第一章 三角関係、恋愛開始
第1話 恋愛対象
「ねぇ、きいた?」
普段から騒がしい一年四組のクラスの隅で話をしている女子のグループ。教室の端で会話はしていれど、話している内容はクラスの話題の中心となっていることだった。
「なになに?」
発言力のありそうな女子の言葉に周りの女子も反応する。
「2組の
「え、幌萌って女子よね? 佐伯先輩は女でしょ? なにそれ気持ち悪い」
「私、幌萌と話したことあるけど本当にキモいよアイツ」
「マジぃ! 無理だわあんなの」
気持ち悪い、気持ち悪いと口々に言う女子達。
気持ち悪いのはお前らだ。
私は、そう言ってやりたい気持ちにかられた。でも堪える。ここで言えば自分の全てが終わると分かっているから。
クラス。仲間。グループ。これらの集団は私が最も嫌っていて、でも、いつも私のそばにある。小学校でも中学校でも、そして、高校へ来ても。
切っても切れない。離れたくても離れられない。
「ホント気持ち悪いよね」
しまいの果てのは私も同調する。
……結局私もこいつらと一緒なのだ。
ホント、気持ち悪い。
私の学校での生活は、私の思い描く生活の常に正反対をいく。
私は周りに合わせるのも、アホみたいに悪口いうのも、人とつるむのも嫌いだ。でも、そうしないと、この学校という空間は私の存在を認めてくれない。
私は認められたい。嫌われたくない。普通でいたい。だからいつもそうやって周りに合わせる。
私の本当の心などこんなちっぽけな箱庭にはないのだ。
もう嫌だ。
こんな自分も。こんな環境も。
高校一年生の秋。
私は秋が好きだ。夏に積み重ねてきたものが全て壊されていくのを見るのが好きだから。頭がおかしいというのは自分の中では今更な問題。それを誰かに話す気はないので、私が納得しているならそれでいいのだ。
夕方、私は校舎裏の普段誰も来ないベンチで現実逃避をしていた。
校舎裏ということもあってか、あまり日が当たらず影になっていて、それでいてここからは海が見えるほど開けているので、秋の澄んだ空と海の水面に反射した月が綺麗に見える。
穴場と言うのだろうか。秘密基地にいるようなそんな気分だ。
数日前、私はこの安らげるはずの季節に、告白された。
相手はクラスの
告白されたとき、私の周りの頭のいかれた女子どもが気になると言っていたのを思い出して、吹き出しそうになった。
私は彼に尋ねた「なんで私なのか?」と。
彼は「美人で綺麗な声をしているから」そう答え、それに続けて「僕と付き合ったら、きっと楽しくなる!」と訳のわからぬことを自信満々に言っていた。
私は周りに流される自分自身があまり好きではない。だから他の人が私のことを好きになるという感覚もわからない。
彼が好きになった外見は私にとってなんのステータスにもならないし、彼と過ごしたところで私の学校生活は絶対に楽しくはならないという確信があった。
結局、付き合う気なんてない私はその場でふった。
落ち込んでたようだがどうでもいいので忘ようと思う。
しかしまぁ、後が面倒くさいものだ。
夏陽のことを好きって言ってたやつが突っかかってきたのだ。確かクラスの内山さんという女子だ。
「何であんたなんかなの!」などと頭の悪そうなことを言っていたが、私がクラスの主要グループでそいつの悪口を少し言うだけでそいつはハブられるようになった。
なんだかんだ言いながらこの小さな社会の仕組みを利用してる自分に腹が立っていた。
そんな感じで私は好きなはずのこの季節を楽しめないでいる。
「あーあ、なんかいいことないかなー」
良いことなんて大抵ないが、やっぱり宝くじが当たるとか、嫌いな奴等が全員いなくなるとか、そんなあり得ないことばかり考えてしまう。
「あら、また現実逃避?
すると、座っていたベンチの後ろから誰も来ないはずなのに、人の声が、しかも私に話しかけてくる声が聞こえた。
軽く首をひねって振り向けば、誰もが二度目を見るような、美人がたっていた。
茶色いウェーブのかかったセミロングの髪に、目鼻立ちのパーツ一つ一つが凛と透き通った、まるで精巧に計算されたダヴィンチの絵画のような顔。主張し過ぎない胸とヒップが生み出す理想的過ぎる曲線。
遺伝か? はたまた、努力か?
誰も来ないはずのこのベンチにきたのは、私が唯一心を許している二年生の
そう、佐伯だ。彼女は私の一つ上の学年だが、その容姿をもって学校内でも特に有名な女生徒だ。
そして、あの噂の幌萌という女子生徒に告白されたらしい。それからわかるように、この人物は女でも男でもどんな人からも好意を持たれる容姿を持っているのだ。
彼女は私が学校の中で唯一心を許している相手だ。
私が心を許すのは私のことを理解してくれる人だけ。だが彼女は私の同類ではない。理解はしてくれても私と同じような考えを持っている訳ではないのだ。
彼女の性格は人当たりが悪いわけでもないし、普通に接することが出来れば善人なのだろう。しかしある意味で危険人物でもある。
彼女はクラスで浮いているのだ。
それは、この容姿だからということもあるが、それにしても周りにちやほやされてもいいものを何故だか自分から避ける。
私とは違う、自分を装うことをせず、それでいて、集団の中では正しくないのが佐伯沙夜という女生徒だ。
彼女自身もわかってる。この学校と言う名の箱庭にいる以上、仮面をつけ、集団の一部でなければいけないと。それが正解であると。
ただ、そんなこと考えずに気楽にやりたいのが彼女らしいが、私は正しくないことはしたくないのだ。例えそれが自分を曲げてでも。
「現実逃避でもしてないとやってられないの」
「じゃあ、やめればいいのに」
そう言って私の隣に腰かける沙夜。
「……そうはいかないの…あきらめた沙夜にはわからないでしょうけど」
私は若干皮肉気味に言った。
だが、その言葉に沙夜は何一つ反応しない。全く変わっているのだ、この佐伯沙夜という女は。
いつか、沙夜自身は後悔してないと言っていた。周りと距離を置いていることを。
私と沙夜が会ったのは、4月の半ば。私がこの学校に入学してすぐの事だった。
一人になれる場所を探してた時にこの隠れたベンチを見つけた。そして、そこには一人でいる沙夜がいた。そりゃあ、こんな人通りのない場所に一人でいるような人物を私はまず警戒したが、自分がやろうとしていることは同じだと気付き、なんとなく話しかけた沙夜とは仲良くなることができた。
それから何となくここに通うようになって、何となくお互いのこと理解していった。
でも、沙夜とはこのベンチ以外の場所では会うことはない。
時々、なんで私達は特別仲良い訳でも悪い訳でもないのに、こうして、一緒にいるのだろうと疑問に思ったりする。
なにか互いに共通点があるとすれば、こうして一人を好むことぐらい。逆に違うところというと、考え方や実際の行動、恋愛の価値観まで様々なものがある。
これについては、考えれば考えるほど謎が深まるばかりだった。
突然だが、沙夜には好きな人がいる。
集団の和から外れている沙夜だが、恋愛感情という面では他の人と同じような思いを抱いているのだ。
「……なんで何もしゃべらないのぉ?」
私がしばらく黙っていたからか、沙夜は話しかけてきた。
「…別に今さらなにか話すことなんて私と沙夜にはないでしょ?」
私は少し拗ねたような沙夜に少々きつく言った。
私達は先程言ったような仲が言い訳じゃない。でも、互いのことを一番理解しているという自負はそれなりにあった。
「うーんまぁ、そうね」
納得したようだ。
「というか、前から言ってるけど沙夜さんってつけなさい」
「めんどくさい。沙夜は沙夜でいいじゃない」
すると、沙夜はまた拗ねたように口をとがらす。
「そんなこというなら襲っちゃうぞー」
「がおぅ」なんて言いながら隣でがさがさ動く沙夜に少しイラッとした。
私は笑顔を作って沙夜に顔を向ける。
「そんなことしてたら、嫌っちゃうぞ」
私なりに茶目っ気一杯で言ってみた。
沙夜はその言葉を聞くと暗い表情をする。
「それは……嫌かな」
沙夜が悲しげに言った。
「私、
沙夜の恋愛対象。
それは、
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