第98話 模擬戦-最終戦 旭vsユミ-


『えー……大変長らくお待たせしました。旭君が召喚したデススネークとハイエンジェルによるコロシアムの修復が完了した為、これより最終戦を始めたいと思う!……一応言っておくが、デススネークとハイエンジェルは本来、普通の人間が召喚できる代物ではない。観客席の皆さんは決して真似をしないように』


『『『誰が真似なんかするかっ!!』』』


『ギルドマスター、そんな人間がいたら今頃巷で騒がれているぞ。さて、最終戦の相手はユミだ。本来はこの世界を管理する低階級の女神だったが、ご主人の魔法により6歳まで時が遡っている。……改めて思うが、女神を仲間にするご主人は規格外だな……。今更なような気もしなくはないが』


 コロシアムからは、ギルドマスターの修復が完了した旨の説明と観客のツッコミが聞こえてきた。

 あの2体を召喚するには……禁忌魔法級のゼウスやナーガと契約する必要がある。

 リスクを冒してまで真似しようとする輩はいないと思うが。


「にぃに……まけないからねっ!」


 俺がコロシアムから聞こえてくる声に呆れていると、ユミが俺の服を引っ張りながら自信満々に宣言してきた。

 ユミは模擬戦前でも緊張はしていないようだ。

 緊張するほどでもないということなのだろうか。


「それは俺のセリフだ。幼いからといって手加減はしないからな?」


 俺としてはちょっとした脅しのつもりだったのだが……ユミは満面の笑みを浮かべている。

 ……?

 何故手加減しないと言われて笑顔を浮かべられるんだ?


「にぃにはそういうけど……またあのすがたにしてくれるんでしょ?だったらまけないもーん!」


「……そういうことね。じゃあ、魔力供給だけ終わらせちゃおうか」


「うん!…………んぅっ」


 俺はユミを抱きしめて口づけを交わし、ユミに魔力を送り込む。

 今回は模擬戦といえども真剣勝負だから……いつもよりも多めに供給しておこう。


「……ぷはっ。魔力供給も終わったから……そろそろ行くとしようか」


「……ぷあっ。ん、わかった!」


 俺はユミを肩車してコロシアムに向かう。

 さぁ……泣いても笑ってもこれが最終戦だ。

 頑張って勝ちを取りに行くとしよう。


 ▼


『おっと、旭君はユミ君を肩車をしての登場か。ハーデス、この試合はどうなると思う?』


『うぅむ……。ユミはご主人の魔力供給とキーとなる魔法を媒介として、発動する特殊スキルで神格が元に戻る。ご主人に限って魔力供給しないということはないと思うが……どんな勝負になるのかは検討も付かん。元の女神の能力を考えると……ご主人が圧倒しそうだが……』


 ギルドマスターとハーデスはお互いの意見を交しあっている。

 だが……ユミのことを少しは見たほうがいいと思うぞ?


「むぅ〜……。にぃにからまほうをうけたときよりはつよくなってるもん……ッ!」


 その証拠にユミはぷっくりと頬を膨らませてプリプリと怒っていた。

 ……というか、【時間遡行】を受けた時の記憶が戻ったのか?

 いや、そういう魔法を受けたという情報が残っているだけかもしれない。


『まぁ、話し合うよりも実際に戦ってもらったほうが早いだろう。旭君達も準備が整ったようだ。……それでは……最終戦を開始する!』


 ギルドマスターが最終戦の開始を宣言した。

 俺は未だにぷりぷりしているユミに苦笑する。


「ユミ、勝負が始まったぞ?魔法を受ける前よりも強くなったというのであれば……それをハーデスに見せつけてやらないと」


「……ん。そうだねっ!ハーデスのおじさんをおどろかせちゃうんだから!」


「機嫌が直ったようでなによりだ。じゃあ……行くぞ?【天降る女神】!」


「…………ッッ!!!」


 俺が【神威覚醒】発動のキーワードとなる魔法を唱えると、ユミの体は光の柱に包まれた。

 ……何故か光の中で変身しているような影が映っているのだが……。

 変身魔法少女のアニメでも見て影響されたのだろうか。


『ふむ……ユミ君は【神威覚醒】の効果が現れ始めたようだ。……ん?ハーデス、どうしたんだ?そんな恐怖に満ちた表情を浮かべて』


『い、いや……。【神威覚醒】する前のユミの表情が……ソフィア殿に似ていてな……。我は何か言ってしまったのか……?』


『それは私に分かるわけがないだろう。……お、ユミ君の【神威覚醒】が終了したようだぞ』


「……自分が何を言ったのかすら分かっていないのですか……。後でソフィアお姉様に報告ですね」


 光の中から【神威覚醒】が完了し、身長が縮んだユミが現れた。

 だが、今回は巫女服ではなく魔法少女のような服を着ている。

 ……どうやらスキルを使用する際に着る服を選べるようだ。


「服装が違うことに驚いたが……今更か。まずは小手調べをするとしよう。……【太陽光照射】!!」


 俺は返信が終わったユミに対して、禁忌魔法の【太陽光照射】を発動させた。

 ゼウスと同じ低階級の女神のままであれば……この魔法は致命的なダメージになるはずだ。


「お兄様……の攻撃でいいんですか?……【聖域】!」


 ユミは手を前にかざして【聖域】を展開し、【太陽光照射】を吸収してしまった。

 どうやら【魔法吸収】を付与したらしい。

 まさか意識的に【魔法吸収】を発動させることができるようになっているとは……。


「【聖域】が吸収できる魔法は……全て私の魔力となりますよ?では、今度はこちらから行くとしましょう。……魔法は多分効かないでしょうから……近接戦闘で行くべきかな……。【神刀小太刀】と【日向政宗ひゅうがまさむね】を私の両手に!!」


 ユミが魔法を唱えた途端、神々しい小太刀と短い日本刀が両手に出現した。

 ……日本刀の方は……短剣か。

 確か日本で国宝として飾られていたはずだが……。

 俺の【鬼切丸国綱】と同じ要領で創造したのだろう。


「以前ステータスを確認した時は攻撃の値が低かったが……。俺の魔力で強化されているんだっけ?」


「えぇ、その通りです。敏捷以外の能力値は約10倍となっています。敏捷は……なぜか20倍なのですけれども。それよりも……お兄様は準備しなくて良いのですか?」


 ユミは小太刀を逆手で持ち直しつつ、俺にそんなことを尋ねてきた。

 ステータスが10倍ということは、ほぼ俺と同じ能力ということになる。

 それは置いておくとして、ユミは準備と言っていたが……太刀だと双剣に対して不利なんだよなぁ……。


「んー……さすがに武器無しはきついか……?それなら……【形状変化】を付与。【魔王の洗礼】!」


 俺は魔法を空中に発動させた。

 発動したのは【魔王の洗礼】だが……形状を光の剣に変化させた。

 その数24本。

 ソフィアが【森羅万象】を剣状に変化させたのをみて創造した【形状変化】。

 この魔法による効果のおかげで、戦術の幅がグッと増えた。

 これならユミの双剣にも対応できるんじゃないだろうか


「……なるほど。ソフィアお姉様と同じタイプの剣ですか……。しかし……全て打ち落とせばいいだけのことです!……いきますよ、お兄様!」


「さて……どれだけ動かせるかな……。いけっ、光の剣よ!!」


 そう宣言したユミは大地を蹴って、俺に突進してきた。

 敏捷が強化されたと言っていたが……それでも俺には劣る。

 そう思って光の剣をユミに向かわせたのだが……。


「お兄様!そんな単調な攻撃じゃ当たりませんよッ!!」


 俺としては単調な攻撃をしたつもりではなかったのだが、ユミには単調な動きに見えたらしい。

 ユミはニヤリと笑った後、回転斬りを行いながら光の剣の攻撃をすり抜けた。

 え、何その技。

 M◯Wで見たことある気がするんだけど……。


「どこでそんな技を覚えてきたんだ……。じゃあ、こうするとしよう。【魔王の洗礼】をオートモードに設定……。ここからは俺も突撃させてもらうぞ」


「望むところです!」


 俺は光の剣をオートモードで動くようにし、そのままユミに向かって飛び出していった。

 ユミは様々な角度で飛来する剣を捌きつつ、俺の挙動に注目しているようだ。


「さて……ユミはこれを捌ききれるか……?……【魔力分身×5】!!」


「くっ……!?【狂愛】と【身体強化】を同時に……!」


 俺と分身が襲いかかり、その隙間を縫って光の剣がユミに向かっていく。

 光の剣を足場に縦横無尽の連撃。

 普通の人間であれば5秒と持たないだろう。

 しかし、ユミは【狂愛】と【身体強化】を同時展開することで、攻撃をぎりぎりで捌いていた。


「さすがはお兄様……。本当に容赦ないですね……ッ!!」


「ルミア以外に負けたとなったら俺の強さが伝わらないからな!最終戦ということもあるし……手加減してもらえると思うなよ!?」


『『『いや、あんたの強さはもう十分すぎるほど理解したんだが……』』』


 ……観客席からそんなボヤキが聞こえてきたが……聞こえないふりをする。

 というか、嫁のほとんどに負けるということに俺が耐えられないんだ。

 俺は【紅き鎧】を発動させ、さらにスピードを上げていく。

 分身は攻撃を誘導するための囮として使用する。


「……おッ、お兄様!【紅き鎧】でさらなるバフをかけるのは大人気ないと思わないのですか!?」


「試合開始前に言っただろ?幼くても手加減はしないと……な!」


 俺はそう言いながらユミに近づいていく。

 流石にこの距離まで近づかれたら反応はできまいて!!


「……同じ能力だと言わなければよかったですね……ッ!ただ、お兄様。私には翼があることをお忘れではないですか!?」


 そう言ったユミは天使の羽を広げて急上昇していった。

 一度体制を整えるらしい。

 かなりの速度で高度を上げていくユミを見上げながら、俺は不敵に笑った。


「ユミに天使の羽があるのを忘れていたのは事実だ。だが……俺にはがある」


『……!?旭君の姿が一瞬にして消えたぞ!?何か魔法を詠唱していたか!?』


『落ち着け、ギルドマスター。ご主人は詠唱しなくても魔法の発動ができる。それはソフィア殿の試合でわかったのではなかったのか?……それにご主人はあそこにいる』


 俺の姿がいきなり消えたことに驚いているギルドマスターに呆れつつ、ハーデスはある方向を指差した。

 ハーデスの姿は見えていないが、急上昇中のユミもハッとした表情で俺の方を見た。


「……転移魔法……ですか……。座標軸の固定が必要だと思いましたが……いつの間に?」


「ハーデスも言っていただろう?俺は詠唱しなくても魔法の発動が可能だって。ユミの真上に行くイメージさえすれば問題はないんだよ」


「それは……チートすぎますよ……。でも、どうするのですか?空中であれば、羽があって機動力の高い私が有利だと思いますが」


 ユミは天使の羽を一度羽ばたかせて空中に停滞する。

 正直機動力は俺の方が高いとは思うが……あえて何も言わないでおくとしよう。

 俺は黙って魔力を体の外に放出させた。


「この一撃で仕留めれば問題はないだろう?……【神威解放】」


「……ッ!最後は魔法でケリをつけるということですか!……いいでしょう。お兄様に強化された女神の力……存分に味わってください!」


 俺は【神威解放】で能力値をさらに強化する。

 ただし、今回は【魔神王の洗礼】は使わない。

 使った瞬間に落下して……また俺の負けが決まってしまうからな。

 そして、ユミが落下してしまった時のための保険も準備しておく。


「じゃあ……今回はこの魔法で決着をつけるとしようか……。【終焉の極光】!」


「レーナお姉様とリーアお姉様が2人で創造した魔法ですか……。では、私は今放てる最大の魔法で迎え撃ちましょう。……【神の裁き】!!」


 俺とユミはほぼ同時に魔法を発動させた。

 極光と雷が空中でぶつかり合う。

 本来であれば【神の裁き】が打ち勝つだろう。

 だが……。


「…………!?【終焉の極光】の中から光の剣が!?」


「実はひっそりと展開していたんだ。【魔王の洗礼】の【形状変化】を解除!それに伴い……2つの魔法を融合させる!……名付けて【終局ノデッドエンド・輪舞曲ロンド】!!」


 剣から元の状態に戻した【魔王の洗礼】と【終焉の極光】は互いに交差しながら、【神の裁き】を打ち破ろうとその勢いを増し始めた。

 雷は徐々に押し負け始める。


「あーぁ……。やはり今の私ではお兄様に勝つことはできませんでしたか……。遡る前よりは……強くなれたと思ったのになぁ……。やっぱりまだには勝てないか」


 ユミは【終局ノ輪舞曲】に飲み込まれる寸前にそんなことを呟いた。

 ……やっぱり【時間遡行】する前の女神の記憶が戻っていたのか……?


「お、おい、ユミ!今の話を詳しk「キャァァァァァァ!!」……クソッ!攻撃を受けて落下しちまった!……間に合えっ!!」


 詳しく話を聞こうと思ったが、【終局ノ輪舞曲】の攻撃を受けたユミは地上へと落下を始めてしまった。

 俺は【翡翠の鎧】を展開し、空に緑色の00を描きながら急降下していく。

 かなりのスピードを出したためか、ユミに追いつくのは容易かった。


「ユミ、大丈夫か!?【完全回復】!!!」


 俺は慌てて【完全回復】をユミにかける。

 大きな怪我がないのはわかっているが……気絶している状態を早く治したかったからだ。

 ちなみに【神の裁き】を放った影響で、【神威覚醒】の効果は切れている。


「……んぅ?あ……にぃに……。どうしたの?そんななきそうなかおをうかべて……」


「ユミ!大丈夫か!?怪我はないか!?」


「けが……?けがはないよ……?……そっか。ユミはにぃににまけちゃったんだね」


 ユミはそうポツリと呟いた。

 てっきり泣くかと思ったが、そんな気配は今のところ見られない。

 それよりも確認したいことがあるんだった。


「ユミ……。さっき俺の攻撃を受ける前に言っていたことを覚えているか……?」


「にゅう?ユミ、なにかいったっけ?」


 どうやらユミは先ほど言っていたセリフを覚えていないようだ。

 ……記憶が完全に戻ったと思ったが……俺の気のせいだったのかもしれない。

 だが、しばらくは注意して見守ったほうがよさそうだな。

 そんな考えを頭の隅に置きつつ、俺はユミの頭を優しく撫でた。


「……覚えていないのなら無理に思い出そうとしなくても大丈夫だ。帰ったら……ユミの好きなものを作ってやるからな」


「ほんとう!?わ〜い!にぃにのつくるごはんひさしぶりだから、すっごくうれしい!!」


 ユミは俺の言葉に満面の笑みを浮かべた。

 ……程なくして、俺とユミはコロシアムに降り立った。


『ユミ君は旭君に抱かれている……ということは!最終戦の勝者は旭君だ!!』


 ギルドマスターの模擬戦の終わりを告げる声を聞きながら、俺とユミは控え室に戻っていくのだった。


『……ご主人?どうして我は連行されているのだ?まだ解説としての仕事があるんだが……。……お、おい!我の話を無視しないでくれ!』


 ……もちろん、ハーデスを連行して……である。

 ユミに対しての発言は……許容範囲を超えていたからな。

 ソフィアにもう一度その精神を鍛え直してもらうとしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る