第139話 旭は魂をどうするか検討する
ー前回までのあらすじー
ゴーンを殺そうと思ったら、ルミアが先行してゴーンを殺してしまった!
あっけなく殺されたゴーンに、ガフスは呆れた表情を浮かべた。
ー完ー
「旭さん、この豚の後始末はどうしますか?」
俺に抱きついているルミアが上目遣いでそう尋ねてくる。
おそらく今までのパターンだと、ダマスクみたいにリーアの【百鬼夜行】に吸収されるのだろう。
だが、正直ゴーンの奴は欲しくない。
ここは俺の一存で決めずに、リーアに確認をとるべきだろう。
「ソフィア、リーアに確認したいことがあるからこっちに呼んでくれるか?『大和』はもう片付けてもいい。分身と意識共有して家に向かってくれ」
ーーーー[もう既に向かわせています。リーアからの伝言です。『お兄ちゃん!今すぐそっちに向かうから少しだけ待っててね!』……だそうですよ、マスター]
俺の言葉にソフィアが即答する。
さすがはソフィアというべきなのか、俺が頼む前から行動していたようだ。
だが、リーアがこちらに向かっている?
今のところ気配は察知できないが……まさか!
「……に……ちゃーん!おーーにぃーーちゃーん!!!」
「うおっ!?やっぱり【影縫い】経由でこっちにきたか!っとと!そんなに勢いよく抱きつくのは危ないって!」
リーアは俺の真下の影から勢いよく抱きついてきた。
抱きついていたはずのルミアはいつの間にか俺の側から離れている。
リーアが来たのを察知して1人だけ避難したな……?
銀色の髪をポニーテールにまとめているリーアは大変愛らしいが、その勢いは愛らしいとは真逆でとてつもないものだ。
俺はリーアに押し倒されないようにしっかりとその小さな身体を抱きとめる。
「えへへ……。お兄ちゃんが私を呼んでると聞いて嬉しくなったの!」
俺はリーアに注意を促すが、当の本人は幸せそうな表情を浮かべて俺の胸板に頭を擦り付けている。
そんなに早く会いたかったのだろうか?
「リーア、嬉しいのはわかったから俺の話を聞いてくれ。そろそろ魂の分離が始まる頃合いだから」
俺は頭を擦り付けてくるリーアを身体から惜しむように引き離す。
……後で存分に甘えさせてあげよう。
「そういえばソフィアさんからそんなことを聞いたような気がする。私を呼んだってことは【百鬼夜行】関連のこと?」
身体を引き離されたリーアはムスッとした表情を浮かべるが、すぐに真面目な顔になった。
どうやらくる前にソフィアから大雑把に話を聞いていたみたいだ。
大雑把な情報から話の本筋を見極める能力はすごいと思う。
「その通りだ。ゴーンを殺した……というか殺したのはルミアなんだが、それはおいておくとして。とにかくゴーンを殺したんだが、このままだとダマスクみたいになるんじゃないかと思ってな。俺個人はゴーンを使役してほしくない。そこで魔法の創造者であるリーアの意見を聞かせてもらえないかと」
リーアにゴーンを使役して欲しくなくて思わず説明が長くなってしまった。
ダマスクの時は【勲章を無くす病】を生前にかけてあったので、妖怪になったとしても問題はなかった。
だが、ゴーンはそれをする前にルミアが殺した。
それはつまり生殖機能もそのままに妖怪として顕現されることに繋がる。
妖怪として使役された後に裏切って襲いかかったとしても、今のリーアが組み伏せられることはないと思うんだが……。
「ん〜……。ダマスク以外の肉盾がもう1人いると戦術の幅が広がるんだけど……。正直ダマスクみたいに相手の抑止力にはなりそうにないんだよねぇ……」
リーアは小声でブツブツとゴーンが【百鬼夜行】に加わった時のメリットとデメリットを呟きはじめた。
ゴーンの死体を呼び出した妖怪に調べさせながら色々と検討しているようだ。
ちなみに幼いダークエルフのリーアだが、戦略を練ることに関しては大人顔負けだ。
それは棒ゲームの妹姫の如く。
リーアが考えつく戦略はあのソフィアが感服するほどである。
「……うん。メリットよりもデメリットの方が大きいかな。ダマスクより肥えているから戦闘能力も低そうだし……。お兄ちゃん、私もゴーンは使役しなくていいと思う」
答えが出たのかリーアは俺にそう宣言した。
どうやらゴーンを使役するメリットよりもデメリットの方が多かったようだ。
心の中で1人安堵のため息をついた俺である。
「じゃあ、自動的に【百鬼夜行】に取り込まれないようにしないといけないな。……権限せよ、【冥府の神】」
『ご主人。このハーデス、命に従い馳せ参じました……って、これはまたすごいことになっているな』
リーアの返事を聞いた俺はハーデスを召喚した。
呼び出されたハーデスは目の前で死んでいるゴーンを見て呆れた表情を浮かべている。
現状を見たハーデスは自分が呼び出された理由を理解したようだ。
『……この太った男の魂をどうにかすればいいのか?』
「そうだ。このままだとダマスクみたいに妖怪になりかねないからな。地獄に落とすなり魂を封印するなりして欲しいんだわ。殺す前に【勲章を無くす病】をかけるのを忘れてしまったしな」
『なるほど、そういうことか。ご主人の懸念はもっともだ。ならば早めに役割を果たすとしよう。……【呪縛されし魂魄】!……早めにやったのはソフィア殿がいるからではないからな?勘違いするなよ、ご主人』
状況を理解したハーデスは、すぐさま魔法でゴーンの魂を束縛した。
どこに束縛されたのかは分からないが、これで少なくとも妖怪として顕現されることはないだろう。
……最後の一言がなかったら尚のこと良かったのだが。
「ありがとうな、ハーデス。じゃあ、役目は終わりだ。後はゆっくり冥界で休んでいてくれ」
『ちょ……ご主人!?最近我の扱いが雑じゃn……』
俺は役目を終えたハーデスを即座に送還した。
ハーデスはなにやら叫んでいたみたいだったが……。
あのままボロが出るよりはいいだろう。
仲間になったばかりのガフスにハーデスのかっこ悪いところを見せるわけにはいかない。
「……ハッ!?わ、私はなにを……!?文献でしか見たことがないハーデス様を見かけたような気がしたのですが!」
硬直状態から解かれたガフスはキョロキョロと周りを見渡している。
どうやら俺の判断は間違っていなかったようだな。
そんなガフスをリーアとルミアは苦笑いして見守っていた。
というか、ガフスはハーデスを様付けで呼んでるのか……。
ハーデスのことを書かれている文献を是非とも本人の目の前で読んでみたいものだ。
「ハーデスはいたぞ?やることだけやって帰っていったけどな。とりあえずゴーンの魂の後始末はできた。後はこの死体をどうするかだが……」
「やはりハーデス様はいらっしゃったのですね!?今度ゆっくりとお話しさせてもらいたいものです」
俺の言葉にガフスは瞳をキラキラさせた。
どうやら本気で信仰しているようだ。
しかし、すぐに真面目な表情を浮かべる。
「それでゴーンの死体について……でしたね。旭様、もし可能であればゴーンのみ
「「「…………え?」」」
ガフスの突然の言葉に、俺とリーア、ルミアは思わず身を強張らせる。
み首級ってあれだよな?
戦国時代とかの武士が言っていたあれだよな?
「あぁ、引かないでください!これにはちゃんとした理由があるのです!」
俺達の反応を見たガフスは慌てたように手をバタバタとさせる。
そしてゴホンと咳払いをした後に、ゴーンの首を欲する理由について話し始めた。
「首を欲するのはゴーンが死んだことを明確に知らしめるためです。『強羅居組』はゴーンがいたからこそ組織として成り立ってきました。ゴーン亡き今、しっかりとした証拠がなければ、第2のゴーンが現れてもおかしくはありません」
「なるほど……。だからこそ各地に点在している組織の人間にその首を見せる必要があるのですね」
「そういうことです、ルミア様。この首を本部に保存しておけば不埒なことを考える輩もいなくなるでしょう。大きな組織となると党首がいなくなるだけで大きな弊害がありますから。それを防ぐ意味でも必要なこと……ということなのです」
ガフスの言葉にルミアが納得したように頷いている。
俺としてもゴーンに似た輩がゴーンの後を継ぐのは避けたいところだ。
そういう意味ではこの薄汚い首を保存しておいた方がいいのかもしれない。
「あのー……ガフスさん?だっけ?ちょっと聞いてもいいかな」
「私のことはガフスでいいですよ、リーア様。なんでございましょう?」
俺とルミアがガフスの話を聞いていると、リーアがおずおずと手を挙げた。
首を傾げているが……何かわからないことでもあったのだろうか?
「さっきのおじさんの首が必要なのは理解したけど、それをどう見せるの?お兄ちゃんなら完全な状態で保存はしてくれるだろうけど……。正直、それを飾っておくのは不気味じゃない?」
……あ、たしかにそれは盲点だったわ。
首の保存については、リーアの言う通り問題はない。
ホルマリン漬けにして容器に入れておくだけでいいからな。
だが、それを本部に飾るというのは……不気味すぎる。
「各支部に見せて回るのは、私がやります。本部には各支部との連絡に使う連絡機がありますから。……リーア様の言う通り、ゴーンの首を飾っておくのは景観的に問題があるでしょう。しかし、ゴーンのような過ちを2度と犯さないという誓いを刻みこむにはそれが一番適しているのです」
「あー……そういうことなんだね」
ガフスの言葉にホッと安心した様子を見せるリーア。
もしかすると、俺達が各支部にゴーンの首を持っていくのではないかと考えたのかもしれない。
……そんなことになるくらいなら各支部を潰して回った方が早いと思うんだが。
「じゃあ、ガフスに任せるとしよう。組織の内部改善も任せていいんだよな?」
「えぇ、それはお任せください!改善するにあたって組織名を『響谷組』に変更しt「それはダメだ」……えー、ダメなんですかー……?」
危ない危ない。
さりげなく組織の名前を俺の名前にしようとしてきやがった。
自分の名前の組織とかどんな羞恥プレイだよ……。
「なるべく俺達に影響が出ないように改善するように。……ほれ、ゴーンの首の処置は終わったぞ。早めに組織改善に取り掛かってくれ」
俺はガフスに釘を刺してからゴーンの生首が入った容器をガフスに手渡す。
手渡す……というか、魔法で浮かべているから実際には手渡しはしていないんだが。
「さすが旭様!いつ保存魔法をかけたのか全く分かりませんでした!では、このガフス!旭様の期待に応える為、全身全霊をもって任務に当たらせていただきます!それでは!」
俺から容器を受け取ったガフスは目にも留まらぬ速さでどこかに走り去っていった。
……あんなに速く走れたっけ?とも思ったが、ゴーンと呼び出された召喚獣を倒した時に経験値が入ったのだろう。
「また1人……チートを生み出してしまったか」
「お兄ちゃん。やっぱりあの【成長促進】のスキルはおかしいと思う」
「リーアさんの言う通りです。スキルの対象を指定できないのですか?」
俺の呟きにリーアとルミアが詰め寄ってきた。
いや、2人の言うことももっともなんだが、あれは俺が意識的に付与しているわけではないからなんとも言えない。
「それについては帰ってからソフィアと検討してみるよ。とりあえず家に帰ろう。なんか……ドッと疲れたし……」
俺は2人にそう言ってゆっくりとその場に座り込んだ。
……さすがに今回は疲れた。
魔力とかではなく精神的な意味で。
しばらくはのんびりと過ごしたいものだ。
俺は近くに来たリーアとルミアを抱きしめて、家に向けて転移魔法を放つのだった。
今夜はジビエ料理でパーティとしゃれこむとしよう。
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