第20話(20)暇つぶしの会話


 「フェンリの剣術は 一流、いや それ以上だな。たった1人で、30人程もの 訓練された傭兵隊を瞬く間に殲滅した。

 それも、シグレス王家秘蔵の魔剣を使ってな。

 その前に、魔法使いや弓術士、その場の指揮官を倒したのも、きっと あいつだろうな」


 「あの魔剣を抜いたのですか」


 「お前は、あぁ 奴隷環を着けられて……いても意識は あった筈だが、見ていなかったのか」


 「お恥かしい話しですが、指揮官の男が絶命し、命令が中断する前までは、朧気ながら覚えているのですが、後の事は 全く記憶にありません」


 「そうか、凄かったぞ。俺も、フェンリが まだ剣に引っ張られている時点までしか見えなかったが、背筋が凍えるような気がした」

 「そんなに……」


 「剣戟の、剣を打合わせる音が1度もしなかった。で、魔法は どの程度なんだ」


 「マスタレベルの魔法使いです。ただ 魔法を使う事に、何だか躊躇いがあるように感じました。あれでは戦闘には使えないでしょうね」


 「自らは『術師』と言っていたが」


 「魔法使いではなく『術師』と名乗るのも、魔法による戦闘を避けるためかも知れませんね。

 素晴らしい魔法技術の持ち主です。

 気付かれませんでしたか。さっきの土の橋、そして浮遊術、続いての飛行術、それらは全く詠唱されずに行使されました。

 加えて、さっき連絡があった精霊魔法の『遠話』です。はっきり言いますが、遠話は 決して簡単な魔法ではありません。

 それを あんなに短時間で構成し、正確に 私に対して連絡して来ました。エルフの高位・精霊魔法使いに匹敵します」


 「そうなのか。精霊魔法は得意じゃないような話しだったが」


 「悔しいですが、彼の者 本人の感覚では、そうなのでしょう。

 そういえば、さっき使われていた剣は、フェンリが付与術を施したモノだとか。詳しく見せて頂けませんか」

 「良いぞ。おっと、この短剣もそうだったな」


 「……これは」

 「どうした」


 「大剣の付与、確かに『土』なのですが、恐ろしく深く掛かっています。通常では、いえ、かなり高位の付与術師にも 解除は出来ないでしょう。

 こちらの短剣は、そもそも『土』の付与ではありません。似ているようにも感じますが、少し、いえ かなり違います」


 「『術師』と言うのは付与術師の事も含むのか。

 ところで、お前は、フェンリを何故『彼の者』と呼ぶ。彼で良いのではないか」


 「ご存知ありませんでしたか、エルフ族では『フェンリ』は女性名です。

 ハッキリするまでは、侮辱した事になり兼ねませんので『彼の者』としております」

 「何だと。……だが自分の事を『俺』と言っていたぞ」


 「言葉使いは育った環境により変わります。

 実際、女性が『俺』を自称している地方がありますし、そう言う時代もありました」

 「そうなのか」


 「何だ あの光は」

 「光の魔法? いえ、魔剣を抜いたのではないでしょうか」


 「光の魔剣も持っているのか。何て奴だ」


 「彼の者は、魔杖も複数本 持っているようですが」

 「1本は 元から持っていたモノを改造したようだ。あぁ さっき使っていた魔杖だ。

 もう1本も改造だったが、元は死霊ダンジョンで拾って来たモノらしい。妙な杖だったぞ。

 ひょとしたら 別にも杖を持っているかも知れないな」


 「自称『術師』には、錬成術や錬金術も含むのかも知れませんね」


 「おや 魔物が静かになっていますよ。どうしたんでしょうか」

 「『元凶を』潰したんじゃないか。あいつが」


 「命の恩人を『あいつ』呼ばわりか。相変わらず 良い根性をしているな、お前は。

 あれ、その短剣。すまないが ちょっと貸してくれ」


 フェンリは短剣を取り、すぐに付与を改変した。『地』から『土』へと。

 「……これで良い。さっきのじゃ使い難かっただろう。微妙に違うのを うっかり忘れていた」


 「あ、いや。済まんな。で、実際には どうだったんだ」


 「確かに さっきの件に付いては解決した。だが、元凶というか、親玉が他にいるようだ。詳しい事は後で話す。

 今は ちょっと休ませろ。流石に疲れた。

 あぁ、そうだった。傷ついたドラゴンを 1体、保護ほごしたからな」


 「何だって」

 「何ですって」


 「だから、休ませろって」


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