第132話 旭は『強羅居組』の拠点に近づく

「旭様、見えてきました!あの場所こそゴーンが設営した『強羅居組』の拠点になります!」


「いや、拠点が見えてきたのはいいんだけどさ……これやばくない?」


 俺はガフスの言葉を聞いて呆れた声を発した。

 早く行きましょうと急かすガフスを落ち着かせながら歩き続け、ついに『強羅居組』の拠点が見えてきた。

 いや……見えてきたのはいいんだよ。

 それについては問題ない。

 だが……。


「ゴーンとかいう豚は拠点が埋まるくらい召喚したのかよ……。何千体いるんだ……?これ……」


 拠点と思われる場所にはおびただしい数の召喚獣が配置されていた。

 ダスクの時と違うのはひしめき合っているのではなく、それぞれがしっかりと役割に応じて配備されているところだろう。

 あの僅かな時間でよくもまぁ……こんなに召喚したものだ。


「旭様が【ジャイアントデススコーピオ】を乱獲されましたからねぇ……。奥方様の誘拐も失敗しましたし、誘拐用の召喚獣を送還して新たな戦闘用の魔物を召喚したのでしょう。自ら送還すれば召喚で使用した魔力は己に戻ってきますから」


「自分で召喚獣を送還すれば魔力が戻ってくるのか。俺には永遠に必要なさそうな機能だなぁ……」


 ガフスの説明を上の空で聞き流しつつ、俺は目の前の召喚獣達をどうしようか考える。

 正直なところ、殲滅するだけならとても簡単だ。

 召喚獣がいない場所まで【聖断】を展開して【魔神王の洗礼】を使ってもいいし、時間はかかるが【鬼切丸国綱】と【細雪の凶刃】を併用して蹴散らしてもいい。

 ソフィアがサポートしてくれているからぶっ倒れることもないと思うし。


「さすが旭様です!この数の召喚獣を目の前にしても全く引かないとは!」


「いや、別の意味で引いているからな?……ん?あの召喚獣は……」


 ガフスが尊敬の視線を送ってくるのを無視して召喚獣を眺めていると、遠目にとある召喚獣を見つけた。

 それは明らかにデススネークの姿に酷似しているが、毒々しい色合いをしている。

 確かデススネークとかの蛇系の召喚獣はナーガの管轄だったよな……?


「……権限せよ、【ナーガ】」


 俺は向こうの陣営にいる毒ヘビらしき物体を眺めつつ、静かにナーガを召喚した。

 呼び出されたナーガは不満そうな顔で俺をにらんでいる。

 でも、胸を強調するのはやめてくれないかなぁ。

 視線がそっちに行きそうになるから。


『……ご主人様よ……随分と久しぶりの召喚じゃないのさ。私が覚えている限りだと初登場してからもう120話以上経過しているんだけど?』


「急にメタ発言するなよ……。デススネークが便利だから仕方ないんだって。ナーガは上半身が人間だろ?偵察には向かないじゃないか」


『そんなのは人間の姿に変体するから気にしなくてもいいんだよ!』


 ーーーーポンッ。


 ナーガはそう言うと、俺より少し低いくらいの女性に変身した。

 なぜか服は着ておらず、ナーガの時に着ていた服はいずこかに消えている。

 本人曰く、変身じゃなくて変体らしいが……それは正直どっちでもいい。

 変身でも変体でもどっちでもいいから服を着てくれませんかね?

 なんで変身すると真っ裸になるんだよ。

 その大きな胸が重力に逆らってたわわに揺れているのは普通の男なら耐えられないぞ?

 あと、俺の中にいるソフィアがとてつもない殺気を放っているから早く服を着てください。


「人間に姿を変えることもできたのは知らなかったな。それよりも服を着てくれないか?ここには新たに仲間になったガフスもいるし」


『そんな矮小な男の視線なんか気にもならないね。一人寂しく致していればいいのさ。そんなことよりもご主人様には私を長い間放置した責任を取ってもらわないとねぇ……。今ならレーナ嬢もリーア嬢もいないみたいだし、ご主人様の種で今までのことをチャラにしt[……それ以上マスターを誘惑するなら貴女という存在そのものを抹消してあげましょうか……?]なんでここにソフィアの姐御がいるんだい!?』


「なんで私まで!?というか旭様!この美人なお方は誰なのですか!?」


 ナーガは真っ裸で俺に迫ってきたが、俺の体内から出てきたソフィアが片手でナーガの頭をむんずと掴んだ。

 もう片方の手は魔力を込めてガフスの方に向けている。

 どうやらナーガのセリフにいても立ってもいられなくなったらしい。

 その瞳の光は消えており、殺気と【狂愛】を全開にしている。

 俺の体から出てきたソフィアはちゃんと服を着ていたが。


[ガフスと言いましたか……?旭の仲間になった時点で情報は流れてきているでしょう?あんまりうるさくするとこの手に込めた魔力をぶつけますよ]


「……は、はい!たった今情報は流れてきました!ですからソフィア様!静かにしますのでその手をお降ろしください!」


 ガフスはそう叫ぶと、即座に土下座の姿勢をとった。

 ソフィアはうるさくと言っていたが、ナーガの裸を見せないようにするための策だったのかもしれない。

 ……今更な気もするけどな。

 人間形態になったナーガの体を食い入るように見ていたから。


[さて、私がなぜここにいるのか……でしたか?ナーガ、貴女は忘れているでしょう。私の本来の姿は旭の【叡智のサポート】のスキルです。大量の召喚獣がいるので、身体の内側からサポートしようと思っていた矢先にこれです……。今や旭は私を含め5人の嫁がいます。今更存在を忘れられてしまうようなモノに取られるわけにはいきません]


『くっ……!まさかソフィアの姐御がご主人様の体内に戻っているなんて……!』


 土下座しているガフスを横目にソフィアとナーガは言い争いを続けている。

 ナーガは今まで出番がなかったから全部の責任を取れ。

 ソフィアは貴女は普段出番がないのだから誘惑するのは諦めなさい。

 俺としては責任責任騒いでいるナーガはちょっと面倒だったので、心の中でソフィアに感謝する。

 まぁ、ソフィアは俺のスキルでもあるので俺の感謝の念は届いていると思うが。

 だが、このままではいつまでたってもラチがあかない。


「はいはい……ソフィアもそこまで。ナーガもそろそろソフィアを煽るのはやめなさい。見えていると思うが、もう敵は目の前なんだ。そういう争いは後でちゃんとした場を設けてやるから」


『[…………わかりました]』


 俺は両手をパンパンと叩き、言い争いを強制的に中断させる。

 そんなくだらない事を言っている間に召喚獣の数が増えていっているからだ。

 ソフィアとナーガが落ち着いたのを確認した俺は、改めてナーガに向き直る。

 ナーガはソフィアの魔法によってワンピースをその身に纏っていた。


「ナーガ。俺がお前を召喚したのは聞きたいことがあったからだ。あそこの方に毒々しい色合いをした蛇が見えるだろう?あれってお前の眷属じゃないか?」


『毒々しい色合いの蛇……?……あぁ、確かにあれは私の眷属さね。種族名は【パライズコブラ】だよ。【パライズコブラ】は身体の神経を麻痺させる毒を牙に持っていて、牙から毒を噴射することもできる毒ヘビだ。……そんなことよりも、どうしてあいつらがご主人様以外の男に召喚されているんだい……?』


 俺の言葉を聞いたナーガは、遠目に見える蛇を見て怪訝そうな表情を浮かべた。

 その後にどこか苛立つような表情を浮かべていることから、相手側に自分の眷属が召喚されていることに恥を覚えているようだ。


『ご主人様……申し訳ないねえ。あそこにいる連中は【パライズコブラ】の中でも特に若い連中のようだ。ご主人様がハーレムを築いているのが気に食わなかったんだろうねぇ……。いやはや、これは蛇の魔物を司る長として恥ずかしい限りだよ」


「いや、それは別にどうでもいいんだけどな。俺がハーレムを築いているのは今更だし。で?あの連中は俺の好きにしていいのか?」


『本当ならば私が罰を与えるべきなんだろうけど……今回はあいつらの自業自得だからね。今この時を持って敵陣にいる【パライズコブラ】の眷属を解消する。……これであいつらはただの召喚獣さね。あいつらをどうするかはご主人様に一任するよ』


 俺の言葉を聞いたナーガはゴーン陣営にいる【パライズコブラ】の眷属関係を解除した。

 蛇もハーレムやろうが気に食わないんだなぁと変なところに感心しつつも、ナーガに念を押す事を忘れない。


「……俺に一任する。その言葉に嘘偽りはないか?」


『このナーガの命をかけてでも嘘偽りはない事をここに宣言するよ。……ってなんでそんな事を聞いてくるんだい?』


 ナーガは首を傾げて俺を眺めている。

 俺はそんなナーガをみて「言質は取った」と呟いた。

 ソフィアは悪い癖が始まったとばかりに俺を見ているが、それは仕方ないというものだ。

 なぜなら……。


「よし、蛇の魔物を統括しているナーガからの許可も取った!これからは狩りの時間だ!!」


『えぇぇぇぇぇぇぇ!!?』


 俺の雄叫びにナーガは想像もつかないようなかわいらしい悲鳴をあげる。

 なんでその判断になったのかわかっていないようだが……そんなことは些細なことだ。

 そんなナーガを見たソフィアは優しい表情を浮かべてその方をポンと叩く。


[……ナーガ。旭が珍味に興味があるのは知っているでしょう?あそこにいる【パライズコブラ】はもはやただの召喚獣。……私の言いたいことはもうわかりましたね?]


『……え?まさか本当に……?だって私は蛇の魔物の管理統括だよ……?流石のご主人様でもそれは……』


[諦めなさい……。あのキラキラした表情を浮かべたマスターを見て……今更やっぱりなしと言えますか?……しかも旭は「言質を取った」と言いましたよ?]


『……ご主人様!せめて……せめて私の目の前で同族を食べるのはやめてくれぇぇぇ!!!』


 ソフィアの言葉を聞いたナーガは大粒の涙を浮かべて俺の腰に抱きついてきた。

 眷属の関係を解消したとは言えども同族が目の前で食べられるのは見ていられなかったのだと思う。

 流石にナーガの目の前で食べるつもりはなかったのだが……。

 精々内臓を取り除いて骨抜きするだけで。


『お願いだから!!何でもするからぁぁぁぁぁ!!!』


「いや、別に間に合ってるから。というか、その大きな胸を俺の下半身に押し当てないでくれないか?ソフィアが怖いから」


「旭様……それは流石に反感を買いますよ?主に私の」


「反感買ってもいいけど、その場合は裏切りとみなして殺すぞ?」


「すみませんでした!!」


 キャラが崩壊したナーガに抱きつかれる俺とその俺を殺意のこもった目で見てくるソフィア、羨ましいと言いながらも土下座で命乞いをしてくるガフス。

 ……敵の拠点に近いところにいるのに、ここだけ別の意味で地獄絵図となっていた。

 遠くに見えている召喚獣達もどうすればいいのか迷っているように見える。


ーーーーそれから30分後ーーーー


「……【マルチロック】を展開。ターゲットは【パライズコブラ】と【バーニングベア】。ソフィア、調整は頼んだからな?」


 ーーーー[わかっておりますとも。マスターの攻撃魔法に【無限収納】への収納効果を付与。付与するにあたり、他の者が触れても発動ないしハッキングされないようにロックをかけます。それと同時に対象に【魔力剥奪】を発動……All clear。マスター、いつでもいけます]


「よし、それじゃあ……いくとしようか。……【自動散乱光】!!」


 そこには【パライズコブラ】と【バーニングベア】を対象にして攻撃を開始する俺の姿があった。

 ソフィアはすでに俺の体内に戻っており、【パライズコブラ】と【バーニングベア】以外を攻撃対象にしないための調整を行なっている。


『やめろ!また俺の召喚獣を奪っていくつもりか!?』


「いや、食べられる召喚獣を選んだお前が悪い。俺の悪食をなめるなよ?お前は情報収集能力がなさすぎだ。少し調べれば俺がウダルの街で虫を食べていたことくらいすぐにわかるだろうに」


 どこからか聞こえてきたゴーンの叫び声を軽くスルーした俺はコブラと熊肉を回収していく。

 コブラは死ぬ前に内臓を別途保管しているから、この戦いが終わったら生き血を飲んでみるとしよう。

 俺は戦いが終わった後の密かな楽しみに心を踊らせながら、食材確保のために魔法を連打するのだった。

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