第133話 旭vs『強羅居組』の組長

「おー、ようやくここまで来れたか〜」


 俺はのんびりと呟きながらゆっくりと歩いていく。

 ちなみに今の俺はホクホク顔だ。

 ナーガに眷属を解消された【パライズコブラ】とジビエ肉としても有名な【バーニングベア】をそれはもう大量に仕入れることができたから。

 これでしばらくは滋養強壮剤に困ることはない。


「旭様、お待ちください!ゴーンが何か罠を張っているかもしれません!」


 そんな俺の後ろをガフスが慌てて追いかけてくる。

 ガフスの声を聞いた俺が足元を見ると、あからさまに不自然な地面があった。

 ……あれは俺がデススネークに命令して設置した神経毒の罠だよな?

 それにしては効果が弱そうだけど……。


「ソフィア、あの罠はデススネークが作ったものなのか?それにしては感じられる魔力が弱いんだが……」


 ーーーー[いえ、あれは【パライズコブラ】が設置した罠ですね。デススネークのものよりも2段階くらい神経毒の強さは劣ります]


「だよなぁ……。じゃあ、無視してもいいか。ガフス、俺が罠を解除していくから俺の前に出るなよ?」


 俺の質問にソフィアが答える。

 やはりあれは【パライズコブラ】が設置したものだったのか。

 だとすると俺には効かない可能性が高いなと思い、ガフスが引っかからないようにわざと罠を踏んで解除していく。


「え……えぇ……。あの罠ってゴーンが『これを突破できる人間はいない!』と豪語していたものですよ……?それなのに旭様には全く効いていないとか……可哀想」


『う、うるさいわ!!』


 罠を気にせず歩いていく俺の後ろ姿を見たガフスは、驚きながらもゴーンを嘲笑している。

 それを見かねたゴーンは近くを見張らせているらしいネズミを経由してガフスにつっこんできた。

 ……というか、普通に会話に混ざってくるなよ……。

 これからお前の命を狩り取りに行くというのに……緊張感に欠けるなぁ、おい。


「あ、旭様。着きましたよ。ここが『強羅居組』の拠点です」


 ゴーンが呼び出した召喚獣が牽制してくる中、ガフスが後ろから目的地に着いたことを報告してきた。

 ……さっきよりも数が増えていないか?

 どれだけの魔力量を保有していたのか……いや、違うな。

 魔力回復薬をたくさん持ってきていたに違いない。


 ▼


「まさかここまで無傷でくるとはな……」


 一際大きな【キマイラ】の肩に乗ったゴーンが俺の方を見て忌々しげにそう呟いた。

 その顔は青白く、戦う前なのに相当疲れた顔をしている。

 ゴーンの後ろで美女が体を支えていることからよほど体力が残っていないのだと思われる。


「いや、あの程度なら問題はないんだよなぁ。というか、なんでお前はそんなに青白い顔をしているんだ?そんな有様でよくもまぁ俺からレーナとリーアを寝取ろうとしたな」


 俺は殺気を放ちつつ、未だに青白い顔をしているゴーンに尋ねた。

 後ろの美女達はどれもグラマラスな体型をしており、ゴーンの趣味が伺える。

 なんでこんな美人達を侍らせておいてレーナを狙ったんだか。

 だが、俺の質問に答えたのはゴーンではなく、後ろから呆れた声をあげるガフスだった。


「旭様、あの状態は魔力中毒です。魔力欠乏を起こした後、大量の魔力回復薬を摂取することであの豚のような状態になります。……旭様は魔力欠乏にすらなっていませんでしたが。要するに、ゴーンはかなりの召喚獣を呼び出し、魔力がなくなったら薬を大量に飲んでいた……ということですね」


「なんだそれ、ただの自業自得じゃねぇか。やはり【狂愛】の魔力自動回復がない人間はダメだな」


 ーーーー[旭、【狂愛】は普通の人間は獲得できません。私達がおかしいだけですよ]


 俺はガフスの説明を聞いてがっくしと肩を落とした。

 ゴーンのあの状態は俺をどうにかするために召喚し続けた成れの果てだったのだから。

 そんな俺のボヤきにソフィアが冷静に突っ込んでいるが……。

 俺だけじゃなくて俺と表現していることから、最初の頃よりも感情表現が豊かになったんじゃないだろうか。


「どいつもこいつも黙って聞いていればおちょくりやがって……!だが、これでお前も終わりだな!たしかに俺は魔力中毒に陥るまで召喚を続けた。その結果、この付近には一万を超える召喚獣が召喚されている!種族も満遍なく揃えたから陸空と油断はない!ここがお前の墓場となるのだ!そして、お前を殺した後にお前の女を全員犯してやる!」


 ガフスの言葉を聞いたゴーンは俺に逆ギレしてきた。

 あんな状態になってもまだ俺の女を奪うつもりでいるらしい。

 ……やっぱりあいつはこの場で殺さないとダメだな。


「そうかそうか……。そんなに俺に殺されたいということだな?」


 ーーーー[旭の魔力上昇を確認。それに伴い【マルチロック】を起動します。対象は『強羅居組』の拠点から離れた場所で待機している召喚獣。……ターゲットロック完了しました。続いて、【翡翠の鎧】を展開します…………]


 俺の呟きに応じたソフィアが攻撃の準備を開始した。

 今の俺の視界にはターゲットロックされた敵がマーカーとして表示されている。

 だが、それは俺の視界を阻害するものではなく、別ウインドウとして表示されていた。

 この部分だけ見たらVRゲームをやっているかのような感覚に陥る。


 ーーーー[旭、準備が整いました。いつでも敵を迎撃できます。どうしますか?今であれば『大和』とリンクしているので【三連想ショックカノン】での迎撃も可能ですが]


「んー……?俺の魔法で問題ないだろ。魔法の選別はソフィアに一任する」


 ーーーー[『大和』での攻撃は拒否したのに、魔法を選ぶのは私なんですね。まぁ、分かっていましたけれども。では、恐怖を植え付けるためにも【魔神王の洗礼】を使用しましょう。今回は私のサポートもありますし、使用してもデメリットは発生しないので安心してください]


「やっぱりソフィアがいるとデメリットは発生しないんだな。……じゃあ、それでいくとしようか」


「おい!何を一人でブツブツと呟いていやがる!ついに頭がイカれちまったか!?もしそうならさっさと俺に殺されろ!」


 俺がソフィアと攻撃に使用する魔法の相談をしていると、美女の胸に顔を預けたゴーンが俺に向かって叫んできた。

 うわぁ……。

 敵が目の前にいるのに美女の胸やお尻を揉みしだいているよ……。

 女性達もゴーンが好きなわけではないのか、その瞳には涙が浮かんでいる。


「……お前はその女性達を金で誘拐するなり買収したりしてきたんだろうな。愛なんて微塵にも感じない」


「俺にとって女は俺の欲望を満たすための道具だ!俺の道具を俺が好きにして何がわr「……もういい、黙れ」……な?!」


 ゴーンのセリフを遮って【キマイラ】に載っているゴーンを睨みつけた。

 あいつはダマスク以上に人間のクズだ。

 女は男の欲望を満たすための道具……?そんなわけねぇだろうが!

 女性を物としてみれない人間の言葉をこれ以上聞く必要はない。


「……さっさと召喚獣を減らす作業をするとしよう。……この魔法を見て誰を敵に回したのか後悔するがいい。……至高神霊魔法【魔神王の洗礼】」


「し、至高神霊魔法だぁ!?そんな魔法聞いたことねぇよ!実在しないもので脅そうといっても意味はな……ナァァァァァァァァ!?」


 俺が放った【魔神王の洗礼】は一筋の光となって空中に登っていった。

 それを見たゴーンがバカにしたような言葉を言いかけるが、上空の雲を引き裂くような魔法が落ちてくるのを見て悲鳴をあげる。

 真っ赤な光の竜巻は細い赤い光となって、【マルチロック】でターゲットした敵に飛来していく。


 ーーーーギャァァァァァァァァ!!!


『強羅居組』の拠点から離れたところにいる召喚獣達の断末魔が響き渡る。

 召喚獣達は盾を持っているタンク役の後ろに隠れるが、俺の魔法がその程度の盾に負けるはずもなく。

 当たった瞬間に盾を貫き、後ろに隠れた召喚獣をまとめて送還していく。


「な……なんだよ……。なんなんだよ、この威力は!!普通の人間がこんな威力の魔法を全範囲に放つことができるわけないだろうが!」


 俺の攻撃を見たゴーンは【キマイラ】の肩の上で喚き散らしている。

 そんな中でも美女達の身体をまさぐるのをやめないのは……どうかと思うんだがな。

 ゴーンが呼び出した召喚獣は数十分ほどで半壊した。

 拠点を守っている召喚獣はガクガクと震えている。


「……ふぅ、こんなもんか?【魔神王の洗礼】を使ってもデメリットが発生しないのは素晴らしい……!」


 ターゲットロックされた召喚獣は【魔神王の洗礼】の光が少し触れただけで送還されていった。

 ダスクの時と比較して強力な召喚獣だったから忘れていたのだが、ゴーンがダスクから買った神器は『魔力に応じて低階級の召喚獣を呼び出す巻物』だった。

 これなら【太陽光照射】の神格付与版でも問題なかったかもしれない。


「旭様……あの魔法は一体……!?あんな魔法過去の文献に残っていませんでしたよ!?」


「ん?あれは神格が付与されたことで発動できる俺の必殺技の一つだよ。まぁ、あれを耐えるのは俺かソフィアの魔法でないとダメだと思うけど」


「……ということは実質誰も防ぐことができない最強の矛ということですね……?味方になれてよかった……」


 ガフスは小さく安堵のため息をついた。

 それはいいんだけど、今の俺は聴覚も強化されているからばっちし聞こえている。

 俺は聞こえていないだろうと思ってブツブツ言っているガフスに同情の視線を送った。

 まぁ、裏切らない限りは攻撃しないでおくとしよう。


「さて、これで誰を敵に回したのか理解していただけたと思う。……どうだ?先ほどまでの発言を取り消すなら命だけは助けてやるぞ?」


「は……ハッ!たしかにお前の力は底なしだ!だがな、それだって弱点があるはずだ!それを暴けば俺の勝ちは揺るがない!お前の負けはもう確定しt……」


「「「「「キャーーーーーーー!!!!」」」」」


 ゴーンの言葉の途中でその首が美女達の膝の上に落ちた。

 ちなみに俺ではない。

 最後の捨てゼリフを聞いてから殺そうと思ったから。


 では、誰がゴーンの首を落としたのか。

 その犯人は俺の横からスッと姿を現した。


「……ごめんなさい旭さん。あいつの言葉に居ても立っても居られず、【神剣】でトドメを刺してしまいました」


 何もない空間から現れたのはルミアだった。

 その手には、血のついた【神剣】が握られており、ルミアは汚らわしいものを払うかのように血を振り払っている。

 謝ってはいるが自分がしたことは間違いではないと思っているようだった。


「殺すのが先になるか後になるかの問題だからそれはいいんだけどさ……」


「……ですよね!これ以上あの汚い豚の言葉は聞きたくありませんでしたし!」


 俺の言葉に目をキラキラさせて上目遣いで見つめてくるルミア。

 その尻尾はブンブンと振られており、褒めて褒めてとせがんでいるかのようだ。

 だが、俺は大きく息を吸ってルミアを抱きしめる。


「だけど、レーナとリーアを俺から寝取ろうとしているやつの目の前に現れたら危ないだろうが!……なんともなくてよかった……」


「旭さん……心配かけてごめんなさい……」


 俺に抱きしめられたルミアは、尻尾をシューンとさせて俺を抱きしめ返してきた。

 心配かけたことを反省しているのかもしれない。


「ゴーンのやつ……かなりあっさりと殺されてしまいましたね……」


 俺とルミアの後ろではガフスが死んだことで美女達に足蹴にされているゴーンを眺めていた。

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