言われると、契約用紙の項目に二重線を引き自分のバックから訂正印を取り出して二重線の端に印を押した。
私と祈凜さんは戸惑っていた。なんでいきなりそうなったのか上手く理解出来ていないからだ。
「あの社長さん、なんで…ですか?」
私が尋ねる。
藤尾さんではなく、あえて社長さんと呼んだのは藤尾という名字が本当にこの人を指しているのか確信を持てていないからだ。
まぁ、十中八九この人だとは思うが。
「別に理由なんて特にないわよ、それと藤尾でいいわ。…はいこれ」
やはり、藤尾だったみたいだ。
はいと言われて藤尾さんが差し出してきたのは名刺だった。
受け取って見てみると、名前は
「じゃあ、私は行くわ」
「あ、ありがとうございました」
私が礼をいうと、藤尾さんは振り向きざまに手を仰いた。
ほんの数分だけいた藤尾さんだったが、その存在に圧倒されてしまった。
藤尾さんがいなくなって数分ほど呆けていた私達だが、門脇さんの言葉で話し合いに戻る。
「と、とりあえず、社長が言っていたように幌萌さんと大海さんの関係についての項目は削除しました。今回の契約ですが、この内容でよろしいですか?」
「…はい」
門脇さんがそれを聞くと笑顔で用紙を渡してきた。
◇
私と祈凜さんは電車に乗っていた。
「す、凄かったね」
「…う、ん」
いやはや、本当に凄かった。
社長がいなくなって契約が終わると、緊張の糸が溶けたのか三人ともぐったりとしていた。
その後、少し雑談になったのだが、門脇さんが凄い勢いで饒舌に喋り始めたのだ。元々結構おしゃべりな性格なのかもしれない。
そして、その内容が本当に凄かった。
芸能人のゴシップやら、あの有名人の経歴やら、なんだか知ってはいけないような内容を知ってしまった。
というのも、門脇さんは社内では特に仲がいい人もおらず、なんだか鬱憤がたまっていたようだった。
「祈凜さんは仕事のとき門脇さんと話したりしないの?」
「うん、門脇さんが私のマネージャーになったの最近だからね…びっくりしたよ」
祈凜さんは驚いた表情て言った。
「……」
「……」
そして、互いに喋ることもなくなって黙ってしまった。
話しかけたい気もするが、気まずい。
好きな人の横にいると意識すると本当に何も言えなくなってくる。
そして何故かため息が出た。
「あの、麻百合さん、今日はごめんなさい」
祈凜さんが唐突に話しかけてきた。
「え? どうしたのいきなり」
「えと、今日の契約の時のこと」
あぁ、そういうことか。
要は契約を止めれなかったことに対する謝罪だ。
「気にしないで、今日のは仕方がなかったんだよ、それでおしまい。謝ったりしないで」
好きな人にそう何度も謝られたりすると、心が痛む。
「わ、わかった」
少しだけ祈凜さんのことがわかってきたような気がした。
電車が駅に着く。
改札を抜けて、切符を売っている少し広い場所にでた。
「今日はありがとう」
祈凜さんが今度はお礼を言ってきた。
「ううん、こちらこそ……門脇さんの話は二人の胸の内に秘めておこうね」
「そうだね」
お互い、笑みがこぼれる。
「あの、私、学校では麻百合さんになるべく話しかけないから……もし、良ければ私もあのベンチに言ってもいいかな?」
ベンチは私と沙夜しか知らない場所だ。
正直私は来て欲しいが、沙夜がいいと言うかはわからない。
でも、なんとかなるだろうか。
「…うん、ぜひ来て」
私がい言うと、祈凜さんは明るい笑顔になる。
「ありがとう」
「それじゃあ、学校で」
「うん!」
そして、互いに帰路についた。
◇
二人が話している時。
「あれって麻百合と……幌萌さん?」
二人を見ている人物がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます