第91話 旭一行はコロシアムの中を確認する
「……パパ、なんかおっきい建物ができているんだけど……これは?」
「お兄ちゃん、なんでそんな疲れたような顔をしているの?そんなにコロシアムの創造に力を使った?」
「あ、おじちゃん。きょうはおかしあるー?あるならちょうだいー」
買い物から帰ってきたレーナ達の第一声はそれだった。
レーナとリーアはコロシアムの大きさに驚いているようだが……ユミはギルドマスターにお菓子をねだっているようだ。
……べ、別に嫉妬はしていないぞ?
だが……ギルドマスターには洗礼を受けてもらうとしよう。
「…………【無間地g」
「待て待て、落ち着いてくれたまえ!!別にユミ君を取ったりはしないから!!だからその物騒な名前の魔法の発動はやめてくれ!!名前の響きからして嫌な予感しかしない!!……ユミ君、お菓子は今ないからお兄ちゃんのところに戻りなさい……いや戻ってくださいお願いします」
「おかしないの?じゃあ、いいや。にぃに〜、レーナおねえちゃんとリーアおねえちゃんとのおかいもの、たのしかったよ〜!」
俺が新しい魔法を試そうとしていたら、ギルドマスターが慌ててユミを俺のところに向かわせた。
ユミ自身もお菓子がなければギルドマスターには興味がないようで、俺の体に抱きついてくる。
ギルドマスター……命拾いをしたな。
俺は溢れ出る殺気を霧散させて、詠唱寸前だった魔法を終了させる。
「……よかった……なんとか生き延びることができた……」
ギルドマスターは深くため息をついた。
……別に生死に関わる事じゃないんだけどなぁ。
ただ生きているのが苦痛な程の責め苦を受けるだけで。
「まぁ、それは横に置いておくとして。レーナ達の買い物は終わったのか?」
「うん、買い物は問題なく終わったよ。……というか、スムーズにいきすぎて逆に変だった気もするけど」
「…………ビクッ」
レーナの言葉にギルドマスターが身体を震わせた。
ははぁん?……これは冒険者ギルドがなにかしたな……?
まぁ、心配事もなく買い物を任せられるのはありがたいんだが。
「それでお兄ちゃん。こんなに大きいコロシアムを創造したということは……かなりの人数がくるってこと?」
「そうなるな。ギルドマスターの話だと……2万人程くるらしい」
「えぇ!?そんなに来るの!?……なんか緊張してきた……」
俺の言葉を聞いたリーアは、コロシアムに集った観客の視線を想像して身体を震わせた。
まさかそんなに集まるとは思っていなかったのだろう。
俺もギルドマスターから聞いたときは驚いたからな……。
[大丈夫ですよ、リーア。今回やってくるのは旭や私達の実力を知らない者ばかり……。この街の女性達に旭を渡さないっていう意気込みを見せればいいだけです]
「……確かにそう考えると緊張がなくなってきたかも。……ふふふ。お兄ちゃんに近づいて誘惑するような女が現れないように……全力を出さないと……!」
緊張しているリーアを見たソフィアが緊張をほぐそうとしたが、リーアの【狂愛】を発動させるだけの結果に終わったようだ。
……まぁ、緊張は解れたみたいだから結果オーライかもしれない。
全力を出しても受け止めるのは俺だしな。
「ねぇねぇ、にぃに!ユミ、あのなかにはいってみたい!!」
「あ、それは私も思った!ねぇ、パパ。内部の状態を確認するためにも今から行ってみない?」
ユミが俺の服をくいくい引っ張って、コロシアムの中に入りたいと要望してきた。
レーナも中身が気になっていたらしく、ユミ同様服を引っ張って上目遣いで見つめてきている。
……その上目遣いはやっぱりずるいなぁ……。
「……ソフィア。あれほど大きなコロシアムを創造した後だが……内部に入ることについては問題あったりするか?」
[いえ、問題はありませんよ。神格が付与された旭が初めて使用した【クリエイト】なのです。今までの建築物よりもはるかに安全で強固ですよ]
俺の確認にソフィアはドヤ顔で応じた。
いや、神格が付与されていたからかは知らないけど。
あぁ、もう!
ドヤ顔しているソフィアもかわいいなぁ、おい!
「ソフィアからの確認も取れたし……今から中に行こうか」
「「やった!!」」
「ちなみに……上からと正面入り口。入るとしたらどっちがいい?」
「「うえ!!」」
コロシアム内部に入れることがわかったレーナとリーアはぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜んだ。
それにしても……冗談で上からと言ったんだけどなぁ。
まさか即決されるとは思わなかったよ。
「あ、旭君。私は正面入り口から入ってもいいかい……?」
「いや、入る分には構わないが……多分迷子になるぞ?内部を構築したのはソフィアだし。それに今回は重力魔法を使うから安心してくれていい。今回は・拘束もしないし」
[ですね。初見でコロシアムの広場まで向かうのは無理に近いでしょう。旭と一緒に上から入ることをオススメします]
「今回「は」って言わなかったかい!?それは逆に安心できないんだが!?」
俺に拘束されて空を飛ばされると思っての提案なんだろうが……却下だ。
今回はユミもいるから安全策を取るつもりでいるし。
故に今回「は」拘束しないのである。
次は拘束するのかって?それは……ギルドマスター次第かなぁ。
「みんな集まったな?……【クリエイト:絨毯】。か〜ら〜の〜【重力飛行グラビテーション】」
俺は他のメンバーが周りに来たのを確認してから、2種類の魔法を行使した。
1つはお馴染みとなった【クリエイト】。
今回は大きな絨毯を足元に創造した。
そして2つ目は……禁忌重力魔法の【重力飛行】。
対象に飛行能力を付与してくれる魔法だ。
この2つが合わさることで魔法の絨毯が完成する。
「にぃに!おそらとんでる!!すごい、すごい!」
空を飛んだ絨毯に大興奮のユミ。
喜んでくれてるのはわかるが……絨毯の上で飛び跳ねるのは危ないからやめような?
俺は無言で【空間固定】を絨毯の周りに展開する。
即席の結界だが……、絨毯から転落してしまうことは避けられるだろう。
「…………うぅ……」
だから……ルミア?
そんな涙目で俺に抱きつかないでも大丈夫だから。
というか……嗜虐心を覚えちゃうから落ち着いてくれ。
▼
ルミアの意外な一面を見た俺達は、無事にコロシアムの中央に降り立った。
当のルミアは真っ赤な顔をして、コロシアムの隅に体育座りをしている。
……しばらくはあのままにしておいてあげよう。
ちなみにレーナとリーア、ユミのロリ3人は、ユニコーンに乗ってコロシアムの中を駆け回っている。
あの3人に難しい話はできないからなのかもしれない。
いや、ただ単に駆け回ったら楽しそうだなぁ……と思っただけだな、うん。
「旭君、外見もすごかったが……コロシアムの中も広いな。コロシアムの中央がこんなにも広いとは思っていなかったよ……」
ギルドマスターはコロシアムをグルリと見てそう呟いた。
俺達が模擬戦を行う予定のコロシアムの中央は、俺がインターネットで見たものよりもかなり広いものとなっている。
四神を全員召喚しても有り余る広さ……といえば理解してもらえるだろうか?
しかし……広いとはいえども、上から飛んできたときはここまで広くなかったはずなんだが……。
どういう理屈なんだ?
「ソフィア、なんか空中で見たよりも広くないか?何か仕掛けでもしてある?」
[おや、もう気づいてしまいましたか。実はこのコロシアムの内部ですが、時空間魔法でさらに大きくしているのです。外から見た時の2倍の大きさはあるでしょうか?これだけあれば、観客席に流れ弾が当たる心配はないでしょう。まぁ、コロシアムと観客席の間には【聖断】が展開されるので問題はないのですが]
「……時空間魔法かぁ。それを使用していればこの広さにも納得だよなぁ……」
俺の質問にソフィアは至極当然だと言わんばかりに俺の顔を見た。
改めてコロシアムの周囲を見た俺はため息をつく。
時空間魔法にこういう使い方があるのなら【無限収納】の簡易版も作成できるかもしれない。
「旭君。ソフィア君の説明だと、他の内部も時空間魔法でかなり広くなっているんじゃないかい?観客を問題なく誘導するためにも、何か案を講じたほうがいいかもしれない」
ギルドマスターが真剣な表情を浮かべて俺の方に歩いてきた。
確かにコロシアムの中央がこんなに広いなら……入り口からここまでの距離もかなり長くなっているだろう。
それは考慮していなかったな。
「ソフィア、コロシアムまでの道のりってどうなっているんだ?」
[そうですね……中央に合わせて内部を構築したので……。正面入り口から観客席まで徒歩で30分くらいでしょうか?]
「いやいやいや、30分はかかりすぎだろう!?」
結構遠いだろうなとは思ったが……30分はかかりすぎだ。
そんな長い距離を歩いたら模擬戦を観る前に疲れてしまうかもしれない。
ギルドマスターが意見を出してくれてよかった。
「流石にそれは長すぎるな。正面入り口から少ししたところに、転移の術式をセットしないか?転移先は観客席にすれば問題はないと思うが……」
[……確かにそうですね。では、観客席をいくつかに分けて、そこに転移できるようにしましょうか。観戦者の誘導は……冒険者ギルドの職員に任せたいのですが、よろしいですか?]
「ふむ……それが適任だろうな。観客の誘導は私達冒険者ギルドに任せてくれ」
俺が提案した意見が通り、正面入り口に近いところに転移の術式がセットされることになった。
これで観客の誘導もスムーズに行くことだろう。
それを行うのは冒険者ギルドの職員が行うことになったが、反感が出ないことを祈るとしよう。
「じゃあ、転移の術式をどのようにセットするかも検討するか……。レーナ、リーア、ユミー?これから内部に行ってくるから、ここから離れないようになー?」
「「「はーい」」」
俺はレーナ達3人に離れることを告げて、ルミアを呼びに行く。
ルミアはまだ体育座りをして尻尾で地面をピシピシ叩いていた。
「ルミア、そろそろ機嫌を直してくれないか?」
「旭さん……。私は……一度だけではなく2回も醜態を晒してしまいました……。恥ずかしくて穴があったら入りたいです……」
うぅむ……。
予想以上にダメージが大きいようだ。
どうするかなぁ……。
「……ルミア。俺はいろんなルミアの一面を知ることができてとても嬉しかったぞ……?他の人間の視線なんて気にする必要はない。俺だけを見ていてくれないか……?」
俺はルミアに耳打ちをした。
キザなセリフに背中がゾワゾワするが……ルミアのためだ。
これでルミアが元気になるなら……俺は羞恥心を捨ててやる。
「……わかりました。他の人間の視線は気にしないことにします。……恥ずかしいのを我慢して嬉しいことを言ってくれたお礼です。……ん」
ルミアはそう言って俺に口づけをしてきた。
フレンチキスというやつだ。
……というよりも。
俺が恥ずかしいのを我慢していたことをわかっていたなら、もっと早く復活してくれ……。
まぁ、ルミアの猫尻尾がブンブンと勢いよく振られているから、内心はかなり喜んでいると思う。
俺はそんなルミアの頭を撫でつつ、先にコロシアムの内部に入っていったギルドマスターとソフィアを追いかけたのだった。
……さてと。円滑に模擬戦を行うために、もうひと頑張りしようじゃないか!
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