第11話(11)行先の選択・1


 フェンリはベンと話している間も ずっと作業を続けてていた。


 話し始めた頃に弄っていた杖は脇に置き、30センチメートル程の大きさの、長径部を縦割りにして左右が白と黒に くっきり色分けされた楕円の球体(ラグビーまたは アメリカンフットボール用のボールを想像して頂きたい)に魔法を掛けている。


 それが それぞれの色毎に割れて(当然ながら断面は楕円形)、収縮し、細長く形を整え終えると、横に置いてあった杖の 石突部先端から5分の4程の位置(先端に近い部分)にある膨らみに、別々に埋め込んだ。


 フェンリの弄っていた魔杖の本体は、死霊ダンジョンで見つけた物である。オーブこそ外されていたが、杖その物は高級品と言って差し支えないモノだった。それを、改造して ある目的のために使おうとしているのだ。

 実は 死霊ダンジョンに乗り込んで、コアを回収した時、妙なモノに気に入られ 今も一緒に居るのだが、フェンリ以外(小妖精や従者等、フェンリと深い繋がりを持つモノは除く)には、認識されない。


 ベンは、それを見過ごして話を続けていた。

 だが、そうでないモノ達もいた。彼等の周辺で跳ね回っていたスライム群である。


 スライム達は、フェンリが白黒の、光と闇のダンジョン核に魔力を注ぎ始めた頃から 周囲に集まり初め、2つの 赤い点のように見える目玉で凝視していた。


 それが分離した時には 驚いたかのように跳び上がり、また元の位置に戻って同じように見ている。


 形を調整された核が杖に装填されると、スライム達は1列に並び、順序良く杖の中に消えて行った。


 こうして作成、改造した魔杖は、小妖精達が微調整して 基本構造は変える事なく、魔力流の抵抗を除いたり オーブの効果を上げたりなどして、より良いモノに完成させていく。何時もの事であるが。


 何も見ていなかった(そうなるように認識阻害の魔法を掛けられている)ベンが、そのまま話を続ける。


 「そこの川と森、奥の山を越えて、向こう(西)側の平地に行こうと思っている」


 「それは 止した方が良いわ」


 その声は、フェンリが、スライムの入った魔杖、死霊用魔杖を寛衣ローブのポケットに収め、別の、前から使っていた杖を取り出して 弄り始めた頃に聞こえて来た。


 暗緑色をしたベッドのようなモノに寝かされていたエルフの女である。

 まだ、本調子ではないようで、頭も動かせず 目も閉じた儘で、仰向けに転がった状態だ。


 「やっと目が覚めたか。体力も 精神力も、かなり弱っていたから心配していた。もう少し その儘でいる方が良いぞ」

 「ありがとうございます。奴隷環を外して下さったのは、どちらかしら」


 「俺だが、大した事はしていない。そんな稚拙ちゃちな仕掛けなど、魔力を注いで行って 少し許容値を上回った時点で簡単に壊れた。

 それより、良かったら名前が知りたいな。俺はフェンリ、『術師』だ。と言っても修業中だが」


 「ベン、剣士だ」


 「フェンリ……?

 私はミラ。弓術士で、精霊魔法使いでもあるわ」


 「それは凄いな。俺は精霊魔法は並程度にしか使えないんだ。普通の魔法より制御が難しいからな。精霊の ご機嫌取りは得意じゃないんでね」


 「お前、精霊魔法まで使えるのか」


 ミラが 困ったような言葉を零す。

 「私は 精霊魔法しか使えないの。生活魔法すら苦心してるわ。あなたが羨ましい」


 「属性魔法が使えないのは 確かに不便だろうな。

 ベン! 今更 何を言っているんだ。『術師』なんだから当たり前だろうが。人間世界に現存するモノなら、一応 何でも使えるさ。

 それより、『西側は止めろ』と言ってたけど、何でかな」


 「ああ、それね。もうすぐ騒乱が起こるわ」

 ミラはフェンリが言った『術師だから、現存する どんな魔法でも使える』という言葉に引っ掛かっていた。


 「騒乱だって!」


 ベンは驚いて叫んだ。そんな情報は持っていなかったのである。


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