第142話 リーアが過ごす休日

 ーーーー(リーア視点)ーーーー


「ん〜……。買い物終わったけど……何しようかなぁ」


 夕飯の買い出しを終えた私は1人街をぶらついていた。

 レーナはエルフの里に手紙を出しに行っているし、ユミは1人で出かけている。

 お兄ちゃん達は……まだ寝てるんじゃないかな?


「たまには1人で依頼を受けるのもありかなぁ。危なくない依頼なら大丈夫でしょ」


 最後に依頼を受けたのは……レーナと一緒に受けたブラックドラゴンだったかしら。

 でも、結局お兄ちゃんとルミアさんが見守っていたんだよね……。

 暇だし、冒険者ギルドにでも行ってみようかな。


「何かいい依頼があればいいんだけどな〜。苦戦する相手じゃなくてもいいからさ〜」


 私はそんなことを呟きながら冒険者ギルドへと歩みを進めていく。

 ……なんとなく周りが騒ついている気がするけど、多分お兄ちゃん関連の話だろう。

 昨日『強羅居組』の組長を殺したからその件だと思う。


「……冒険者ギルドに行くのは危ないかなぁ……。まぁ、いいや。聞かれたとしても知らぬ存ぜぬを貫き通せばいいし!」


 そう、今回の件については詳しい話はまだ聞いていない。

 防衛していたらお兄ちゃんが前戦にでてきたのだ。

 私も【百鬼夜行】のことでお兄ちゃんのところに行ったけど、殺すまでの経緯とかは聞いていないから答えようがないし。


「まぁ、とにかく行ってみよー」


 私はそう言って冒険者ギルドに向かうことにした。


 ▼


 歩き出してから数分後、私は無事に冒険者ギルドへと到着したんだけど……。

 やっぱり面倒なことになっちゃった。


「リーアさん!?よかった……!旭さんのところに行った職員は呼び出してくれたのですね!?いまギルドマスターを呼んでくるので待っていてください!」


「いや、あの……。今日は普通の依頼を受けにきたんですけd「そこから動かないで待っていてくださいね!?……私の話を聞いてくれないかなぁ」


 冒険者ギルドに着くなり受付のお姉さんがギルドマスター室に向かって駆け出してしまった。

 私は普通の依頼を受けにきただけで、昨日の事を報告するつもりはないんだけど。


「……すまんな、リーアちゃん。昨日から冒険者ギルドの職員が忙しないんだよ」


「今回はあの『強羅居組』の組長を殺したんだって?相変わらず規格外だよなぁ」


 私の周りを囲っている冒険者の人達からそんな声をかけられる。

 いや、すまないと思っているならそこをどいてくれないかしら。

 なんでそんな逃げないように取り囲んでいるの?


「そう言うのならそこをどいて欲しいのですが。……幼い女の子を複数人で囲んで逃げなくさせるのは卑怯だと思いませんか?……この場で命を失いたいのかしら?」


「「「「強制的に緊急依頼として受注されてしまったんだよ!!!」」」」


 私が【狂愛】を振りまきながら冒険者の人達を睨むと、震えながらも声を揃えてそう叫んだ。

 私を逃げなくさせることが緊急依頼だなんて……。

 そこまでして昨日の事を聞きたいのかしら?


「はぁ……。わかりました。ギルドマスターが来るまではここにいます。貴方達の任務はギルドマスターが来るまで私が逃げないように囲むこと……ですよね?」


「あ、あぁ、その通りだ。依頼の内容はギルマスが来るまでの間、リーアちゃんを逃さないこと。それ以外の達成条件はなかったな」


 呆れた表情を浮かべる私に筋肉質な男の人が答えた。

 やはり……というか、単なる時間稼ぎだったようだ。

 正直そんなことしても無駄なんだけど。

 でも、強制的に依頼を受けさせられたと言っていたから、そこまでは協力してあげるべきだと思う。


(ギルドマスターが来た瞬間に【影縫い】で離脱するべきね。……出かける前にお兄ちゃんにおねだりした【神絢解放】は……うん、まだ効果は発動しているわね)


 私は魔法の恩恵がまだ残っていることを確認する。

 お兄ちゃんの魔法がなくてもこの場から逃げる事は不可能ではないけど、魔法を遮断する魔道具とかあったら面倒だからね。

 念には念をいれておかないと。


「リーア君が来たというのは本当か!?旭君が来ていないのは残念だが……まぁ、それはいい!リーア君、今すぐギルドマスター室に来てくれないか!?」


「ごめんなさい、お断りします」


 私は息を荒くして迫ってくるギルドマスターに深々と頭を下げた。

 一応最低限の礼儀は通さないとお兄ちゃんに怒られちゃうし。


「……そう言うと思っていたよ。昨日の件についての情報が早急に必要なんだ。……【魔力遮断器】を使用する!すまないが、これで魔法は使えないぞ?」


 ギルドマスターは予想通り魔力を遮断する魔道具を使用してきた。

 でもね……?私が使う闇魔法は……。


「ギルドマスターさん、ドヤ顔しているところ悪いけど……意味ないからね?【影縫い】!!」


「な……!?【影縫い】は闇魔法のはずだぞ!?なぜ魔力を遮断したこの場所で発動できるんだ!?」


 その場で影に潜り込んで行く私を見て、驚きの声をあげるウダルのギルドマスター。

 お兄ちゃんが私達にかけてくれる【神絢解放】は神格を付与する。

 私の闇魔法は忍術に昇華されるので、魔力は必要なくなる。


「今の私の【影縫い】は闇魔法から忍術に昇華したのよ。魔力は使わないからその魔道具は意味がないって事ね」


「忍術だと……!?魔力を使わない魔法なんて存在するのか!?」


 影に潜り込んだ私はギルドマスターにそう告げる。

 かなり驚いているのは……まぁ、当然ね。

 お兄ちゃんですらこの事実は知らないのだから。

 ソフィアさんは……多分気がついているだろうから、お兄ちゃんが知るのも時間の問題かもしれないけど。


 私はいまだに叫んでいるギルドマスターを無視して、冒険者ギルドから離脱するのだった。

 さーてと、依頼を受けられなくなったからどこに行こうかな〜。


 ▼


「ここら辺でいいかな?……よいしょっと」


 冒険者ギルドから無事に離脱した私は、だだっ広い草原に出た。

 買い出しで買ったものは共有の【無限収納】にしまってある。


 それにしても……【影縫い】って本当に便利だよね。

 お兄ちゃんの魔法がないとあまり効果はないんだけど。


 本来の【影縫い】は上級闇魔法。

 人間の影から影へ移動する魔法なんだけど、神格が付与されると対象を指定せずに転移することが出来るようになる。

 魔力も要らず、影があればどこにでも出れるのは……もはや上級魔法じゃないと思うけど。


「じゃあ、戦闘訓練でもしようかな。……【百鬼夜行:えんじゅの邪神】!ついでにダマスク!」


 私は周りに誰もいないのを確認してから妖怪を呼び出した。

 今回呼び出したのは、山梨県という場所にある身延山みのべやまの社に棲みついている邪神だ。

 今回の訓練役には適していると思って召喚してみた。


 ダマスクは……ついでかな。

 邪神への攻撃を判断した後に、別の技の実験台になってもらうとしよう。

 うん、そうしよう。


『ゴ主人……。私ニ何カ用カ?』


『ナぜ俺まデ呼び出さレなけれバならないんダ……』


 邪神とダマスクが私に疑問を投げかけてくる。

 ……というか、ダマスクは文句しか言ってないわね。

 よし、順番は逆にしよう。

 攻撃の判断は邪神に任せたほうがいいのかもしれない。


「ちょっと新しい技を試してみようと思って。……【魔力分身】!さぁ、始めましょうか」


『待テ……何故俺ヲ拘束すル……?」


 私の分身がダマスクを拘束するのをみて、戸惑いの声を上げるダマスク。

 疑問に思ってるみたいだけど……正直今更よね。

 もう少し下手に出ていれば実験台にはならなかったのに。


「じゃあ、訓練を開始しましょうか。【吸生の死剣】を召喚……」


 ジタバタともがくダマスクは無視して、【吸生の死剣】を二本召喚する。

 イメージとしては双剣だ。

 そして、私はため息をついてダマスクを見る。


「いくわよ、ダマスク。……えいっ!」


『……何ダ!?何ヲすルつもリだ……!?」


 私はダマスクに向かって二本の剣を投擲する。

 拘束が解かれていたことに気がついたダマスクはその剣を振り払おうとした。


『……ナ!?剣が4本ニ分身したダト!?……ダが、これクらい今ノ俺にハ何テ事ないワ!!』


 ダマスクは剣が4本に分身したことに驚いていたが、冷静に剣を振り払う。

 だけどね……?

 振り払った後は隙ができるものなのよ……?


「ダマスク、隙だらけだよ?『山を抜きさり、水を割りて、尚墜ちることないその両翼……【鶴翼三連】!』」


 剣を振り払ったと同時にダマスクの影に転移した私は、さらに召喚した剣でダマスクを斬りつけた。

 ……うん、見様見真似でやってみたにしてはいい方じゃないかしら。


『……ウォォォォォォ!!?』


 真下から不意に斬りつけられたダマスクは文句を言う暇もなく送還されていった。

 威力も問題はないみたい。


「……ふぅ。邪神は今の攻撃を見てどう思った?お兄ちゃんがいた世界に出てくるアニメを参考にしてみたんだけど」


 私は近くで攻撃を見ていた邪神に尋ねる。

 個人的にはかなりいい攻撃だったと思うんだけど。

 第三者の意見を取り入れて、改善するところは改善する。

 技の訓練ってそういうものだと思うんだよね。


『攻撃方法ト威力ハ問題ないかト思われマス。ですガ、口上ハ控えた方ガいいかモしれませヌ。長イ口上ハ逆に隙ヲ作っテしまうノデ』


「うーん……。たしかに攻撃前に口上を言うのは隙が出来るかも。さっきも口上を噛まずに言うことに集中してたし……。じゃあ、家に帰りながらどうしたらいいか相談に乗ってくれる?」


『エェ、私デよけれバ喜ンデ。邪神トしての意見ヲ混じえてゴ主人の力トなりましょうゾ』


 邪神が愉快そうにそうケタケタと笑う。

 私はそんな邪神の肩に飛び乗った。

 肩に乗ったことを確認した邪神はゆっくりとウダルに向けて歩き出す。


 口上をどのタイミングで言うか。

 召喚する剣は【吸生の死剣】だけでいいのか。

 神格を付与しない状態でも使えるのか。


 邪神と私はそんなことを話し合っていく。

 妖怪と言えども邪神として顕現したこともあって、様々な意見を出してくれる。

 こう言うところがダマスクにはないところよね。


「ここで話し合ったことはお兄ちゃんとソフィアさんにも聞いてみた方がいいかなぁ。家に着くのは何時頃になりそう?」


『のんびりト向かっておりますノデ……6時までにハ家に着くかと思われマス』


「のんびりでいいよ。お兄ちゃんもルミアさんもゆっくり休みたいだろうからね」


 私と邪神はそんなことを話しながら家に向かうのだった。

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