第4話(4)魔剣


 問答無用で目撃者を抹殺、か。

 敵性確定だな。そう フェンリ認識する前に、本人の意思とは関係なく、加速アクセル魔法が発動した。


 加速魔法が発動する一瞬前には、必ず身体強化魔法が自動的に発動する。加速に耐える肉体とするためだ。着用している衣服は、加速状態を前提に製作されているので問題はない。


 これらの魔法は、古代言語魔法で編まれており、対象者の魔力を必要としない。別の魔力貯蔵庫、指輪から起動用魔力を取得するよう記載されている。

 これは師の配慮である。フェンリは この魔法を、操作出来るまでは理解していない。

 操作出来るようになれば、加速魔法は任意にも発動可能(当然、身体強化魔法込み)だし、身体強化魔法は単独でも発動可能になる。


 しかい 理解は不十分でも、発動さえすれば 使えるし、解除しない限り作動し続けるのだ。


 まず、邪魔になる魔杖を寛衣のポケットに収納しながら、目の前の敵に対峙する。無駄のない とても滑らかな動きだ。


 指弾という、小石の類を 指で弾き飛ばす技術がある。普通は目眩まし程度の効果しかないのだが、加速状態で この技を使うと、とんでもない破壊力を生み出す。


 襲い掛かって来た兵士の顔面に小石が陥没し、その衝撃で体が浮き上がろうとしている。

 フェンリは寛衣のポケットから 別の石を取り出して、投げた。

 狙う相手は、魔法の射程距離圏内に入って詠唱を始めていた魔法使い3人と、例のエルフ以外の弓兵2人、そして この場の指揮官だ。

 師の教え『直近の敵と遠距離攻撃手、指揮官を潰せ』は、戦闘の定石でもある。


 加速状態で、しっかり体重を乗せて投ぜられた石は、音速を軽く超える速度でまとを破壊した。

 エルフに向かっては、動けないように脚に向かって投げた。もちろん速度は落としてあるが、それでも 骨折は免れないだろう。


 最初に(フェンリに)頭部を破壊され、倒れようとしている兵士から剣を奪い取り、襲われている男の属性である『』の属性を付与エンチャントする。


 付与術自体は 普通の魔法技術である。使えて当然とも言える。


 そのまま 男の前まで行って 加速を解除し、付与済みの剣を渡しながら告げる。

 「お前の持っている その剣は、もう壊れて使えない。これを使え。

 その代わり、その背中にある剣を借りる。どうせ使えない代物なんだろう、俺が使ってやろう。

 助太刀してやる」


 眼前に突然現れた魔法使い(服装で判断した)は、彼の背から魔剣を取り上げ、つかを握って あっさり引き抜いた。


 「な……に」

 男は その剣が、いとも簡単に 鞘から抜き出されたのを見て愕然とした。


 今まで 誰も抜けなかったのだから、当然の反応だろう。


 男は 彼をを囲んでいる敵対者、戦闘に熟達している筈の傭兵軍が、数歩下がって(及び腰になって)武器を構え直したのを見て驚いた。

 しかし 彼等の受けた衝撃は、すぐ男にも伝染し、つい腰が引けてしまい、身体が硬直した。彼の感じれいるのは、純粋な『恐怖』だ。


 その魔剣の あまりにも凶悪な気配に、そして その異形に。


 「えっと これって、反り付きで片刃だから、一応 太刀だよね。持ち主の君に聞くけれど、何時から この刀を抜いていないのかな」


 この緊急時に 何とも場違いな質問だ。だが それに対し、恐怖の中にありながら 律儀に答える男も、中々 良い根性をしている。

 「お、俺も知らん。何代も前から 抜いたという記録は無かった」


 「それって、もしかして百年以上とか」

 「さっぱり分からんな。全く記録に無かったんだ。2百年か 3百年か、それより長いかも知れん」


 それを聞いた魔法使いが、フードの中で とても嫌そうな顔をした、……ように男は感じた。


 その話題の中心にある太刀は、とても刀剣には見えない形状なりをしている。

 その刀身の厚さは、軽く巨剣のそれを超えている。

 柄から先、刀長の4分の1には刃が付いていない 分厚い刀身が露だ。それから先には、刃と共に びっしりと研ぎ澄まされた 小さな正三角形の歯が刻まれている(のこぎりか! と突っ込むなかれ)。

 切先きっさきと言える部分は無い。突く事を全く考慮していない、最初から斬る事だけに特化している。

 その有り様は 正しく肉切り包丁。肉を裂き、骨を断つための道具である。


 刀長は 長剣に類する寸法でありながら短く見える。幅が広いのもそうだが、見ている者が それを持っている者に、気が向いていないのが原因だ。


 身長150センチメートル程しかない年少者が持っていると気付くと、それは異様に映る。


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