第17話(17)竜殺し・2


 ――助けるべき だろうな。

 回答も もちろん念話である。彼等には 喋る機能が無いのだから。


 この黒い球体。実はスライムの上位種である。まだ フェンリのてのひら2体共が 一緒に乗る程に小さい。

 彼等は明らかに知性があり、フェンリに自由意思で着いて来た。

 あの建物の最上階、死霊ダンジョン核と一緒に居た個体だ。食物は大気中に浮遊する微生物(ウィルスも含むから正確には不明)。

 彼等は 他の、下位スライムを制御する事が出来る。そして手は無いが、サイキックのようなもので、物を移動させたり、操作まで出来る。


 ――フォブ、記録を頼む。

 竜の傷だが、あれは解毒で何とかなるかな。

 『やってみんと分からんな。単純な毒なら何とかなるが、あの邪気が気に食わん』

 ――じゃ、黄色と緑色の全員を投入してくれ。武器は俺が抜くから、邪気の方は後で対処しよう。

 『でも、あれはヤバイぞ、凄く邪悪だぞ、危険だぞ』

 ――大丈夫だ。俺には守護者ガーディアンがいるからな。

 じゃ、行くぞ。


 フェンリが竜に刺さっている武器、槍2本と薙刀状の長剣を引抜こうとすると、死んでいる3人の仲間だろう、ヒト 6人が邪魔をして来た。

 面倒なので、魔杖で軽く弾き飛ばした。


 殺してしまおうか とも思ったが、話しを聞く必要がある。あの程度なら 大したケガもしないだろう。


 竜は 少しばかり血を滲ませて、傷の周辺が黒っぽく変色している。

 武器を引き抜いた際 多少出血があり、思ったより多くが寛衣に掛かってしまったが、すぐ吸収されて 血痕は消えた。フェンリも気にした様子はない。


 ――毒喰いをたのむ。


 毒喰いのスライム(黄色と緑色)が傷口に張り付いた。


 「貴様、何の積もりだ」

 フェンリに排除された者達の、多分 リーダ格が、声を荒げて叫んだ。


 何という言い草だ。己の行為の反省など一片もない。フェンリの言葉が、些かキツくなるのは当然だろう。


 「それは こっちが聞きたい。知性体に攻撃を仕掛ける事は禁止されている筈だ。それも 古竜なんて、愚かにも程がある。

 それに、お前達の その卑劣で邪悪な武器と装備は何だ」


 「ひ、卑劣で邪悪……だと」


 「知性体に毒を使うのは 卑劣ではないのか。

 怨嗟、嫉妬、羨望、憎悪にまみれた武器や装備の、どこが邪悪でないと言うのか。

 それより、さっきの質問に答えろ。答えの内容によっては、お前達を始末する」


 『どっちの毒食いも有効だったよ。あの気配が毒の元らしいので、それも喰っちまった』

 黒い球体、ディムの言葉には驚いた(悪食に過ぎるだろう)。フェンリは、すぐ追加の依頼をする。


 ――それは重畳。2、3体だけで良いから、死体の 武器と装備の毒も喰わせておいてくれ。死体そのものは 水色での処理を頼む。

 あ、待て。首を斬って 体だけ喰って良い。頭部は冷凍して保管する。普通の収納袋に冷凍魔法処理をしておいたから、それに入れてくれ。

 『分かった。生きてる奴等のは どうする』


 ――エイス、死体の首を落として保管しろ。

 『了解』


 ――生きてる者は 装備の毒、邪悪な気配も一緒に喰って良いが、武器は少し待て。話が済むまで、だがな。


 「どうした、答えられないのか。それは そうだよな。

 世界の掟である規約『知性あるとは、戦闘行為を行ってはならない』を破る事に、まともな理由など付けられる筈がない。

 それも、毒を使うなんて 最低だ。

 さて、どうする。

 俺は お前達が行った犯罪の目撃者だ。国は騙せても、冒険者ギルドは許さないだろうな。間違いなく処刑だ。仮に逃げても、生涯 お尋ね者だろうな」


 反応が鈍い。こいつ等は、とても頭脳を使う作業向きには見えない。主犯は別にいるようだ。フェンリは もう一押しした。


 「さぁ 言え。どこの馬鹿が そんな事を指示した」


 その時 黒いスライム、ディムの念話が入って来た。


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