第143話 二日酔いのルミアと封じられた記憶
ーーーー(ルミア視点)ーーーー
「んんぅ……。よく眠れましたぁ……」
私は背伸びをしてベッドから降りました。
昨日は旭さんとソフィアさんの3人で今後のことについて話し合っていたのですが……いつの間にか眠ってしまっていたようです。
「……ぐぅ……すぅ……」
「あら……まだ旭さんは眠っておられるのですね。……ふふ、可愛らしい寝顔です」
ーーーーつんつん。
私の隣では旭さんが眠っていました。
その無防備な寝顔が愛おしくて、つい頬を突ついてしまいます。
ソフィアさんは見当たらないので、すでに起きているか旭さんの中に戻っているのでしょう。
「う……うぅん……」
ーーーーふよん。
「ひゃんっ。……もう、旭さんったら。寝ぼけててもいたずらっ子ですね……」
頬をつんつんしたのが原因だったのでしょうか。
旭さんは寝返りを打って私の胸に顔を埋めてきました。
不意打ちだったので艶やかな声がでてしまいましたが……起きていないようですからノーカンですよね?
「さて……今は何時なのでしょうか。…………え?」
私は旭さんを胸に抱いたまま、スマホで現在時刻を確認しました。
ですが、スマホに表示された時間に驚きの声を上げてしまいました。
なぜなら……。
「午後3時……!?もう夕方じゃないですか!」
そう、時計に表示されていたのは夕方の3時でした。
そんなに寝てしまっていたのか!と自分自身驚きます。
でも、そんなに飲んだのでしょうかね?
「……ッッ!?あ、頭が痛い……!?これは俗に言う二日酔い……ですか!?」
昨日のことを思い出そうとしたら頭痛が走りました。
ズキズキという痛みと頭に霧が発生したかのような症状に襲われます。
そんなに飲んだのですか……昨日の私は……!!
「んん……?ルミア……大丈夫か……?」
「……ッ!旭さんを起こすわけにはいかないですね……。動こうにも動けませんし、旭さんが起きるまでこのままでいましょう」
私が動いたのを察知したのか、旭さんが身じろぎしました。
せっかくぐっすり眠っているのに私のせいで起こしてしまうわけにはいきませんからね。
記憶に霧がかかったような状態なのは……あんまりいい状況ではないのですが、仕方ないです。
「それにしても……旭さんはそんなに酔っていたのでしょうか?近くで独り言を言ってるのに全く起きる気配がありません」
私が痛みに悶えた時はかなり大きな声になったはずですが……。
旭さんは寝ぼけただけで、幸せそうな顔をして眠っています。
……でも、そろそろ顔を上に向けてあげないと窒息してしまいますね。
そう思った私はゆっくりと旭さんを抱きしめなおします。
旭さんを後ろから抱きしめる形ですね。
もちろん、先程と同じように私の胸に旭さんの頭が乗っかるようにするのは忘れません。
「……うん、この格好なら吸われることもないでしょう。旭さん、無意識なんでしょうけど……吸っていたのは知っていますからね?まだミルクは出ませんよ?」
苦笑いを浮かべた私は旭さんの頭を優しく撫でます。
……頭を撫でているだけなのに私の痛みが軽減していくのはなんでなのでしょうかね?
その答えはすぐそばにありました。
「ルミアー……。無理は……する……なよ……?【完全……持続……回復……】。……zZZ」
「寝ぼけながら回復魔法をかけていたのですか。……まったくもう、器用というか規格外というか……」
見ると旭さんが寝ぼけながら、私に持続系の回復魔法をかけていました。
しかも上位互換の回復魔法です。
本来なら寝ぼけながら魔法を使うことはできないんですよ?
私は旭さんの思わぬ行動に顔が真っ赤になってしまいました。
たまにこんな不意打ちをしてくるから、旭さんはずるいです。
「旭さんのおかげで突発的な痛みは軽減しましたが……。この状況どうしましょうか」
私は小声でそう呟きます。
今の私の姿勢は長座位で旭さんを抱きしめてる形です。
……まぁ、横になればいいのでしょうけれども。
でも、それをしたら旭さんが起きてしまう気がするんですよね。
「レーナさんやリーアさんに助けを求めたいところですが、探知範囲外なので近くにはいないでしょうね……。ユミも出かけているのは予想外でした」
レーナさんとリーアさんが出かけているのはまだ分かりますが、ユミは1人で出かけたのでしょうか?
あの2人がユミを1人で出かけさせることはしないと思っていたのですが……。
「……まぁ、たまには旭さんを独り占めするのもいいでしょう。そうなると旭さんが寝ている……というのは少し残念ですね。これだと愛してあげることはできても愛してもらえませんし」
ーーーービクッ!
…………?
私の言葉に旭さんが反応したような気がしましたが……。
寝息は寝ているときのそれですし、私の勘違いでしょう。
「ふふ……。旭さんの手は大きいですねぇ。男の人の手をしっかり触ったのは旭さんが初めてですが……。やはり女性の手と違ってゴツゴツしているのですね。それを抜きにしても旭さんの手は逞ましいと思いますが」
私は旭さんの手をぺたぺたと触っていきます。
今思うと【男嫌いな氷の女王】と呼ばれた私がこうやって男性を抱きしめているというのは、昔の私に言っても理解してもらえないでしょうね,。
旭さんの情報を見るまで男なんて汚れた獣だと思っていましたし。
そう考えると旭さんは私の初めてを奪っていった方……ということになりますね。
ーーーーチュッ。
旭さんのことを知った時のことを思い出していると、無意識で旭さんに口付けをしていました。
ディープなものではなくフレンチなものですが……。
(……って!私は何をやっているのですか!いくら旭さんに惚れた時のことを思い出したからといっても、不意打ちでキスをするのはダメでしょう!?)
旭さんに口付けをしていたことに気がついた私は、何とか声が出ないように心の中で悶えます。
流石にこんなことをしてしまったら旭さんも起きてしまうのでは……!?
「……んん?……うーん……」
「……ホッ。どうやら起きてはいないようですね……」
旭さんの寝息を聞いた私は安堵のため息をつきました。
それにしてもフレンチキスとは言えどもあれで起きないのは少し心配になりますね……。
ちょっと昨日の確認をしてみましょうか。
「ソフィアさんソフィアさん。起きてらっしゃるんですよね?」
[えぇ、起きてはいますよ。旭の中でのんびりとしていましたが]
私の言葉に旭さんからソフィアさんが顕現してきました。
やはり旭さんの固有スキルとして戻っていましたか。
ソフィアさんが完全に顕現されたのを確認してから、私は昨日のことについて問いかけます。
……先程の痴態が見られていたのではないか、ですか?
ソフィアさんも同じ男性を愛しているのですから、それについては問題ありません。
「ソフィアさん、昨日の夜のことが思い出せないのですが……。何があったか教えてもらえませんか?」
[…………良いのですか?]
私の問いかけにソフィアさんは真面目な表情を浮かべてそう返してきました。
……え?
そんな表情を浮かべるほどのことがあったのですか?
「え、えぇ。二日酔いは旭さんのおかげでよくなりましたが、なんかモヤモヤしているのです。できることなら教えてもらいたいのです」
[……貴女の強い意志は確かに伝わりました。では、昨日何があったかお教えしましょう。【過去投影】]
私の顔を見たソフィアさんは肩をすくめました。
そして、私の目の前の壁に【過去投影】の魔法を使用し、昨日の映像が流れ始めました。
▼
ソフィアさんの映像は約2時間くらいありました。
いえ、時間は大した問題ではないのですが、それよりも……!
「ソフィアさん……。もしかして私や旭さんがこんな時間まで眠っているのは……!」
私はソフィアさんが再生した映像を見て、顔を先程よりも真っ赤にします。
あれが……あの映像が本当なら……!
[ルミアがこの時間まで寝ていたのはお酒の飲み過ぎと、私が放った【人魚の子守唄】の影響ですね。旭と私が遅くまで寝ていたのは、今朝方まで今後のことについて話し合っていたからですけれども。一応貴女には記憶操作の魔法をしておいたのですが……靄がかかった感じになるのですね。これは、今後の課題として検討しましょう]
「…………ッ!…………ッ!」
ソフィアさんの言葉に私は身体をぷるぷると振るわせました。
私に真実を伝えたソフィアさんは魔法の改善策を考え始めたみたいですが、それどころではありません。
「あれが真実なのだとしたら……私は旭さんになんてことを……!」
裸になって旭さんを襲おうとしているのは……まぁいいでしょう。
外ではなく自宅の中でしたし。
問題は羽目を外し過ぎて旭さんに色々と迷惑をかけた事なのです!
「あぁぁぁ…………!穴があったら入りたい……!ソフィアさん!旭さんが起きる前に【静穏空間】を使用してくださいませんか!?」
私は魔法の効果を再検討しているソフィアさんにそう頼み込みます。
旭さんの頭が私の胸の中で動き回ってしまいますが……問題はないでしょう!
キスしても起きませんでしたし!!
[あー……ルミア?使用する分にはいいんですが……]
私の必死な訴えにソフィアさんはなんとも言えない表情を浮かべました。
そして……旭さんを指差し……。
[旭ですが、先程から起きていますよ?ルミアのことですから気づいているものだと思ったのですが]
「………………え゛!?」
衝撃の事実を口にしました。
驚きのあまりすごい声が出てしまった気がしますが……それよりも!
旭さんが起きていた……!?
いつですか!?いつから起きていたのですか!?
ーーーーギギギギ。
私は壊れたロボットのように顔を旭さんに向けました。
そこには申し訳なさそうな顔をしている旭さんの姿が。
「あー……すまん。実を言うと抱きしめなおされた時に起きたんだ。なんか微笑ましかったから邪魔しちゃいけないかなと思って……」
「えっ……?ということは……私がキスしたこともソフィアさんから事の顛末を聞いたのも全て……?」
「……あぁ、全て聞いてたし知ってた。……ごめんな?ルミアがお酒に弱いのを知っていてボトルでワインとか出した俺の責任だわ」
旭さんはそう言って私の身体に抱きついてきました。
こんな状態でも欲情しているのは……図太いと言えばいいのかわかりませんが……。
「…………き…………」
「[……き?]」
旭さんとソフィアさんはシンクロした動きで首を傾げました。
そんな2人をみやりつつ……私は大きな声で叫び声をあげました。
「キャァァァァァ!もうお嫁にいけないーーー!旭さん!昨日のことは忘れてーーーー!!」
動転のあまり私らしからぬ声が出てしまいましたが、そんなことは些細なことです!
今は昨日の私の痴態を忘れさせねば!
「ルミア、落ち着けって!ルミアはもう俺の嫁だろうが!」
「…………フシャーーーーー!!」
「大丈夫、大丈夫……。どんなルミアでも受け止めるから」
暴れ出した私に旭さんが必死に訴えてきます。
私はその言葉を聞いて少し冷静さを取り戻しましたが、猫耳と尻尾はブワッと逆立っていました。
……うぅぅ。
とてつもなく恥ずかしい目にあいました……。
私が平常心を取り戻すのはそれから1時間後のことだったとここに記しておきます……。
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