第10話(10)今、この時代


 「で、社会的には どんな具合だ。

 まぁ、大体の予想は出来るがな。兵士や坊主が野盗の真似事をしている段階で、良い状態じゃないのは分かる」


 「(兵士じゃなくて傭兵、それに野盗じゃないのだが)確かに、まぁ……、その通りだ。小国乱立時代の末期かな。

 中央にある 2つの大国に、纏まりつつある。と言えば分かるか」


 「なるほど、乱れ具合からすると、ここは その大国に、吸収すらされなかった残り物、粟散国の1つと言う訳だ。それらは多分 王制だろうが、大国はどうなんだ」


 「よく分かるな。小国は皆 王制だ。大国の1つも王制だが、もう片方は帝制となっている」

 「じゃ、ほぼ確定だ。帝国が統一するだろう」


 ベンは少し興味が出て来た。

 会話が楽しいのだ。ポンポンと快適に進む会話は、飾り立てて内容の無い、お座なりな会話に慣れた男には とても新鮮であった。


 「なぜ そう言い切れる」


 「言い切っていない。

 可能性の問題だ。だから『ほぼ』なんだが。

 王制は、血統主義の弊害が大きい。初期は まだ良い、王が十分な牽引力を持っているからな。

 だが末期、再統一したとしても 中身、人間の 心根の修正は難しい。制度が同じなら、同じ様な 怠惰な態度を示すだろう。

 よほど有能な国王が治めないとダメなのに、家臣がソレを望まない場合が多い。加えて、王自体が怖がって 有能な家臣を遠避ける傾向がある。それどころか、後継者さえ疑う事態もあり得る。

 粟散国の末期は、それが もっと甚だしい。下剋上、骨肉の争いに加え、さっきのような事例が増えると、民が王を厭うようになる。

 そうなれば、もう おしまいだ」


 「確かに、そういう傾向はあるな」

 何だか 実感が籠もっているようだ。


 「それに比べれば帝国は、少しだが マシだと言える。

 血統より実力を重んじる傾向があるからだ。血統を完全には 無視出来ないだろうが、皇帝自身が より強い後継者を選ぼうとする。

 実力主義は、良くも 悪しくも帝制の特徴だ。良い方に向かえば、同心円状に有能な人材が集まる可能性がある。

 有能な人材が集まれば、逆に それが無能な皇帝を排除する事も可能だ。

 もっとも 名前だけの帝制でなければ、だけどな。

 帝国には 貴族なんかは存在しない。たった1人の皇帝が、全てを支配する体制だからな。

 もしソレに似たモノが存在するなら、それは 名前だけの帝国、ただ名前を変えただけの 王国に過ぎない。

 で、この辺りは どっちに近いのかな」


 「この辺は、王国の西側だ。接してはいないが。

 それ以前に、お前の その考えだと、帝国は名前だけかも知れんな」


 「うわぁ、最悪じゃないか。潰し合いになりそうだな。

 帝国と王国の配置は、南北かな、東西じゃない事を祈るけど」


 「配置は 残念ながら東西だが、だが お前、絶対勘違いしているな。

 この配置は西域全体じゃないんだぞ。

 中央山脈と そこの山脈の間に もう1つ山脈があるだろう。

 さっき言った国家の配列は そこまでだ。中間あいだにある山脈の東側は、未開の地だ。

 ここの北部は、氷結地帯を除いても どちらにも属さない国家が多くある。

 それこそ 北部が纏まったら、今 言ってた全体より ずっと広いんだ。そっちに統一される可能性だってある」


 「そうなのか。

 何だか ややこしいな。

 それで ベン、お前は何処に向かう積もりなんだ」


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