第105話 旭は夜襲の結果を報告する

[旭、座標軸の再固定が完了しました]


 もがき苦しむ男達を眺めていたら、ソフィアから座標軸再固定の報告が入った。

 俺はソフィアの頭を撫でて冒険者達の方に向き直る。


「さて、準備もできた。これからお前達を騎士達と同じ場所に転移させる。できることならダスクのギルドマスターに俺とルミアを狙うのをやめるように報告してくれるとありがたいんだが……」


「そんなの無理に決まっているだろ!?すでに貴族様にも声をかけているし、ダスクの街全体が一丸となって動き始めている!いまさら俺達が何か言ったところでなにも変わらねぇよ!!」


「そうか……それはとても残念だ。だが、お前達に言っておくぞ?一度目は見逃すが、二度目はない。……次に襲ってきたら正当防衛として俺達は全力で抵抗するとここに宣言しよう」


「「「……マジかよ……」」」


「ハッ!それがどうしたって言うんだ!!返り討ちにしてやらぁっ!」


 俺の言葉に丹奈のイケメン達が呆然とした。

 実力がわかっているからこその絶望なんだろう。

 他の冒険者達は実力差を理解していないのか、未だに好戦的な表情をしているが。


(……【遅延空間】発動。【眷属召喚:デススネーク】)


『主……我らデススネーク300匹、ただいま馳せ参じました。……と、今回は【遅延空間】内での召喚ですか……?何か御用命でも?』


「夜遅くに悪いな。これからここにいる冒険者達をダスクの冒険者ギルドに転移させる。その際に冒険者ギルドの様子の偵察を頼みたい。偵察には常に【保護色】を使っておくこと。……それと、向こうには探知魔法を使う冒険者がいるが、それを防ぐ手立てはあるか?」


『探知魔法ですか……。それだと【保護色】だけでは不安がありますね。主の【遮断空間】を纏わせてもらえればなんとかなるやもしれません』


 俺の質問にデススネークは一瞬考えた後にそう答えた。

 なるほど、【遮断空間】を纏う……か。

 そんな使用方法もあったんだな。


「わかった。先に【遮断空間】を付与しておくとしよう。ちなみに今回は偵察だけだ。何があっても攻撃はしないように。……後は騎士と冒険者、貴族以外の人間が被害を被らないよう、冒険者ギルド周辺に近づかないように民衆にそれとなく通告してくれ」


『『『『了解しました!!!』』』』


「では……行動開始だ!!大変な役割だと思うが……俺達がダスクの街に着くまで、諸君の健闘を祈る!!」


『『『『Sir,Yes Sir!!!』』』』


 俺は無言でデススネーク300匹に【遮断空間】を展開した。

 魔法を確認したデススネーク達は【保護色】を使って冒険者達の周りを囲いこむ。

 これで一緒にダスクの冒険者ギルドに転移されるだろう。


「……【遅延空間】解除。じゃあ、ダスクの街で相見えることを楽しみにしているよ。願わくば敵とならんことを……【神:長距離転移】!!」


 俺の魔法が発動した瞬間、残りの冒険者達の姿が消えた。

 転移の瞬間に【狂愛ノ束縛】の効果が解除されていたから、転移された先でも動くことはできるだろう。

 ……ギルドマスターになんとかして敵対しないことを説得してほしいが、叶わない願いなんだろうなぁ……。


「お兄ちゃん、お疲れ様。これからどうするの?」


「ちょ、ちょっとリーア!?この状況で距離が近すぎない!?」


 俺がその場に立ち尽くしていると、リーアが近づいてきた。

 さりげなく俺の腕に抱きついてきて甘えている。

 そんなリーアを見てレーナが嫉妬の声を上げているが……自分が飛べないから羨ましいだけだろう。

 俺は抱きついてきたリーアの頭を撫でる。


「デススネークを送り込んだし、すぐに動くとは思えない。だから明日の昼にでも冒険者ギルドに行って、今後どうするかをギルドマスターと話し合おうと思う。ダスクの冒険者ギルドの思惑はわかったしな」


「あそこの冒険者達も旭さんの強さは知っているはずなんですけどね……。あの時いなかった冒険者達だったのでしょうか?」


 俺の言葉にルミアが首を傾げた。

 そう言われると確かに疑問に思うところがあるな。


「そこら辺はデススネークからの報告を待つしかないな。……何はともあれ、今回の作戦は無事に終了だ。まだみんな眠いだろう?今から家に帰ってゆっくり休むとしよう。……【長距離転移】」


 俺はレーナ達を一箇所に集めて転移の魔法を唱えた。

 特に大変なことをしたと言うわけではないが……無駄に疲れてしまった。

 すぐにダスクの街を出ると言うわけでもないだろうし、明日の昼まではゆっくりしてもいいだろう……。


 ▼


「……と言うことがあったんだ。あ、安心してくれ。ウダルに向かっていた騎士と冒険者総勢500人からなる軍勢は、抵抗させずにダスクに送り返したから」


 改めて睡眠を取った俺達は、ギルドマスターに報告をするためにギルドマスター室に訪れていた。

 もちろん昼飯はちゃんと食べてきたぞ。

 腹が減っては戦はなんとやらと言うしな。


「……死傷者が出なかったのはよかったと言うべきなのだろうが……まさかあの人数を送り返すとは思わなかったぞ……」


[正直、あの人数では旭の敵でもありませんけどね。旭だ・け・を狙うならあの10倍は連れてきてもらわないと]


「ソフィア、余計なことを言わない。……偵察用に送り込んだデススネークからはまだ報告がないから、すぐにまたウダルに向かわせることはないと思う。ウダルのギルドマスターとしてこの一件はどう対処すべきだと思う?」


[…………本当のことですのに……]


 ギルドマスターのぼやきに突っ込むソフィアの頭をポカリと叩いて、ギルドマスターに向き直った。

 俺に頭を叩かれたソフィアはシュンと落ち込んでしまったが……不用意な発言をしてしまったことを反省してくれ。

 ……別に滅多に見れない涙顔をもっと見たいからとかではないぞ?


「ふむ……まさか通達を送ってすぐに軍を率いてくるとは思ってなかった。私としては今すぐに事実を認めて大人しくしてほしいが……聞かないだろうなぁ……」


「本部があるという王都冒険者ギルドが言っても聞かないのか?」


「そう言うと思って昨日のうちに本部に問い合わせはしてある。今回の件は冒険者ギルドの規則に反していない範疇だから強く注意することはできないようだ。ルミア君の退職を認めないことについては異を唱えていたがね……」


 ギルドマスターの言葉からして、冒険者ギルド同士で争うことはルール違反にはならないらしい。

 貴族でいうところの権力争いみたいなものなのだろうか……?

 ……こんなところで冒険者ギルドの闇を知ることになってしまうとは思わなかったわ。


「ん〜……それならさ。パパとわたし達がダスクの冒険者ギルドに攻め入ればいいんじゃない?」


「そうだよね。実力差をわかってない人が多かったみたいだし、ここでお兄ちゃんとの実力差をはっきり分からせたほうがいいんじゃないかなぁ?」


 俺とギルドマスターが話し合っていると、レーナとリーアが意見を出してきた。

 意見というか……攻撃的な提案というべきだろうか。

 まぁ、もとよりダスクに向かうつもりではいたんだが。


「待て待て待て!旭君達がダスクに攻め入ったら街が崩壊してしまうだろう!?」


「うん、崩壊すると思うよ。でも、パパとの実力差がわかっていない人が多いんだから……仕方ないヨネ」


「私自身はあの街にいい思い出はあまりないから、別に崩壊してくれてもいいんだけド。それにその方が手っ取り早くない……?」


 ギルドマスターの慌てたような声に、冷たく言い放つレーナとリーアの2人。

 2人の目からは光が消えていることから、昨日の冒険者達の言動に対してだんだんと腹が立ってきたんだろう。

 俺個人としてはそんなに気にならなかったんだが、ヤンデレの傾向が強い2人は違ったらしい。


「レーナとリーアの気持ちはわかるが、あの街には俺が懇意にしている服屋と何故か俺が代表になっている元ダマスクの商会がある。街を崩壊させるのはなるべく避けたいんだよ」


 俺は苦笑いを浮かべつつ、レーナとリーナにそう説明した。

 あの街は冒険者ギルドこそいい思い出がないが、〈童貞を殺す服〉や〈ミニスカサンタ服〉を取り扱っている服飾屋がある。

 ルミアとソフィア、ユミが仲間に加わった今、3人の服も買い揃えておきたい。


 ……ダマスクの商会はどうでもいいんだが、寝返った男達が商会を盛り返したらしいから邪険に扱うわけにもいかない。

 正直、今さっきそのことを思い出したんだけど。


「「むぅ……。じゃあ、どうするの?」」


「向こうがやったことをこちらもやればいいんじゃないか?最大戦力でダスクの街に向かう。これだけで相手は恐怖を覚えると思うんだけど」


 ふくれっ面をするレーナとリーアに俺は自らの考えを伝える。

 この方法で戦意喪失するなら争わなくても済むし、もし抵抗してきたとしても正当防衛として説明できる……はず。


「……旭君が出せる最大戦力でダスクの街に向かう……!?恐ろしい精神攻撃だが……そこまでしないと向こうも理解しないか……。わかった。王都冒険者ギルドにその作戦を実行していいか確認を取るとしよう。……すまないが、少し時間をもらってもいいかい?夜までには職員を向かわせる」


「了解した。俺達は許可が出た時用に準備を進めておくとする」


 ギルドマスターはすぐに王都へ確認を取ってくれるらしい。

 となると……俺達ができるのは準備くらいだな。

 食材の調達をしっかりしておかなければ。

 その前にデススネーク達に確認を取っておくとしよう。


(デススネーク隊、聞こえるか?)


(はい、ちゃんと聞こえております。どうかされましたか?)


(早ければ明日にでもダスクの街に向かうことになりそうだ。それに伴い、現在のダスク冒険者ギルドの様子が知りたい)


 準備を進めるのはいいが、ダスクの冒険者ギルドが動き出していると途中で鉢合わせることになるからな。

 なるべく情報は収集しておかないと。

 俺の質問にデススネーク達は現状の報告を開始した。


(畏まりました。現在、ダスクの冒険者ギルドではギルドマスターと貴族達による会議が行われております。議題の内容は主の転移魔法に対してどう対処するかどうか。どうやら転移魔法を阻害する魔道具を集めて対処しようとしているようです)


 ふむ……転移魔法を阻害する魔道具か……。

 そんなものがあるとは思わなかったが、今回の作戦では転移を使わない。

 心配するだけ無駄だろう。


(なるほど。それ以外で何か動きはあるか?)


(いえ、それ以外は特に動きはありません。強いて言うなら笹原丹奈とそのパーティメンバーが冒険者達に主の危険性を説いていることでしょうか。女性冒険者と一部の低ランク男冒険者もその活動に参加しているようです。今のところ効果は出ていないみたいですけれども)


 丹奈達は俺の強さを目の当たりにしているから当然かもしれない。

 だが、女冒険者と一部の男冒険者達もその活動に協力しているとは思わなかった。

 憶測に過ぎないが、俺が【勲章をなくす病】を放った連中じゃないかな。

 敵対しないでくれるなら見逃す余地はあるかもしれない。


(了解した。引き続き監視を頼む。何か動きがあったらすぐに連絡してくれ)


(Sir,Yes Sir!!)


 俺はデススネークとの念話を終えた。

 あの様子なら明日ウダルを出発しても問題はないだろう。

 一安心といったところだな。


[旭、念話は終わったようですね。では、帰るとしましょう]


 念話を終えた瞬間、ソフィアが俺の手を引っ張ってきた。

 ソフィアの視線の先にはレーナ達4人が俺の到着を待っている。

 ……このメンバーなら何が起こっても大丈夫……か。


 俺はソフィアに手を引っ張られながらそんなことを考えるのであった。

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