第9話(9)この場所は
話が重くなったのを感じたフェンリは、今 気付いたかのように明るく話し掛けた。
「ふぅん、君には 幾らかの魔力があるようだな。もう その剣を
「慣らす?」
「何だ無自覚か。その剣、鞘に合わせた大きさになってるじゃないか」
「なに」
ベンが慌てて剣を確認すると、確かに しっくりと鞘に収まっている。抜くと、質量は そのままで、大きさと形状が変わっていた。
――あれ? 『地』の付与が下位の『土』に変わっている。へえ、格を落としたとは言え、自分に合わせるとは中々のモノだ。
「形状も変えるとは凄いじゃないか。片刃の太刀か、ちゃんと魔力を供給してやれよ。更に使い勝手が良くなる筈だ」
これは完全に誤解である。
ベンが水浴する前に 大地に突き刺した事で、魔力が活性化し、剣が持ち主の属性に合わせて 自動的に対処しただけである。
属性を下位に落とすのは、こういう 強力な上位付与(この場合『地』)を与えられた剣にとっては容易な事である。逆は無理。
形状変更も同様でだが、こういう対処は、1度だけしか出来ない。
そして 彼には、魔力を供給する
これが後の 彼の評価を落とす一因である。
「ほら、これをやる」
フェンリが 山なりに放って渡したのは、少し長目の短剣である。ベンは受け取ったものの 意味が分からず途方に暮れている。
「元の剣、壊れた部分を除いたモノで造った。付与もしてあるから それなりに使えるだろう、持っておけ」
「……なぜ そこまでしてくれる」
鞘に収まったままの短剣を見ながら、少し考えて、ベンは疑問を声に出した。
「当然の
「情報? 何の」
ベンが
「俺は
この場所が何処か、今が どんな時代なのかさえもだ。
生活全般に対する、それこそ一般常識の全てを知りたい」
――活かし方は別として、知識は必要だからな。
「川向こうの森か、その先の山から来たのか? だが あの辺りには、ヒトは住めない筈だが」
「違う。どう言えば良いかな。ここは西域で、季節は……春かな?」
「そこからか。どんな田舎から来たんだ。まあ 確かに西域で、今は春だ」
「やっぱり春か……。でも まあ良かった、最低限は満足しているようだ。
で、中央山脈は知っているか」
「東端にある山脈だな、東域との境界でもある」
「あぁ そこだ。俺は そこから来た。方法は転移魔法なんだが、帰る気はない。もっとも帰ろうにも、俺は 正確な元の位置を知らない」
――何だか時間的にも狂いがあるようだし、帰れないだろうな。
フェンリの言葉に驚き 急に黙り込んだベンである。
――転移魔法だと、失われた古式魔法の最たるモノだ(と、聞いた事がある)。この魔法使いの少年は、言葉通り 常識を、それこそ何も知らないようだ。
当たり前のように爆弾発言を投げて来る。
何とか気分を落ち着けて、ベンは対話を続ける。
「……じ、じゃあ 西域の、西端近くにある山脈は知っているか」
「西の端。……あの、最高でも 4千メートルくらいの山脈か。海辺から氷結地帯まで続いているやつだな。両側に平地があって、片側は東の海に接していたと思うが」
「あぁ それだ。それが川を渡った先の 森の奥にある山だ。ここは東側の平地だ。
この辺りは、南海側の端から 少し中寄りになる」
「なるほど。場所は大体分かった」
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