第90話 旭はコロシアムを建築する
模擬戦で戦う順番を話し合ってから……2日後のお昼12時過ぎ。
俺達は再びギルドマスター室を訪れていた。
ソフィア曰く、観戦者の統計が終わったからいくべきだと言われたのだ。
ちなみに今回冒険者ギルドに来ているのは俺とルミア、ソフィアの3人。
レーナとリーア、ユミは話がわからないと思うからという理由で、買い物に出かけている。
ハイエンジェルとデススネークに【透明化】をかけて護衛させてるし……大丈夫……なはず……。
「なぁ、ソフィア。ギルドマスターからの連絡はなかったと思うんだが……。どうやってその情報を知ったんだ?」
[簡単なことですよ?冒険者ギルドのパソコンにハッキングをかけて、監視カメラなどの情報を逐一確認できるようにしたんです]
俺は疑問を投げかけたんだが……ソフィアはとんでもないことを言い出した。
冒険者ギルドのパソコンにハッキングをかけた!?
それならギルドマスターから連絡がなくても情報を知っているはずだわ……。
下手をすると……というか、下手をしなくても犯罪行為である。
この世界に警察がなくてよかった。
警備兵では機械関係のことについては調べないと思うしな。
「……ハッキングするのはいいんだが、他所様に迷惑をかけることだけはやめてくれよ……?」
[もちろんですよ。旭に敵対しない限りはそんなことしません]
「いや、敵対していても一度は俺に相談してくれ。……っと、着いたか」
俺はソフィアに苦笑を浮かべつつ、ギルドマスター室のドアをノックする。
「旭だ。ギルドマスター、いるか?」
『中にいるよ。そのまま入ってきてくれ』
ギルドマスターからの許可を得た俺達3人は室内に入っていく。
部屋の中ではギルドマスターがお茶菓子とお茶を準備して椅子に座っていた。
……以前よりもお菓子の量が多いのは……ユミへの配慮だろうか。
今日はいないんだけどな。
「よくきてくれたね。連絡はこれからしようと思っていたんだが……。いや、考えるのはよそう。……ん?今日はレーナ君達はいないのかい?」
「あぁ、レーナとリーア、ユミの3人は買い物に行ってもらっている。お菓子を準備してもらったのに悪いな」
「いやいや、それは問題ないよ。私達の話はユミ君には難しい話だと思うからね」
ギルドマスターはそう言ったが、若干寂しそうだ。
満面の笑みでお菓子を食べるユミの姿に癒されていたのだろう。
……なんというかお爺ちゃんという感じだな。
ユミはやらないけど。
[では、早速本題に入りましょう。ギルドマスター、私達が模擬戦を行う時にやってくるであろう人数を教えてください]
ユミがいなくて寂しそうにしているギルドマスターを横目に、ソフィアが話を切り出した。
ソフィアは俺と情報を共有しているから、さっさと話し合いを始めようとしてくれたのだと思う。
「あ、あぁ。そうだな……。今回の模擬戦で観戦希望した人数だが……ウダルの総人口の3/4……2万人となった」
「……は?2万人?この街の総人口ってそんなに多いのか!?」
そんなに人口が多い街だなんて知らなかったぞ!?
せいぜい総人口1万人くらいだと思っていたんだが……。
「まぁ、旭君が知らないのも無理はないさ。いろんな出来事があったが……旭君がこの街にきてまだ2ヶ月も経っていないのだし。ウダルは王都と比べて3番目くらいに大きい街なんだよ」
俺が衝撃の事実に驚いていると、ギルドマスターは苦笑しつつも補足の説明をしてくれた。
というよりも、俺がウダルに来てからまだ2ヶ月経っていなかったのか……。
もう半年くらいはここで過ごしている気になっていたわ。
[旭がそう考えてしまうのは密度の濃いイベントが頻繁に発生したからだと思いますよ?]
「ソフィアさんの言う通り……1つの出来事の内容が濃かったですからね……。旭さんが勘違いするのも仕方ないかと」
俺の心を読んだソフィアとルミアが俺の側によってきて頭を撫で始める。
……ソフィアが心を読めるのは俺のスキルだからなんだが、ルミアまで読心術を入手したのだろうか?
いや、多分俺のことならなんでもわかりますよとか言ってきそう。
「……いつの間にやら桃色の空間が形成されているんだが……。ゴホン。旭君、話を戻してもいいかい?」
俺がソフィアとルミアに頭を撫でられていると、苦笑を浮かべたギルドマスターが話題を修正しようと声をかけてきた。
というより……桃色空間ってなんだ。
某作品の主人公とヒロインみたいに無意識のうちに3人の世界に入りきっていたと言うのか……?
まさか自分が指摘されるとは思わなかった……。
「すまない。……それで、観戦者の数が2万人と言うことだったな。ソフィア、この人数だとコロシアムの大きさはどの程度になる?」
[そうですね……。正直想定の範囲内ですので、旭が創造した家より若干狭い程度で問題はないかと。天井は高くしておく必要はあると思いますが]
俺の質問にソフィアは間髪いれずに答えてきた。
レスポンスが早いのがソフィアのいいところだな。
ソフィアは創造した家より若干狭いと言ったが、かなりの大きさになるのではないだろうか?
「……ん?ソフィア君の言う通りだとすると……旭君が建築した家ってどれくらいの大きさなんだい?」
「あー……。ギルドマスターはまだ俺の家を見てなかったっけ。じゃあ、今から向かうとしよう。仕事は大丈夫か?」
「あ、あぁ……。それについては問題ないが……今から?……なんか嫌な予感がするんだが……」
ギルドマスターは……血の気の引いた表情を浮かべる。
この間拉致した時、空中飛行したのがトラウマになっているのだろうか。
俺は安心させるようにギルドマスターに微笑む。
「大丈夫大丈夫。今回は【長距離転移】で家に帰るから。……ただ転移酔いされても困るから……拘束はさせてもらうけど。……ソフィアッ!」
[Yes,My Master。【狂愛ノ束縛】の対象をギルドマスターに設定……。続けて【聖域】をギルドマスターの周囲に展開します。【長距離転移】の範囲からは漏れていないので、問題なく転移できるかと]
俺に名前を呼ばれたソフィアは、ギルドマスターを【狂愛ノ束縛】で拘束した。
……え?【狂愛ノ束縛】は俺専用の拘束魔法なんじゃないのかって?
俺に対しては神霊魔法級の威力を発揮するが、他の人にも使うことはできるぞ?
効果は下級魔法ほどに下がってしまうけどな。
「……なんで毎回拘束するんだい?」
「「[暴れられたら困るのと、転移で酔って吐かれても困るので]」」
「あぁ……そうかい……。まぁ……抵抗はしないけどさ」
ギルドマスターは諦めたようにうなだれた。
まぁ、念のための処置と言うことで理解してほしい。
「じゃあ、家に帰るとしようか。座標軸固定……【長距離転移】」
俺はうなだれたギルドマスターの服を掴んで、転移魔法を発動させた。
▼
「……ソフィア君の話からだいぶ大きいのではないかと思っていたが……ここまでとは聞いていないぞ!?冒険者ギルドと同じ規模の大きさじゃないか!!」
我が家に戻ってきた俺達だったが、拘束を解除されたギルドマスターがなにやら叫んでいる。
冒険者ギルドと同じ規模というか……下手したら俺の家の方が大きいまであるんだよなぁ……。
「落ち着け、ギルドマスター。コロシアムを創造するにここら辺の土地を使用したいと思うんだが……費用とか大丈夫か?あんまりお金は使いたくはないんだが……」
「それに関しては問題ないだろう。というか、こんな焼け野原の状態で土地の価値があるとは思えないしな。何か言ってきたとしても、冒険者ギルドが後ろ盾になれば問題はないだろう」
ギルドマスターの言葉に内心ホッとする。
もし、お金が必要だとか言われたら稼ぎに行かなくちゃいけないからな。
できる限り面倒なことはしたくない。
[では、冒険者ギルドが後ろ盾になってくれることも確認しましたし……。早速【クリエイト】しちゃいましょう]
「それもそうだな。後々何かを言われるよりかは……さっさと創造してしまった方がいいだろう。……ソフィア、コロシアムの内部構築などの細かい設定を頼みたい。悪いんだが、一度俺の身体の中に戻ってきてくれないか?」
俺はソフィアにそうお願いする。
家の創造までならなんとかなる。
しかし、コロシアムとなると【叡智のサポート】であるソフィアの助けがないと厳しい。
ライトノベルやそのコミカライズで外見はイメージできるが、内部は全然わからないからな。
[旭の中に戻るのは久しぶりですね……。しかし、これも旭のため。全力をもってサポートしましょう!]
ソフィアはそう言って光の粒子となった。
どうやら俺のスキルとして戻るときには粒子になるらしい。
ーーーー[My Masterとの同調の完了を確認。続いて【叡智のサポート】の権限を解放します]
俺のスキルに戻ったソフィアの声が周囲に響き渡る。
……よし、これで準備はできた。
後は……俺の全力を持ってコロシアムを創造するのみ!
「【叡智のサポート】ソフィアに告ぐ。久しぶりの連携作業だ。まずはバフをかけていくぞ」
ーーーー[Yes,My Master。各種バフスキル並びに魔法の再確認を行います。……【狂愛】、【憤怒】の発動は完了。【悲哀】は……対象となる感情が読み取れないため使用できません。【悲哀】の代用として【色欲魔人】を使用します……All clear。続けて魔法の使用を開始します……]
俺の命令を受けて、ソフィアがバフがかかる魔法とスキルの使用を開始する。
今回は【悲哀】が発動しなかったみたいだが……今はそう言う感情が湧いてこないから仕方がない。
それ抜きでも問題はないだろう。
ーーーー[……【紅き鎧】の発動を確認。現在旭が使用できる魔法とスキルの発動が完了しました。続けて【神威解放】を行います。使用する際のデメリットの消去を開始……complete。【神威解放】発動します]
そんなことを考えていたら、いつのまにか【神威解放】されていた。
確かあの魔法は身体年齢が退化したような気がするのだが……それはソフィアが消去したらしい。
デメリットを消去するって……どんだけだよ。
「まさか俺自身が【神威解放】を体験することになるとは思わなかったわ……。ソフィア、今の俺は……存在としてはどうなるんだ?」
ーーーー[旭の場合は神格の付与ですけどね。今の旭の存在ですか……至高神といったところでしょうか?]
「いやいやいや……人間が至高神になるって普通じゃないよな……?どことなく後光が射してるし……」
ソフィアの言葉にギルドマスターがありえないと首を横に振っている。
いや、気持ちはわかるが……ソフィアがそう言うんだから仕方ないだろう?
聞いた俺自身、神になってるとは思わなかったが。
ーーーー[旭、準備は全て整いました。客席などの内部構造は私が全て請け負いますので、どういう外見にするのかだけイメージしてください]
自身の存在について考えているのを感じたソフィアは、俺に対してそう言った。
……俺の存在については暇なときにゆっくり考えればいいだけか。
今は、己の全力を持ってコロシアムを創造しなくては。
「すまん、ボーッとしていた。コロシアムの外見のイメージはすでにできている。……【クリエイト:コロシアム】!!」
ーーーー[【クリエイト】の発動を確認。旭の魔力に合わせて、内部構造を構成します]
ーーーーズドン。
俺が魔法を発動させた途端、大気が震えた。
……創造するときにズドンなんて音が鳴ったことあったか……?
どうやら音の正体は光の柱だったらしい。
極太の光の柱が俺の目の前に広がっている。
「……旭君が規格外なのは知っていたが……これはヤバすぎるだろう……」
光の柱が消えた後、ギルドマスターがポツリと呟いた。
……うん、外見のイメージはしたが……。
まさかこうなるとは……。
俺はそう思って改めてコロシアムを眺めた。
光の柱が消えた後には異世界転生ものでよく見るような中世風のコロシアムが創造されている。
いや、無事に創造できたのはよしとしよう。
たださ……かなり大きいんだよ。
東京ドームを縦に3つは重ねたくらいの大きさはあるんじゃないだろうか。
[……ふぅ。流石にここまでの建物となると少し疲れますね]
ソフィアはそう言って、再び人間の姿となった。
「いや……あれは大きすぎだろう。バフを全開にするのは控えたほうがよさそうだ……」
ソフィアの頭を撫でつつ、俺はそうぼやくのだった。
……ルミアの優しい視線が妙に心にくるのはなんでなんだろうな……。
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