第12話(12)行先の選択・2


 「山の西側は、これから群雄割拠の時代に入るわ。だから、向かうなら こっちの北部が良いわよ。

 フェンリ、あなた古式魔法は使えるの?」


 「え、あぁ 古式魔法も一応は使える。

 ただ、おもてをサラリと舐めた程度だから応用は利かないがな。既成の魔法を そのまま使える、って程度だ。

 何でもって言いながら恥ずかしいのだが、そういう意味で深くは知らない。『術』に必要な最低限、って ところだな」

 ――深くは、これから勉強するんだけどな。


 これは勘違いである。フェンリは『古式魔法』を完全に使える。

 勘違いして、間違って言っているのは『古式言語魔法』についてである。師匠から貰った本『古い魔導書』は、それを習得する為のモノだ。

 古式魔法は、古式言語魔法の一部を簡略化したモノであり、古式言語魔法に関する事を知っている者は、あの師匠(隠遁者)達以外にはいない。


 「それでも使えるんだ、凄いね」


 「北部か。……蛮族の地は辛いな」


 「違うわよ。王国の、この森沿いの最北にある侯爵領が お勧めね。

 それと、北の地にある国々は、決して蛮族じゃないわ。この辺りと習慣が違うだけなのよ、間違えないように。

 忠告だけど、中央の、王国と帝国の 両本拠地周辺には近付かない方が良いわよ。危ないわ」


 「そうなんだ」


 「何故だ、安定して来ていると思っていたが」


 フェンリは、そのまま受け取ったが、ベンは異議を唱えた。

 これに付いても、彼の持っている情報と違っていたようである。


 「どちらも、間違いなく分裂するから、行かない方が賢明ね。

 もっとも 仕官というか、仕えたいならチャンスかも知れないけれど。相手を選ぶのが難しいわ。

 あぁ、場合に依っては 仕える必要すらないかもね」


 ミラの視線がベンの背中に向いている。少しづつだが 調子は戻って来ているようだ。


 「分裂する兆しが 明確にあるのか」


 「ええ 現国王、現皇帝 その両方が、治る見込みの無い病にある時点で、もう決まっているわ。

 どちらも今年中には崩御するだろうから、王国も 帝国も、百パーセント確実に分裂するわね」

 ミラは、余程 自信があるのだろう、きっぱりと言い切った。


 「しかも王国は もって来年中頃、帝国は 遅くても3年以内ね。

 最短だと今年中に どちらも、現首長が亡くなった直後の可能性もあるわ」


 ベンは ちょっと信じられないようである。

 「どっちも 最低でも、百年(3代)は続きそうに思ったんだが」


 「そうね、上手く行っていたら そうなっていたかも知れないけれど、現状では無理ね」


 「王国は確実に7つ以上、最大だと10に分断されるわ。6侯爵と王公に分断されるのが最少。7侯爵、2公と王家に分断するのが最大ね。

 1番可能性が高いのは7侯爵と2公、王家は公家の片方に吸収されて、9つに再構成されるってものね」


 「侯爵が6や7になるのは、さっき言ってた 北の侯爵が関係するんだな。王家が残るなら そこは王家に付く、か。

 世継ぎの問題だな。確か王女1人しか残っていなかった。って それか」


 「正解。王国は女王を認めていないから 当然揉めるわ」


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