第4話 好きな人
角を曲がると、歌っている女生徒、幌萌さんがいた。
幌萌さんの印象は一言でいうと、地味だ。
丁寧に手入れの行き届いたポニーテールの髪、顔も綺麗に整っている。沙夜ほどではないが、でるところはでていて、Cカップの私よりは絶対大きい。
でも、地味なのだ。幌萌さんの雰囲気なのか。
一目で全く会ったことのないタイプの人物だと思った。
ついさっきまで歌っていた幌萌さんは、私を見てなんだか、怯えたような表情をしていた。
「あなたは...?」
透き通っていてハスキーな声質だ。
私はその声を聞いてはっとなった。
そうだ、謝らないと。
「す、すみませんでした」
私は、頭を勢いよく下げた。
「え...」
幌萌さんは困惑しているようだ。
私は下を向いているのでわかった。幌萌さんは足が震えていた。
怖がられている。私は怖がられているのだ。
「...あ、頭を上げて下さい」
幌萌さんが震えた声で言った。
私はゆっくりと、頭をあげる。
「あの、本当にごめんなさい、私その、最低なことしてしまって」
許して、くれるだろうか? 幌萌さんは。
「...あ、あの。大海麻百合さんですよね?」
「あ、はい、そうだよ」
「...こちらこそすみません、私なんかの見苦しい姿を見せて」
幌萌さんはまだ、怯えているようだ。
何でだろう。私何かしたかな。
「幌萌さん」
「は、はいっ」
「さっきのことは本当に悪いと思ってるよ。でも、私、今回のこと以外であなたに何かしたかな?」
「い、いえ、なにも...その、大海さんうちの学年でも中心のグループ…だから」
ああ、なるほど。
そこで気付くこととなった。今思えば当たり前のことだった。
つまり、私が唯達とつるんでるから。それで怖がっているのだ。
ここでふと、流れていた幌萌さんの噂を思い出した。沙夜に告白したというあの噂だ 多分、この噂を流したのは私達のグループだ。私も唯からこの噂を聞いた。
そりゃあ、自分のことを悪く言って、その上、自分よりも周りに影響力が強い人に怯えるのは当たり前である。
私にもう一つ謝らないといけないことができた。
「ごめんなさい、幌萌さんの変な噂を流して」
「え?」
今度の幌萌さんは怯えてるというよりは、心の底から驚いたといった表情だ。
「その、幌萌さん私に何か思うことがあるみたいだったから...」
私がそういうと幌萌さんははっとなり、何故か頭を下げてきた。
「すみません、大海さんに変な気を使わせて、わ、私なんかが...」
私が全面的に悪いのに、こう下手に出られると何も言えなくなってしまうじゃないか。
そう思って、私は幌萌さんに問いかける。
「とりあえず、ベンチにすわらない?」
つい、先程まで私と沙夜が座っていたベンチ。今私の横にいるのは、沙夜に想いを寄せている幌萌さんだ。
「ふぅ...まず、幌萌さんは私に謝ったりとかしないでほしいの」
私が悪いんだから。
幌萌さんはまだ少し怯えた様子だ
「そ、そんなこと…す、すみません……あ」
どうやら、そう簡単にはいかなそうなので、とりあえずはこのままでいこう。
「幌萌さん」
「…はい」
なんだか背中に妙な汗が出る。
「改めて、幌萌さんの想いを踏みにじるような行動をしてしまってごめんなさい」
自分の出来る限りの礼儀を持って謝罪する。
「そ、そんな、いいですよ全然。その、佐伯先輩に聞いてもらえなかったのは少し残念だったんですけど…」
頭を上げると、幌萌さんがもじもじと体を揺らしながら、寂しそうに言っていた。
「あの、私がこんなこと言うのも変だけど、何で沙夜なの?」
「…沙夜? その、質問を質問で返すようですが、大海さんは佐伯先輩とはどう…いう、関係で?」
しまったと思った。
私はこのベンチでは普段から沙夜を呼び捨てにしているが、流石に人前では名字だ。
しかし、言ってしまった。
普段から沙夜の名前を呼んでいるこの場所だからか。もしくは、私が幌萌さん相手に少し緊張しているからか。
どちらにせよ、私が幌萌さんに言った質問はまるで、「私の沙夜に近よらないで」とでも言っているようなものだった。
その証拠に幌萌さんは明らかにさっきよりも低い声で私に尋ねてきた。
嫉妬……だろうか。
「私と沙夜は友達だよ。学年が違うので違和感があるかもしれないけど……ただの友達」
流石に、告白されたことがあるとは言えない。
まだ、幌萌さんのことを知らないし、勝手に気持ちをバラされたら沙夜が可哀想だから。
「…そうですか。すみません変なこと言って。私が佐伯先輩を好きな理由ですが、言えません。大海さんすみません」
少し納得はしていないのか、俯きながらぼそぼそと言葉を発する。
「謝らなくていいですよ、それと大海って呼ばれるのはあまり好きじゃないので、名前で呼んで下さい」
「…え? あ、はい。ま、麻百合さん……。でしたら私も名前で、祈凜と呼んでください」
「わかったよ、祈凜さん。私達、同級生なんだから敬語なしでいいよ。よろしく」
祈凜さんはゴクリと喉をならして答えた。
「は、はい。わかった麻百合さん。これからよろしくね」
私と祈凜さんは思った以上に打ち解けているような気がした。
「ところで…」
私には好きな歌手がいた、そして、その人は同時に好きな人でもあった。
多分、恋愛対象としての好き。
「祈凜さんの歌なんだけど」
祈凜さんが「なに?」と疑問を浮かべる。
あまりにも似すぎていて、最初は鳥肌がたった。
「もしかして、」
多分、いや、確実にそうだろう。
私の好きな人。その自覚ももうある。
「祈凜さんは歌手の
「え?」
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