第97話 模擬戦−4試合目 旭vsソフィア−

『先程の試合は凄かったな……。2人とも人間離れした動きをしていたという印象しかない……』


『その感想には同意するが……。あれくらいで驚いていたら、今回の試合の解説は到底出来んぞ?さて、今回のご主人の相手は……ソフィア殿だ。もともとはご主人の固有スキル【叡智のサポート】だった。それが人間の姿に顕現し、ご主人が名前をつけたという経歴があるな。異世界転移してきたご主人がありえない力を使いこなせていたのは、ソフィア殿のサポートがあったからだな。では、お二人に入場してもらうとしよう』


『……ハーデス。なんかすごく真面目に解説していないか……?……あぁ、そういうことか』


『う、うるさいわ!べ、別にソフィア殿が未だに苦手なわけではないからな!?』


 ギルドマスターとハーデスの恒例となりつつある掛け合いを聞きつつ、ソフィアを見る。

 話の引き合いに出されたソフィアは静かにハーデスの方を睨みつけていた。


「ソフィア、大丈夫か?ハーデスの最後の言葉は……色々と思うところがあるだろうけど。ソフィアがいなかったら俺がここまでの力を使いこなせなかったのは事実だ。……本当にありがとう」


[旭……。そんな改まってお礼なんて言わないでください。私は【叡智のサポート】ソフィア。マスターのお役に立てることこそが存在意義なのです。……固有スキルの1つに過ぎない私を愛してくれた旭には、感謝の気持ちしかありませんよ]


 俺はソフィアに軽く口づけをして、今までの感謝の気持ちを伝える。

 いきなりキスをされたソフィアは、顔を赤くしつつも誇らしげに返事を返してくれた。

 ここ最近は感情が豊かになってきた気がする。

 いい傾向だと切実に思う。


「じゃあ……コロシアムに行くとしようか」


[Yes,My Master]


 俺はソフィアの手を取って、コロシアムに向かって歩き始めた。

 力のコントロールを教えてくれたことについては感謝しているが……勝負は別だ。

 最上位の神ですら逆らえないというソフィア……。

 勝てるかどうかは……五分五分といったところだろうな。


 ▼


『さて、旭君もソフィア君も戦闘準備はいいかい?……ハーデス、なんで君はそんなに固まっているんだ』


『いや、別に固まってなどいないぞ!?我はたd[……ハーデス。真面目に解説しなければ……わかりますね?]Yes, Ma'amッ!!』


『……まぁ、これはスルーしておくとしよう。では、模擬戦4試合目を開始する!!』


 ソフィアの一言で直立不動になってしまったハーデスを横目に、ギルドマスターが4試合目の開始を宣言した。


「さて……。先程のキスでソフィアは100%の力を出せるわけだが……どうする?」


[もちろん、本気でいかせていただきますよ?本気を出すに伴い……結界の張り直しを希望します]


「……だな。内側に【魔法攻撃反射】を付与した【聖断】でいいか?」


[えぇ、それで問題ありません]


「[……【聖断】!]」


 俺とソフィアは同じタイミングで、コロシアムの内側に【聖断】を展開した。

 これでこのフィールドは魔法攻撃が反射してくるようになる。

 結界の外に被害を出さないために必要な処置といえよう。


『……2人で【聖断】の重ねがけ……?この行動には一体なんの意味があるんだ……?』


『……ハッ!?……ゴホン。ご主人とソフィア殿は全く同じ力を持っている。その2人が全力で戦えば【聖断】1枚では足りないと思ったのだろう。だが、【魔法攻撃反射】を内側に付与したということは……お互いの魔法が反射するということ。……そんなスリリングな状況で戦うというのか……?』


 ギルドマスターとハーデスは2人揃って疑問の声を上げた。

 ハーデスが解説したことが概ね正解なんだけどね。

 ただ攻撃し合うだけじゃ……観客も物足りないだろうし。


「じゃあ……ソフィア。お手柔らかに頼む。【神威解放】と【翡翠の鎧】、【狂愛】を同時展開」


[ふふふ……。同じ力を所持していても勝てるのだと証明して見せましょう。……マスターが使用したスキルの同調を開始……]


 スキルを展開した俺とソフィアはお互いに緑色に光り始める。

 綺麗な緑色の光の中に禍々しいオーラが混じっている……なんとも奇妙な光景だ。


「[………………]」


 俺とソフィアは微動だにしない。

 最初に攻撃する魔法を考えているのだろう。

 ……しかし、同じ攻撃になるのではないかと俺は予想している。


 ーーーーーパサッ。


「[…………【終焉の極光:拡散型】照射!!!]」


 コロシアムにふと落ちてきた紙を皮切りに、俺とソフィアは空中へ拡散レーザーと化した【終焉の極光】を打ち上げた。

 上空に打ち上げられた【終焉の極光】は【聖断】に反射され……地面に隙間なく降り注がれる。


 ーーードンッ!!


 俺とソフィアはそんなレーザーの雨をかいくぐりながら、お互いに向かって飛び出した。

 武器は己の身体のみ。

 だが、ソフィア相手に獲物はいらないだろう。

 ソフィアも同じように考えているはずだ。


「さすがに強いなぁ、ソフィアァッ!!」


[旭と同じ能力を所持しているのですよ!?舐めないでください、マスターァッ!]


 俺が拳を振るい、それを真正面で受け止めるソフィア。

 そして順番が逆になり……それが繰り返される。

 俺とソフィアは攻防を繰り広げつつ、徐々にその高度を上げていく。


『……なんか先程のルミア君との戦いと似たような感じになってないか?』


『たしかに我らには光の筋しか見えない。しかもその光は大きく弧を描きながら何度もぶつかっている。だが、ギルドマスターよ。先程と似たような感じと言ったな?……実はかなり違う。まず、ご主人もソフィア殿も本気で戦っている。……いうなれば最強同士の対決といったところだな』


『最強同士の対決……か。ある意味でもう二度と見ることができない組み合わせなのかもしれないな』


 ギルドマスターとハーデスが感心したような呆れたような声を上げたが……そんなことはどうでもいい。

 実力が同じだからこそ油断しているとすぐに勝敗がついてしまう。


[……さすがにやりますね。ではこうしましょうか……!【森羅万象】!!!]


 ソフィアはこのままではラチがあかないと考えたようだ。

 玄武が使用していた【森羅万象】を発動させた。

 だが、出現したのは槍のような樹木ではなく……剣のような形をしている。

 その剣のような樹木は10本程度に枝分かれし、ソフィアの周りを漂い始めた。


「……【森羅万象】……?あの技は上空から槍状の樹木を降らせる技じゃなかったのか?」


[甘いですよ、旭。あの技は変幻自在の技。イメージを変えればこのようにすることもできるのです]


「……ってことは、あの形状から放たれるのは……。チッ、ちょーっとやばいかもしれないなぁ……!」


 俺はソフィアの言葉を聞いて1つの攻撃方法が頭の中によぎった。

 もし俺の考えている通りの攻撃が来るのだとしたら……今まで以上に気を張らなければならなくなる。


[……ふふふ。旭は避けきれますか……?さぁ、行くのです!!]


 ソフィアの言葉を受けて、剣状の樹木がランダムに飛び回って俺に攻撃を仕掛けてきた。

 ……やっぱり◯ァン◯ルだったか!!

 あんなに鋭利な物体が体を掠ったらそれだけで大ダメージじゃないか!!


「……クソッ!こんな攻撃を思いつくなんてな!!【マルチロック】!」


 俺はギリギリで回避しつつ、狙いを【森羅万象】に合わせる。

 どうする?どうすればいい?

 木が弱いのは炎だが……ソフィアはその程度の対策は考えているだろう。

 安易に炎系の魔法を放ったら……逆に強化してしまうかもしれない。


 ……ん?

 それなら……いっそのこと無に返してしまえばいいんじゃ……?

 昇華とか崩御とか……?

 そこら辺のワードで何かないかなぁ……。

 この世界に異世界転移してきた時、俺はどうやって魔法を使っていた?

 ……そうだ。じゃないか。


「そうか……この方法ならなんとかなるかもしれない」


[何を思いついたのかは知りませんが……この攻撃から逃れられる術はないですよ!!!]


 ソフィアはさらに激しく◯ァン◯ルを操り始めた。

 くっ、避けるのも少しきつくなってきたぞ……!?

 俺は激しくなる攻撃を避けつつ……ルミアに告げる。


「まぁ、これを見てから判断してくれ。ハァァァァァァ!!!」


 俺は樹木の剣に意識を集中する。

 望む効果は対象の昇華あるいは無力化。

 脳内イメージは具現化し……【森羅万象】を完全に消し去った。


『『は……?はぁぁぁぁぁ!?』』


[……これは一体……]


 ギルドマスターとハーデスの驚愕した叫び声が聞こえてくる。

 どうやらソフィアも驚いているようだ。

 しかし、俺自身どんな魔法が放たれたのかは知らない。


『ハーデス!?旭君が雄叫びを上げたら……ソフィア君の剣が消えたんだが!?』


『えぇい!それは我も見ていたわ!!なんだあの魔法は!?あんな魔法見たことがないぞ!?』


[……旭、先程の魔法はなんですか?魔法の効果を完全に打ち消す魔法なんて……私の知る限りなかったと思うのですが……]


 ギルドマスター達の叫び声をBGMにソフィアが尋ねてきた。

 俺はソフィアの方を向き……ドヤ顔でこう宣言する。


「イメージしただけだからあれがどんな魔法なのかは知らん!!」


[魔法を放った本人が知らないとは……。あぁ、……そういえば旭はイメージだけでも魔法が発動できるんでしたね……。すっかり忘れていましたよ……]


「俺もついさっきまで忘れていたからなぁ。……まさかここまで上手く発動するとは思わなかったが……」


 実際思いついたはいいものの……上手く発動するかどうかは微妙だった。

 あの頃の感覚を思い出せたのは……奇跡に近いだろう。


「さて……これで勝負は仕切り直しだな?下手に武器を召喚しても意味がない。なら……拳で語り合おうじゃないか!!」


[旭、拳で語り合うのは男同士だけじゃないかと。でも……まぁ、そうですね。旭と本気で戦える機会なんてもう二度とこないでしょうし……。この一撃に私の全てを込めます!……受け止めてくださいね?]


 ソフィアはそう言って、残りのバフを全て使用した。

 言葉通り一撃に全てをかけるつもりなのだろう。

 それなら……俺も全力で答えるとしようじゃないか……!


「あぁ、受け止めてやるさ!……全てのバフを展開、強化上限を最大まで引き上げる……!」


 ーーーーゴゴゴゴゴゴゴ。


 俺とソフィアはお互いに現在かけられるバフを最大限まで引き上げる。

 そして……俺とソフィアの拳は魔力がオーラとなって溢れ始めた。

 おそらく……同じ魔法を拳に集中させていることだろう。

 魔力の濃度が濃すぎて地面が悲鳴を上げているが……あとで直せば問題ない。


「[…………【魔神王の洗礼】を右手左手に……!!]」


『……ッ!?あれはヤバイ!四神達よ、今すぐにコロシアムに【四獣結界】を!!観客席にいる諸君、衝撃に備えろ!!』


『『『『もう発動準備は終わっている!!!我らの最大の力で今ここに堅強な守りを展開せん……【四獣結界】!!』』』』


 ハーデスが慌てたように四神達へ指示を出した。

 四神達も俺とソフィアの攻撃を恐れてか……【四獣結界】を展開する。

 ……俺とソフィアの【聖断】があるから問題はないというに。

 まぁ、いいか。

 この攻撃で全てが決まる。


「……ハァァァァァァァッ!!これが俺の……全力ッ!全開ッ!だァァァァァッ!!」


[マスターの全力全開は私にとっても同じですっ!……ヤアァァァァァァァ!!!]


 ーーーードォォォンッ!


『衝撃波がこちらまできているんだが!?どれだけの威力を持っているというんだ!!』


『【聖断】を全部で3枚展開していてこの衝撃だと!?諸君、何かに捕まって耐えるんだ!』


 俺とソフィアが拳を突き出すと、拳に込められた魔法が解き放たれた。

 解き放たれた魔力は中央でぶつかり、衝撃波が巻き起こる。

 お互いの力は拮抗しているので、魔法はせめぎあっている。

 ここから先は……どちらがより強い想いを込められるかが鍵となるだろう。


「……ソフィア達に対する想いで……負けてたまるかぁぁぁぁ!!!」


[……なっ!?まだ出力が上がるというのですか!?…………キャァァァァァァ!?]


 俺の想いがソフィアの想いに打ち勝ち、魔法がソフィアを包み込んだ。

 包み込む前に【聖断】を使用しておいたから……致命傷にはなっていないはずだ。


「……危なかった……。ソフィア、大丈夫か?【聖断】を使用したから傷はないと思うが……」


[まさか……想いで負けてしまうなんて……]


 俺の言葉にソフィアは項垂れている。

 まぁ、想いの強さで負けたらハーレムなんか到底無理だからな。

 これだけは負けるわけにはいかない……が、それを言うのは恥ずかしいので心の内に隠しておく。


[……!なるほど……そうでしたか]


「ソフィアさんや。せっかく心の内に秘めておこうと思ったのに、俺の心を読まないでおくれ……」


[私は旭の固有スキルですから。……でも、この勝負は私の負けですね……]


 ソフィアは力なく笑ってそう呟いた。

 俺も動けないが……ソフィアほどではない。

 ……そう思っていたんだが。


『えー……。只今の模擬戦の勝者は……ソフィア君となる!!』


「……は?……はぁぁぁ!?」


 ギルドマスターが告げた勝者はソフィアだった。

 え?

 勝者は俺じゃないの?

 なんで!?


「ギルドマスター!どう言うことだ!?今の流れから勝者は俺じゃないのか!?」


『いや、旭君はマウントを取ってないじゃないか。それに……ソフィア君達の勝利条件は【聖域】を突破するか、かすり傷を負わせること。今の旭君は擦り傷だらけだから、必然的にソフィア君の勝利となる』


「…………そんなのってありかよぉ……」


[旭……?大丈夫ですか……?こんな勝ち方は不本意ではありますが……ご褒美もらえるのが楽しみです]


 ギルドマスターの言葉を聞いた俺は、地面に崩れ落ちた。

 まさか勝利条件を逆手に取られるとは……。


 しかし、ソフィアが嬉しそうな表情をしているのを見て、それでもいいかと思い直した。

 この笑顔を見ることができたのなら……今の試合にも意味はあるはずだ。


 そんなことを考えながら、しばらくの間コロシアムで力の回復を待つ俺とソフィアなのだった。

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