第107話 旭は行軍の準備を行う

『おい……なんだよ……あれは……』


 モニターには俺が編成した軍を見て、絶望の声を上げるダスクのギルドマスターが映っている。

 ここは俺が【クリエイト】した空中戦艦『大和』の艦内。

 俺達は準備を整えてから軍隊を編成し、ダスクの街にやってきた。

 どうしてこのようなことになったのか……。

 時はウダル冒険者ギルドの職員が、俺の家に訪問してきたところまで遡る……。


 ▼


「すみません!!響谷旭殿はいらっしゃいますか!?」


 そんな声が聞こえてきたのは夕方のことだった。

 インターホンのモニターを見ると、冒険者ギルドの職員らしき人物が立っていた。


「ギルドマスターは夜までには職員を向かわせると言っていたが……。もう王都から連絡が来たのか?ちょっと話を聞いてくるとするか……。リーア、ルミア。夕飯の支度の続きは任せてもいいか?」


「はーい。後は簡単な作業だけだから任せてっ!」


「リーアさんの言う通りです。後は盛り付けや片付けだけですし、旭さんは職員の相手に専念してきてください」


 リーアとルミアは料理しながら俺に返事を返した。

 俺は2人の言葉に甘えることにして、エプロンを外し転移で玄関に向かった。


「待たせてすまない。ギルマスからは夜までにとのことだったが、もう王都から返事が来たのか?」


「……ひゃわ!?い、いきなり転移で現れないでくださいよ……。えっと、ギルドマスターからは『返事が来たから、すぐに旭君を呼んできてくれ』と言われました。今、お時間は大丈夫でかか?」


 ふむ……、内容は自分の口から伝えたいと言うことなのだろうか?

 ソフィアに念話で出かけてもいいか確認しておくとしよう。


(ソフィア、ギルドマスターから呼び出しがあった。もうじき夕飯時だが、今から冒険者ギルドに行ってきてもいいか?)


([えぇ、それは問題ありません。旭、私も同行してもいいですか?……すみません、訂正します。私とレーナもご一緒してもいいですか?])


 どうやらレーナも一緒に行きたいみたいだ。

 人数が増えることについては問題はない。

 ユミも1人で遊べるようになったし、家にはリーアとルミアが留守番してるから大丈夫だろう。


(了解した。じゃあ、レーナを連れて玄関まできてくれ)


[旭、命令通り玄関にやってきました]


「パパ〜、おまたせ〜」


「早いな。さては準備していたな……?」


 ソフィアに念話を送った瞬間、ソフィアとレーナの姿が玄関に現れた。

 どうやら俺と同じで転移で玄関まで来たようだ。

 念話している時点で一緒にいた可能性が高かったから、当然といえば当然かもしれないが。


「……響谷家は転移で家の中を移動するのが日常なのでしょうか……。と、とにかくすぐに冒険者ギルドに向かいましょう!……え?」


 呆然と俺達を見ていた職員は、ハッとした顔になると急いで冒険者ギルドに向かおうと促そうとした。

 だが、言葉の最後に拍子抜けした表情を浮かべる。


「……え?ここは……冒険者ギルド?旭さん、転移魔法の詠唱とかしたのですか……?」


「ん?そろそろ夕飯時なのに歩いて行ったら帰りが遅くなるだろう?許可を取らなかったのは申し訳ないが、【長距離転移】を無詠唱で使わせてもらった」


 冒険者ギルドの座標軸は、わざわざ設定しなくてもいいようにブックマークしてある。

 だから心の中で魔法名を唱えるだけで発動できた……というわけだ。


「じゃあ、俺達はギルドマスターのところに向かうわ。報告ありがとな」


 俺はまだ呆然としている職員にお礼を言って、ギルドマスター室に向かった。


 ▼


「ギルドマスター、いるかー?連絡を受けてやってきたんだがー」


『おぉ、旭君か!入ってくれ!」


 ギルドマスターからの入室許可を得た俺達は部屋の中に入った。

 そこには慌ただしく書類を片付けているギルドマスターの姿があった。

 どうやら仕事がまだ終わっていなかったようだ。


「旭君、こんなドタバタしていて申し訳ないね。それにしても早かったな。つい数十分前に職員を送ったと思ったんだが」


「あぁ、夕飯に遅れるとリーア達に悪いからな。職員が来た瞬間に【長距離転移】を使用させてもらったんだよ」


 ドタバタと書類を片付けていたギルドマスターは、俺の言葉に呆れたような表情を浮かべた。

 ……そんなに呆れるようなことか?


「伝説の転移魔法をそんなことで使うのは旭君くらいだろうな。さて、王都冒険者ギルドからの返事についてだが……」


「っと、ちょっと待ってくれギルドマスター。……【遅延空間】」


 ギルドマスターが説明しようとしたのを遮って、俺は【遅延空間】を発動させた。

 ……話が長くなる気がしたからな。

 リーアとルミアの3人で作った夕飯を食べる時間が少しでも遅くなるのは避けたいんだよね。


「……なるほど。【遅延空間】の中なら時間を気にしなくて済む……ということか」


 ギルドマスターは【遅延空間】を展開した理由に納得した後、咳払いを1つして説明を開始した。


「ゴホン。王都の冒険者ギルドからの返事が来た。本部としては大ごとにしたくはないようだったが……。先に仕掛けてきたのが向こうだからな、旭君の提案はすんなり通った。……なるべく死傷者を出さないでくれと懇願されたが」


「まぁ、向こうから手出ししてこない限りは攻撃するつもりはないけどな。……それで編成についてだが……ん?」


(主……遅れながら報告させていただきます)


 王都冒険者ギルドとしては死傷者が出るのは避けたいところらしい。

 まぁ、やろうと思えば街の壊滅すらできるのだから当然といえば当然と言えるだろう。

 俺がどういう編成でダスクの街に向かうかを話し合おうとしたところ、偵察しているデススネークから連絡が入った。


「ギルドマスター、話は少し待ってくれないか。偵察に出したデススネークから連絡があった」


「ん?何か動きがあったということかい?そちらを優先してくれて構わないぞ」


 俺はギルドマスターに一言伝えてから念話に集中する。

 ダスクの街で何か動きでもあったのだろうか?


(デススネーク隊か。何か動きでもあったのか?)


(えぇ、朝に行なっていた会議の件について追加の補足をと思いまして。報告が遅くなってしまい、申し訳ありません)


(いや、それについては問題ないけど。それで何があったんだ?)


(慈悲深きお言葉ありがとうございます。実は……騎士達の人員が増加しました。今回の件に関わっていなかった貴族達にも声をかけ、総勢2000人もの騎士が作戦に参加するとのことです。ちなみに元ダマスク商会の人間は冒険者ギルドの協力を拒否したとのこと)


 ふむ……騎士の増員か。

 Aランク相当の騎士を増員した方が戦力になると思ったのだろう。

 ダマスク商会の男達が協力を拒否したのは、俺を敵に回したらどうなるかその身で味わったからだと思われる。

 あの時よりは強くなっているが、使用した魔法の情報とかを流されると面倒だった。

 そういう意味では男達の判断は適正なものだったと言えるだろう。


(人員増加の件については把握した。それでも戦力的にはこちらが有利だから問題はないな。こちらも王都冒険者ギルドから返事があった。近いうちにそちらに向かう。それまで引き続き偵察を頼む)


(Sir Yes Sir!!)


 俺はデススネークに指示を出してから念話を終了した。

 また何か動きがあったら報告してくるだろう。


「ギルドマスター、待たせてすまないな。デススネークからの報告は騎士の人員が2000人まで増員されたというものだった」


「貴族が従えている全騎士を投入してきたのか。……まぁ、それでも足りないとは思うが」


 ギルドマスターも俺と同じ意見のようだ。

 ソフィアが50000人は連れてこいとかそんなことを言っていた気がするからな。

 ……そんな数の騎士を徴兵できるとは思えないが……。


「さて、旭君。ダスクの街へ行軍を行うとのことだが……どういう編成にするつもりなんだ?」


「そうだなぁ……ゼウスを筆頭に俺達が召喚できる眷属達で固めようと思ってる。ソフィア、何か意見はあるか?」


 ギルドマスターの問いに自分の考えを伝えつつ、ソフィアにも話題を振る。

 ソフィアは【叡智のサポート】のスキルであり、俺以上にいい戦略を考えてくれるだろうと思ったからだ。


[旭の提案したゼウスを筆頭にするのはいい案かと。それに加えて四方を四神で囲うのはどうですか?四神の【四獣結界】が移動しても有効であればさらに良いのですが。後は……旭が乗り物を創造し、それに乗っていく……というのもありかもしれません]


「四神で四方を囲む……ね。どこから攻撃されても問題ないようにするわけか。さすがはソフィアだな」


 四神を召喚するのは確定事項だったが、四方を囲うというのは思いつかなかった。

 やはりソフィアに相談してみて正解だったな。

 となると……残る問題は1つ。


「そうすると、俺達が搭乗する乗り物をどうするかが問題か……」


「いや、旭君。そこはそんなに問題ではないと思うんだが……。むしろ乗り物は神輿とかでもいいんじゃないか……?」


 ギルドマスターが何か言っているが……神輿なんて威圧感を与えられないだろう!

 威圧感を与えられて且つ乗り物としても機能するもの……。


「はいはい!わたしにいい案があります!」


 どういう形状にするか悩んでいると、レーナが手を挙げた。


「ん?レーナ、何かいい案でも思いついたのか?」


「ふふん、任せてよパパ。あのね……これを創造すればダスクの街にプレッシャーを与えられると思うの!」


 そう言ってレーナは自信満々にスマホの画面を見せてきた。

 そこに映っていたのは……。


「なるほど……。戦艦大和か。これなら確かにプレッシャーをかけることができそうだな」


「でしょでしょ!武器とかはアニメのヤマトを参考にすればいいと思うし!」


 レーナが見せてきたのは戦艦大和だった。

 戦艦大和は大和型戦艦の一番艦であり、日本の戦艦で唯一史上最大の46センチ砲を搭載した戦艦だ。

 あまり活躍されずに米軍からの猛攻撃を受けて撃沈してしまった歴史がある。


「アニメのヤマトの武器を参考にするなら……◯動砲か。よし、考えることが増えてきたな。レーナ、いい意見をありがとうな!」


「えへへへ……。パパに褒められちゃった……!」


[旭、私もいい案を提案したと思うのですが!私は頭を撫でてくれないのですか!?]


 俺はいい意見を出してくれたレーナの頭をグリグリと撫でた。

 それを見たソフィアが自分も撫でて欲しいとばかりに腕に抱きついてくる。

 俺が苦笑いを浮かべながらソフィアの頭も撫でると、とろけた表情を浮かべた。


「旭君、その大和?だというのはよくわからないが……創造できるものなのかい?画面を見た限りだとかなり大きそうだが……」


「ん?あぁ、【神威解放】と【翡翠の鎧】を併用すれば問題はないと思うぞ。空を飛べるようにするために重力魔法も使うし。◯動エンジンは魔力で応用すれば問題ないだろうし。家に帰ったら早速創造するよ」


「そ、そうか……。盗むようなバカはいないと思うが、サイズが大きいのだからイタズラされないようにな?」


「隔離空間に収納しておくから大丈夫さ」


 俺はギルドマスターの質問に間髪を容れずに答えていく。

 俺の言葉を聞くたびにギルドマスターの顔が悟ったようなものになっていったが……。

 今更驚くようなことでもないと思う。


「とりあえず編成については決まったな。ギルドマスター、俺達は明日の明朝にダスクの街へ向かうことにするので、色々とよろしく頼む」


「……了解した。あまり死傷者を出さないでくれよ?」


「まぁ、それは向こう次第かなぁ。向こうが手出しをしてこなければ威嚇射撃だけに抑えておくよ。……【遅延空間】解除。レーナ、ソフィア。家に帰るぞ」


「[はーい]」


「さて、帰ったら忙しくなるぞ。……【長距離転移】」


 俺はレーナとソフィアの手を握って転移魔法を唱え、リーア達が待つ家に帰るのであった。


 ▼


 ここまでが軍隊を編成するまでの経緯だ。

 結果だけいうと、アニメのヤマト以上に強力な戦艦が完成した。

 この武装が展開されることがないことを祈るばかりではあるが。


「デススネーク隊に告ぐ!【保護色】を解除し、こちらの軍勢に合流せよ!!」


 俺は艦橋に出て、偵察に出ていたデススネークを呼び戻した。

 さぁ、これで向こうはどのような対応をしてくるのかが問題だな……。

 俺は戻ってくるデススネークを見ながら、そんなことを考えるのであった。

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