第19話(19)竜殺し・4


 宗主を馬鹿にされ、それ以上に 犯罪行為を目撃されたため、目の前の小柄な魔法使いを殺す。

 それは皆の、生存者6人の総意だった。


 既に抜刀していた武器を構え直し、弓に矢を番え、魔法使いが詠唱を始めた時、いつの間にか魔杖を剣に持ち替えていた 彼等の敵が、それを抜いた。


 強い光に目を焼かれて 体勢が崩れた瞬間、6人の首は切られていた。

 もちろん剣を打合う余裕など全くなかった。


 ――あれ?


 その時になって 魔剣が違う事に始めて気付いたフェンリは、その太刀を しっかり確認した。


 フェンリが 魔剣の光を感じなかったのは『守護者ガーディアン』の力によるモノである。

 守護者は 身体に悪影響が出る刺激には特に敏感で、この場合、強い光を遮るためのフィルタが、自動的に掛かるのである。


 ――火の魔剣……だよな。どこから入って来たんだ。


 もしかしたら、と思ってポケットを探ると魔杖が3本ある。

 1本多い。


 ――ふぅ 師匠達って本当に、俺を 徹底的に甘やかすなぁ。

 大概にして欲しい なんて事は言わないがな。

 これ等は あり難く頂戴しておこう。

 だが、火の魔剣か。この『変化へんげの怪物』を 人間である俺に託すのか、正気か。


 『残ってた武器の毒も喰い終わったようだぞ。

 ところで、あの死体の中にも毒があるんだけど、喰っちゃって良いかな』


 ――体に毒? ああ、構わない。ただ、頭部のだけは そのまま保存でな。

 そうか、竜と戦うための身体強化に毒を使ってたのか、魔法じゃなくて。


 それは 当然だとも言える。

 身体強化の 本来の魔法は、古代言語魔法で綴られている。略式も 無い事はないが、それは古代魔法を熟知する必要があるのだ。

 それを出来る者が ほんの僅かしか存在しないのは当然だ。

 代替品を使用したのだろう。この場合 それが毒であった、それだけだ。


 フェンリが考えていると、それぞれから任務完了の報告があった。


 『毒を喰い終わって、本体の処理は水色に任せた。全て完了したよ』


 『竜の落し物 及び有用資材の回収完了。

 犯罪者の頭部保管完了。残った不要部(骨など)は、全て焼却しました』


 ――オーケイ。じゃ、帰るぞ。


 ■■■


 「シグレス元国王陛下、現在はベン殿でしたね。フェンリと名乗る、あの魔法使いを どう思われますか」


 森の中にある丘の中腹、そこに突き出した岩棚に腰掛けて、2人は世間話のようで、とても重要な話しをしていた。


 「俺など 足元にも及ばない程の、とんでもない手練てだれだな」


 「彼の者の 魔法使いとしての資質も、通常のヒトでは あり得ない程のレベルです」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る