第18話(18)竜殺し・3


 『へい、マスタ。竜の奴、毒か消えて苦痛が無くなったら寝ちまったぞ。どうしようか』

 ――寝ちゃったか。

 そうだな、小妖精の空間に連れて行って 休ませてやってくれ。ポケット経由で構わない。

 治療は彼等に任せれば良い。

 もっとも 竜は、毒さえ消せば 高い自己治癒力があるから、勝手に治るだろうがな。


 ――デオ、トレ、竜の落し物を全て回収しろ。何も残すな、血液の1滴もだ。


 「正預言協会の宗主様を馬鹿呼ばわりするか。こいつを先に始末するぞ。聖なる武器があれば こんが小僧など……」


 フェンリの顔に、目の前にいる者達の あまりの馬鹿さ加減に苦笑が浮かぶ。

本当に脳筋だったようだ。


 「その宗主とやらが主犯か。表向きには出来ない仕事だ。全信者に通達した訳ではないだろう。

 聖なる武器とは笑わせる、そんな卑劣で邪悪な代物は滅多にないぞ」


 「卑劣、邪悪だと。言うに事欠いて。無礼な」


 「今更だな。前にも そう言っているのだが、聞こえなかったのか。

 まぁ、お前達のような、末端の 雑魚ざこの耳は、己に都合の悪い言葉は聞こえないように出来てるらしいかならな。

 そんなモノ、誰が 何処から見ても、その卑劣さと 邪悪さは誤りようがないだろうが、間抜け共め。

 もっとも お前等のようなバカは、『卑劣』や『邪悪』の意味すら知らないんだろうがな。

 だが バカだからこそ選ばれたお前達のような実行犯は、他にも 幾らかは、いるんだろう」


 選良意識が 如何にも高そうな男が、怒りを顕わにして言い放った。


 「これは宗主様が おん自ら聖なる力を賦与された聖なる武器だ。それで暴悪な竜を殺して何が悪い。

 よく聞け、冥途の土産だ。『竜殺し』に選ばれたのは 我がグループを含む3組だけだ」


 本物の馬鹿だったようだ。こんな簡単な挑発に乗るとは 呆れるしかい。


 少しは正気を保っているらしい女が糾弾するが、もう遅い。

 「そんな事を話して、誰かに知らされたら どうするつもり」


 「問題ない。こいつは、ここで殺す」


 敵認識した相手と言葉を交わしながら、フェンリは魔杖をポケットに仕舞い、魔剣を取り出しながら言った。


 「誰が造ろうが、その邪悪さは 疑いようがないだろうに。

 やれやれ、犯罪の目撃者を抹殺、か。どいつも こいつも同じ事を考えるんだな。

 そして当然、同じように 返り討ちに遭うんだ」


 2人づつの剣士、弓術士、魔法使いである。


 剣を構え、弓に矢を番え、魔法の詠唱を始めた 6人の敵を確認して、フェンリは魔剣を抜いた。


 もう待機状態に入っているので魔力を注入する必要もなかった。


 魔剣を抜いた途端、敵性対象者達 全員が数歩退き、当然 詠唱も中断した。


 フェンリの想定通りの動きである。

 その隙を突かな戦闘法など、あり得ない。


 6個の首が宙を飛んだが、以外にも血液が飛び散る事はなかった。


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