第106話 ダスク冒険者ギルドによる緊急会議
ーーーー[ギルドマスター視点]ーーーー
それが起こったのは深夜の3時過ぎのことだった。
ウダルの冒険者ギルドに通告を出してから3日。
そろそろウダルの街についた頃だろうか……と俺は考えながら書類仕事をしていた時のことだ。
俺が筆を動かす音以外は沈黙が支配する空間。
その沈黙はドアを蹴破る勢いで入ってきた受付嬢によって崩壊した。
かなり慌てた様子だが……なにかあったのだろうか。
「ぎ、ギルドマスター!!大変です!き……騎士様がどこからともなく現れました!!」
「なんだと!?わかった、今すぐに向かう!」
……騎士がどこからともなく現れた……?
一体どういうことなんだ……!?
俺は頭の中で疑問を投げかけながら、急いで冒険者ギルドの1階に向かった。
「騎士がいきなり現れたと聞いたが、一体何があったんだ!?」
息を切らしながらやってきた1階では……ダスクに向かわせた騎士達が床に座りこんでいた。
慌てて周りをキョロキョロする者、憤りを感じて叫んでいる者……。
一人一人の反応は違うが、みんな一様に驚きを隠しきれていないようだ。
「落ち着いてくれ!!落ち着いて何があったか報告するんだ!!」
ーーーーウワァァァァァァッ!!
俺が騎士達に話を聞こうとした瞬間。
天井の空間が歪曲し……そこからドサドサと冒険者達が落・ち・て・きた。
これは……伝説の転移魔法か!?
誰がこんな事を……って1人しかいないよなぁ!?
「ウォォォォ!?う、動けん!!おい、冒険者達よ!!すぐに我らの上からどいてくれ!!」
「ん……?ここは……冒険者ギルドか……!?って、うぉ!?騎士様達が下敷きになっているじゃねぇか!お前ら、早く降りるぞ!!」
騎士の上に落着したことに気づいた冒険者達は急いで降り始めた。
冒険者が落ちてきたことで気絶してしまった騎士もいるようだが……怪我はないようだ。
そんな中、1人の女性が立ち上がった。
「……あたたた……。くそぅ、あーちゃんめ……。恐慌状態になっている間に転移魔法を使うなんて……。いや、怪我した人がいないからまだよかったのかも……?」
立ち上がった女性は笹原丹奈だった。
ニナのパーティメンバーは全員絶望しているらしく、動けないらしい。
俺は急いでニナに近づいて安否を確認する。
「ニナ!大丈夫か!?」
「あー……アーガスさん。一応、私は大丈夫。それよりもこの場を納めなくてもいいの?」
「そうだった!おい、手の空いている者は怪我人がいないかの確認を行ってくれ!それと、騎士隊長は貴族様に連絡を!明日の朝、緊急作戦会議を行う!」
ニナに促された俺はすぐさま周りに指示を出した。
……ルミアが旭について行ってから俺の仕事は増える一方だ。
早くダスクの冒険者ギルドに戻ってきてもらわないといけない。
「……王都の冒険者ギルドが認めたらしいが、これはダスクの冒険者ギルドの問題だ。他の街で退職届を出したとして、そんなのをいちいち受理していたら冒険者ギルドが成り立たなくなってしまう」
休暇届を叩きつけられた時点で嫌な予感はしていたが……まさか当たってしまうとは思わなかったが……。
俺は未だに慌ただしい冒険者ギルドを眺めながらそんな事を考えるのであった。
▼
「……貴族の皆様方、朝早くからお集まりいただきありがとうございます」
騎士と冒険者達が転移されてきてから数時間がたった明朝。
俺は厳かに挨拶を述べた。
集まっているのは冒険者ギルドの職員と、貴族、それに冒険者のリーダーと騎士隊長だ。
「ギルドマスター。騎士隊長からは転移魔法を使用されたとの報告があったが……本当かね?」
「えぇ、冒険者達が騎士達の下に落ちてくる瞬間、天井の空間が歪曲したのを確認しています。私も書類で確認した程度の知識ですが、あれは転移魔法で間違い無いでしょう」
俺が貴族からの質問に対して間髪を容れずに答えると、会議室が大きくざわめき始めた。
「……まさか転移魔法を使える人間が現れるとは……!」
「あの魔法は昔の勇者が使ったのが最後では無いのか!?」
「……もしどこにでも転移ができるのであれば……早めに対策を取らないとここも危ないのでは……!?」
「たしか転移魔法を阻害する魔道具がダスクの役所にあったはずだ!」
「皆さん、落ち着いてください!転移魔法を阻害する魔道具との言葉が出ましたが……そんな代物が存在するのですか?」
俺は1人の貴族が言った魔道具に興味を示した。
転移魔法はその存在自体が伝説のはず。
……それなのに転移を阻害する魔道具がある?
矛盾しているような気がするのは俺だけか……?
「あぁ、各街には転移魔法を阻害する魔道具が受け継がれている。初代勇者が亡くなった後に、女神様が各街の代表に配ったそうだ。なんでも転移魔法を悪用する者が現れた時に使用するように……とのことらしい」
「なるほど……。そんな歴史があったのですか。しかし、そうなると役所からの手続きが面倒そうですね……」
貴族の言葉を聞いた俺は、転移魔法阻害の魔道具の存在については理解した。
理解はしたが、それを用いるとなると面倒な手続きが発生しそうだ。
しかも管理しているのは役所だというのだから尚更だろう。
「それについては問題なかろうよ。此度の件はダスク全体で動き始めている。役所のお堅い人間共も面倒な手間は省いてくれるはずだ」
「そうだな。ギルドマスターから要請があった時に役所にも協力を要請しておいてよかったわい」
……どうやらすでに根回しは終わっているらしい。
事態が大きくなってしまったような気もするが、ダスク冒険者ギルドの存続に関わるから仕方ないと割り切ることにする。
この街は書類仕事が苦手な人間が多いから、ルミアの存在があるか無いかで大きく作用されるのだ。
「ちなみに、その魔道具を拝借するのにどれだけの時間がかかりますか?」
「そうだのう……。最短でも4日といったところか。響谷旭が好戦的な人間だとしたら危ないかもしれないが……」
「それについては大丈夫だと思うぜ……いや思います。響谷旭は『次に襲ってきたら全力で抵抗する』と言っていた……ました。向こうからすぐに動いてくることはないとおもうぜ……います」
貴族の言葉に対して、冒険者のリーダーが下手な敬語で補足の説明を行った。
……本来なら無礼者!とか言われそうだが、この場にいる限りは貴族であろうと冒険者であろうと立場は対等だ。
それを貴族も理解しているので怒り出すことなく、冒険者の発言について真剣に考えている。
「ふむ……それなら本日中に申請を出すとしよう。あの魔道具は設置型だから使用する分には問題ないはずだ。魔道具で転移阻害空間をダスクに展開後、軍を再編成し直すのがベストだろう」
「そうですね……。では、冒険者ギルドもそれに合わせて動くようにします。……騎士達の人員はどこまでなら増員できますか?」
今回のダスクへの遠征では騎士も含めて500人の軍隊で向かったが、なす術なく送還されてしまった。
もしかしたらこの人数では足りないのかもしれない……そう思ったが故の発言だった。
俺の言葉に貴族達はジロリと俺を睨む。
「……今回の遠征でもかなりの人数がいたと思うが……それでも足りないと……?」
「たった一介の冒険者にそれ以上の人員を割く理由があるのかね?」
「響谷旭は史上初のSSランクの冒険者とのことだが……500人もいれば問題ないのではないのか?」
貴族達は好き勝手なことを言っているが……正直旭の戦闘力を舐めていると言えるだろう。
俺は立ち上がって貴族達を逆に睨みつけた。
「その500人が攻撃をすることもできずに一斉に転移されたのです!それに……旭には召喚魔法があります。ダマスクの組織を壊滅させた時に召喚した眷属は総勢400体。強化された今ならそれ以上召喚できるでしょう。それに彼の仲間であるエルフ2人もかなりの実力者です。人海戦術で押し切るなら、500人では足りないと思われます!」
俺の言葉を聞いた貴族達は顔を青くした。
ダマスクの組織を壊滅させたのは知っていたようだが、その時に召喚した眷属の数は知らなかったようだ。
本来なら冒険者達の人員も増員させたいところだが……。
朝からニナのパーティと一部の冒険者が旭と敵対するのはやめたほうがいいと演説しているので、増加は見込めそうにない。
それならば、Aランク相当の騎士を増員したほうがいいのではないかと思ったのだ。
「ギルドマスターの言葉も一理あるな。よし、わかった。騎士の増員も同時に進めるとしよう。ここにいない貴族にも働きかければ倍以上の人数は確保できるはずだ」
「……お手数をおかけしますが、よろしくお願いします。では……これにて緊急会議を終了する!」
貴族からの言質も取ったところで俺は会議を終了させた。
俺もできることをしなくては。
冒険者のリーダーと騎士隊長にギルドマスター室にきてもらうように伝えて、会議室を後にするのだった。
▼
緊急会議を行ってから3日後。
転移阻害の効果がある魔道具を無事に設置した俺は、日課の業務をこなしていた。
貴族達が役所に協力を要請したことにより、1日早く魔道具拝借の許可が出た。
ダスクの街1つ分の効果範囲があるらしく、ダスクの街は転移が不可能な空間になった。
これによって転移による奇襲の可能性はなくなったと思われる。
また、貴族が言っていた通り騎士達の人員も増加された。
300人いた騎士は貴族や役所が力を合わせた結果、2000人もの人数が今回の作戦に駆り出されることになった。
冒険者は変わらず250人ほどだが、依頼成功報酬をつけたところモチベーションが上昇したので、問題はないとだろう。
そんな中、ニナ達[マスターガーディアン]は苦渋の表情を浮かべていたのが気になったが……。
作戦には参加してくれるらしいので、ただ単に元カレである旭と戦いたくないだけじゃないだろうか。
「ダマスクが経営していた商会の力を借りることができないのが痛かったな……。あそこの男達は旭に対してトラウマがあるみたいだしなぁ……。いれば強力な戦力になったのにもったいない……」
俺はこの数日間で戦力に加わってくれそうなところに出向いていた。
元ダマスク商会もその1つだ。
しかし、そこの男達は全員が頑なに協力を拒否した。
『兄さんに敵対しろだと!?そんなことしたら今度こそ殺されちまうじゃねぇか!!俺達は絶対に協力しないからな!』
『お前達は兄さんの本当の実力を知らないからそんなバカな真似ができるんだ!』
……と、散々に罵られた。
いや、俺だって旭の実力は知っているさ。
だが、それでもやらねばならないときもあるんだよ。
「あー……嫌なことを思い出した。……そろそろ軍の再編成のために会議を開いたほうがいいか……?」
ーーーーバタンッ!!
「ギルドマスター……!!大変です……!!」
そう考えていると、前みたいにドアを蹴破って受付嬢が入ってきた。
「おいおい……このドア昨日直ったばかりなんだが……。で、今度はどうした」
「それについては申し訳ありませんが、ギルドマスターがもっと頑丈に直さなかったのが悪いと思います。……って、そんなことはどうでもいいんですよ!!ダスクの外に軍勢を確認しました!!」
ギルドマスター室のドアを直したのは俺じゃないのに俺が悪いのか……。
それよりもダスクの外に軍勢!?
まさか……旭が仕掛けてきたのか!?
「わかった!!今すぐに向かう!お前は貴族様に連絡をしてきてくれ!最悪……戦闘になるぞ!!」
「わかりました!!」
俺は1階に降り、冒険者達に大きな声で叫んだ。
「冒険者の諸君!ダスクの外に旭の軍勢と思われる集団を確認したらしい!この街の防衛任務をここに宣言する!俺に続け!」
「「「「オォォォォォォォォォォォ!!」」」」
「……ねぇ、レンジ。正直かなり行きたくないんだけど……行かなきゃダメ?」
「ニナ……諦めろ。……俺達だけは殺さないように説得するしかないさ……」
ニナ達は渋々ついてきたが……いくらなんでもネガティブ過ぎないか?
俺はそんなニナ達を横目に軍勢がやってきているらしい場所まで向かった。
ダスクの門に辿り着き、その視線の先にあった光景は……。
「おい……なんだよ……あれは……!!」
そこには巨人化したゼウスを筆頭にハイエンジェルが多数、書籍でも伝説としか書かれていない四神、その後ろにはおどろおどろしい見た目の存在が大量に蠢いていた。
そして……その空中にはどうやって浮かんでいるのかわからない質量の軍艦が浮かんでいる。
そんな軍艦から1人の人間が出てきた。
……高身長に眼鏡、スーツ姿……。
間違いない、響谷旭本人だろう。
『デススネーク隊に告ぐ!【保護色】を解除し、こちらの軍勢に合流せよ!!』
「デススネークだと……まさか!?」
旭の言葉を受けて、ダスクの街から3mはある巨大な蛇が大量に現れた。
その数は……200匹以上はいるだろう。
「……まさかデススネークはスパイとしてこちらに潜入していた……?しかも探知魔法ですら感知できない!?もしかして……冒険者が転移されてきたときにはもう……!?」
もしそうだとしたら、会議の内容もその後の行動も全て向こうに筒抜けだったことになる。
それに合わせて動いたのだとしたら……タイミングがいいのも理解できる。
「……クソッ!まさかあんな大群でくるなんてな……!!」
俺は歯軋りをしながら、旭達の軍勢を睨みつけるのであった。
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