第16話(16)竜殺し・1


 フェンリは さっきから気になっていた。

 魔杖に装着した魔力回収用オーブの、死霊用魔杖と繋がっていない方が、とても活発に作動しているのだ。

 この膨大な魔力は どこから吸収しているのだろうか、と。


 高度 約5メートルの位置で止まり、角ウサギの進行方向を見ると、別の生物が同じような行動をしているのが見える。


 逆方向を見れば、暫く角ウサギの群れが続いた後、明らかに違う種類の生物の群れがある、それは魔物ではなかった。

 師から聴いていた 大量発生スタンピードとは様子が違う。


 高度を上げて、森の木々の上に出て、更に上昇する。高度は20メールを超えているだろう。

 遠景は見えるが、茂る枝葉が邪魔をして 詳細は分からない。

 だが、それで良い。確認したいのは この騒動の大本おおもとなのだ。


 そこでは、多くの木々が薙ぎ倒され、砂埃が舞い上がっている。

 異常な程 強力な、そして大量の魔力が撒き散らされている。そのせいで『倉庫』が大活躍中である、入力用のオーブもだ。


 ――これでも発熱とかの異常がないのは、さすが小妖精だな。


 『あーりがとう! やったぜ、やっほう!』

 褒められて嬉しかったのか、小妖精が歓声を上げた。


 現場まで 歩いて行くのは難しい、飛んで行くしかない。これは、どう考えても異常事態に間違いない。

 無関係なのだ。放って置いても良いのだが、気になって仕方がない。

 フェンリは、ここは 感情に任せるべきだと判断した。


 ――ミラ、聞こえるか。

 『えっ、これって遠話(風の精霊魔法によるモノ)なの』


 ――落着け。そちらは問題ないか。こちらは少し時間が掛かりそうだ。

 この騒動、何か嫌な感じがする。現場を見て来るから、帰るまで 出来る限り、そこから移動しないでくれないか。

 『この騒動って、角ウサギの事?』


 ――まあ、それに関連してるが その原因、元凶についてだ。

 『分かった、気を付けて。ベンにも伝えておくわ』


 ――助かる。じゃ、行ってくる。


 ■■■


 魔力の源は ドラゴンだった。

 フェンリは 俯瞰して状況を観る。容易に対処出来る事柄かどうかの確認である。もし 竜が暴れているなら、1人では どうしようもないからだ。


 周りに9人のヒトがいる。内、3人は既に死んでいる。


 竜の胴体に 3本の武器が刺さっているが、彼等の武器モノだろう。


 竜にとって この程度、本来なら 大した傷ではない筈だ。

 それが ただの傷なら、放置すれば良いのだが、現実において、竜が 苦しんでいるいるのが分かる。


 原因は、竜を傷付けた武器の刃に塗られた毒と、その武器を使っている者達が発する『邪悪な気配』によるモノだ。

 怨嗟、嫉妬、羨望、憎悪 マイナス意識のオンパレードだ。


 どう見ても悪役は『ヒト』の方だ。


 『どうも 良くない状況だね。どうする』

 フェンリは肩に乗っている、本来 不可視である 小さな2個の黒い球体の1つが、念話で話し掛けて来たた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る